衝撃の事実……!
木漏れ日のキラキラと輝く午後。
川にけぶる水飛沫の中──
私は滝に打たれていた。
「ほばぁあぁぁぁぁっ!!!!」
「チッ……」
私の雄叫びに、隣で滝に打たれているイーサンが舌打ちをする。
「どうにかならんのか! その雄叫び!! お陰で全然集中できんわ!」
「うるせー! 七光り!! 見てみろ飛沫で出てきたお仲間を! 良かったなぁ陰キャ! お友達ができて」
「脳内にしか友人がいない貴様に言われたくないわ!!」
今私達は魔力で周囲の水を操り、滝の圧を分散させる修行をしている。
賢者様曰く『気体を操るより水のがラクだから』だそう。
『全身に一滴も水がかからないようになるまで戻ってくんな』と、そのまま放置されている。──鬼である。
そもそも賢者様は鬼であった。
魔力操作についても甚だいい加減な説明しかせず、『一を聞いたら十読み取らんかい!!』と言い放置。基本的に放置。
放置され再び熊に襲われた時は、今度は本当に死ぬかと思った。
そもそもふたりを一緒にしたのは、私が魔力を取り込んで溜め込み、イーサンが魔力を放出する、という元来の体内における性質からであり……
それを利用し互いに魔力をやり取りさせることで、一度に限界以上まで修行が出来るからだと知る。
これを鬼と言わず、なにを鬼と言うのか。
そして──
「森羅万象に宿りし力よ、我の肉体を以て盾となり、降り注ぐこの禍から解き放て!! ……今こそこの身に祝福を! 『滅散無水』!!!」
イーサンは相変わらず厨二である。
……でも水は弾いた。
「ふっ……」
ヤツは物凄いドヤ顔で私を一瞥した後、
「俺としたことが……迂闊にも獣の声に気を取られてしまったせいで、これしきのことに思いの外時間を割いてしまったな」
──等と宣う。
イーサンは(長ったらしい詠唱はともかくとして)魔力操作に長けている。高度な魔法を使えるようになるのも時間の問題だろう。
一方で私はいつまで経っても上手くならないので、大概このパターンだ。
「すっかり嫌味も上達したなぁ、日々の長ったらしい詠唱が役に立ってて良かったね!」
「貴様は負け惜しみが上手くなったな(ドヤァ)」
「うるせっ! 散々魔力切れで倒れたお前に誰が魔力を注いでやったと思ってる?!」
そう……代わりと言ってはなんだが、私はイーサンに魔力を渡すことが圧倒的に多い。
そして何故か、私は課題をクリアできなくても終わりにさせられることが多い。
不本意だ。
私はイーサンのモバイルバッテリーに非ず。
「まあ仕方ないから待ってる間に食事の準備をしといてやる。 もう昼は大分過ぎてるしな……」
そのせいか、イーサンはなんだかんだでフォローはしてくれている。
「今日は魚ね! 燻製は嫌! とれたて新鮮なヤツよ!」
「注文の多いヤツだな……」
あれから1年は本当にあっという間に過ぎ、既に2年と経ち、3年目も半分にさしかかっていた。
来年はとうとう学園生活が始まる。
イーサンは変わらず厨二ではあるが、大分逞しくなった。
ひょろいはひょろいが、ヒューゴー様に鍛えて頂き筋肉も着実につけている。もともと背が高いので同年代の子らより、はるかに大人っぽい見た目になった。
それに関しては私も負けていない。
なんと身長は最初の1年で10cmは伸びた。
人体構造上1年で伸びる身長は7cm程度らしい。この地は私に合っていたようで、賢者様の管理している森も原因のひとつの模様。
おねだりへの危機感は当たっており、あっという間に9歳らしい身体になってからは、普通に少しずつ成長している。
幼女の裏技は封じられたものの、溜め込んだ魔力がどれだけ上手く循環したかを父に見せつけることができ、『ヒューゴー様のお嫁さん♡』という私の野望にまた一歩近付いた。
今年13になる私の身長は既に、女性平均より若干高いレナと同じくらいまで伸びている。
しかも厳しい鍛錬に堪え、引き締まった肉体……女性的とは言えないが、かなり気に入っている。
いずれ腹筋を6つに割りたい。
私には最早『乙女ゲームのコリアンヌ』は欠片も見当たらない。
──と、言いたいところだが……何故か未だに血は吐く。謎。
「つーかお前、まだヒューゴー卿のところにいるのか?」
焼いた魚の串を私に差し出しながら、イーサンはジト目で私に尋ねた。
「当たり前でしょ。 ……ははぁん、さては羨ましいのね?」
「誰が。……早く出ろよ、ご迷惑だろ」
「なにを今更。 どのみち来年は寮だわ」
「……出た方がいい」
妙に真面目な顔をしてイーサンは言う。
──はっ!もしかしてコイツ私のことを?!
──一緒にいた時間が恋心を産んじゃったかしら!
──ヒャッハー! 罪作りな女でやんす!!
──ここはスッパリと終止符を打ってやるのが漢ってモンですぜ!!
知らないうちに微妙に脳内舎弟が増えていたが、そんなことは今問題ではない。
すっかり忘れていた私の主人公力が、よもやこんなところで開花しようとは──!!
「……なんか碌でもない想像してないか?」
「えっ」
「まあいい、とにかくヒューゴー卿はやめておけ。……忠告したからな 」
「なにそれ……」
ヒューゴー様はもう31歳になろうとしていたが、未だに独身のままである。
私を待ってくれている……そう思っていたのだが……
私の頭の中に今までのヒューゴー様がよぎる。
『大丈夫かコリアンヌ嬢!』(※9歳、血を吐いた時)
『コリアンヌ、甘えるのではない! 弟子となった今、私を上官だと思うように!』(※10歳、鍛錬時)
『もうへばったのかコリアンヌ!! 』(※最近)
『よし、いいだろう……次は外周100周!! 吐血しても倒れるまでは許さん!』(※同上)
──気がつくといつの間にか鬼教官になっていた。
アレェ?!
これ既に女子として見られてなくない?!!
家でも『たんぱく質を摂取しろ』『睡眠はしっかり取れ』など色々言う為、最近ではレナと口論になっている始末……
「──そういうところ?! ねぇそういうところなの??!」
「いや……しかしヒューゴー卿も大概だな……」
どうやらそこが問題じゃないらしかった。
油断したところでイーサンを締め上げて聞いたところ、『ヒューゴー様には忘れられない女性がいる』そうだ。
どうして知ったのかを聞いても、イーサンは頑なに教えてはくれず……
その詳細を知ったのは、既に学園の入学を3ヶ月後に控えた冬のある日のことだった。
【幼児編・おわり】
お読みいただきありがとうございます!
割烹では「幼児編で一旦完結させます!」と言ったんですが、いざ書いてみたら物凄くキリが悪く……「えっ、ここでこれをエピローグにしちゃうの?! おかしくない!?」ってなりました。(爆)
悩んだ末、一話目の副題を『プロローグ』じゃなくすることでいいか、とも思ったのですが……なんとなく納得いかないような?
設定は変えられるので、一旦そのままで放置してみることにします。
お騒がせ致しました!
ご意見、アドバイスをくださった皆様に感謝です!
ここまでお読みくださった皆様にも、改めて。
ありがとうございました!
今後再開時にシリーズ作品として続編をあげるか、このまま続けるかはわかると思いますが、再開までにお時間いただきます。
できればそれまでお待ちいただけたら、嬉しく思います。
2020.11.03 砂臥 環




