ある夜、森の中②
森の中にお嬢さん……ときたら当然出会うのは──熊である。
ただし熊さんは残念ながら紳士的ではない。
野生動物なのだった。
「にゃぁぁぁっ?!」
「コリアンヌ嬢! 下がれ!!」
イーサンはそう言うと私の腕を引っ張り、自分の後ろに隠すように半歩前に出た。腰の剣を抜くその姿はあまりにも頼りないが、ちょっと感動した。
そしてその姿に我に返る。
──今こそ謎のスキル『動物と会話できる』が役に立つ時!
「ちょっと待って! 会話してみるわ!!」
「そんなことが!?」
「熊さん、こんばんは!」
熊は私の言葉が通じた様子。
直ぐにでも襲いかかってきそうだった足を止め、ピクリと身体を震わせた。
かくしてそのお返事は──!!?
『……美味そうだな(ジュルリ)』
野 生 動 物 ゥ ────!!!!
会話できたからってどうにもならん!(真理)
「ダメだこれ逃げようイーサン! 美味そうって言ってるよ! 今晩の活きのいいオカズ扱いだよ!!」
「いいからヤツに話しかけろ、なんでもいいから気を引け」
「うっ、うん! ……熊さん、あっちにもっと美味しそうななんかがいたわよ?!」
『それも食う。 とりあえずお前ら、食う』
「いやいや、ふたりとも食べるとこあんまりついてないし!」
熊はジワリと距離を詰める。
話が通じることで、それなりに警戒はしているようだ。
「適当に話しながら聞け。 いいか、俺が大きな声を出したら左の傾斜の下側へ逃げろ。 とにかく下だ。 熊は下方向には速く走れない」
イーサンは熊がにじり寄るのに合わせ、私を背中で押すように、少しずつゆっくりと後ずさりながら言う。
なんだよ私を庇って戦う気かよ!
この貧弱男子が!!
それともなんか考えでもあるっての!?
「やっぱりもっとしっかり締まっていた方が美味しいわよ!」
とりあえず言われたとおり熊に話しかける。怖いには怖いのだが、イーサンに対してなんだか妙な対抗心が沸いた。
ただただ庇われるだけのつもりはない。
「……我が御魂の闇と光に秘めし力よ、今こそ顕現し時……『稲妻閃光』!!!!」
なんですって!?
──ちなみにこの場合のなんですっては『なんだそれ』的な意味であるが、そんなこと確認する暇もなく私は言われたとおり左に走り出した。
次の瞬間、後ろを向いていてもわかるくらいの大きさで、イーサン側から謎の発光。
「グオォ──────!!!」
地鳴りの様に響く、熊の咆哮。
このまま逃げるつもりなど端からない私は、木の陰に隠れ、なにかないかと鞄の中を必死で漁る。その視界の端に、イーサンが熊の眉間目掛けて突っ込んでいくのが映った。
「はぁぁあぁぁぁぁっ!!」
馬鹿!何故向かって行く?!
今のお前、ただの目くらましだろ!!
(逃げろや馬鹿ァァァ!!)
「グオォ!!」
「くっ!!」
隙をついたイーサンの一撃に苦しむ熊だが、そのせいで視界が回復しないままに攻撃をしてくる。
眉間が急所なのかもしれないが、貧弱なイーサンの攻撃なんて話にならない。
──なのに馬鹿はまだ攻撃する気でいる。
そして私の鞄の中にはろくなものが無い。
今日大量に作って小分けにして余ったクッキーとかクッキーとかクッキーとか。
クッキーしかねぇじゃねぇか!!
きびだんごなら良かったのに!
お婆さんのパワーアップきびだんごなら!!
「くっそー!! 喰らえぇぇ!!」
「コリアンヌッ!?」
為す術なく私はそれを熊に投げ付けながら、馬鹿の元に向かい、腕を引いた。
ヤツはこのままだと熊の餌。犬死に決定だ。
格好つけた方はそれでいいかもしれんが、庇われた私の夢見が悪過ぎる。
まだ戦う気の馬鹿に怒鳴りつけながら走った。
「馬鹿! 敵うと思ってんのか馬鹿!!」
「なんで逃げてないんだ!!」
「こっちの台詞じゃぁぁ!!」
熊は物凄いスピードで色んなところにぶつかりながら追いかけてくる。
下りには速く走れないとか、多分時速50キロが時速20キロになるとか、そんなレベルの話なんだろう。
だとしても生存確率の上がる下方向へと、とにかく必死で逃げる。
思いの外、目くらましと攻撃が効いているが時間の問題だ。
「……ヒューゴー様ァァァ!!!!!!」
私は全力で走りながら、全力で助けを呼んだ。
──結果
「げはっ!!?」
吐血した。久々に。
このタイミングで吐血とか、残念過ぎるにも程がある。
撒いたところで臭いで確実に追尾され、殺られる案件。
「うわ?! 大丈夫か!!?」
「だいじょばない……わたしのことはいいから、はやくにげろ……」
──最早私はお荷物でしかない。
さっき庇われたのがなんか物凄く悔しかったので、最期の嫌がらせ的に、まるで自ら犠牲になっていく風の死亡フラグを立ててやった。ザマアミロ。
「「コリアンヌ!!」」
「……え?」
イーサンの声と被り、私の名を呼ぶ声。
「「ヒューゴー様」卿!!!?」
ヒューゴー様が颯爽と現れたのだ!
それは……(溜め)……まさにヒーロー!!
熊が木にぶつかりながら近付く中、ヒューゴー様は私に駆け寄り抱き上げた。
「コリアンヌ! まさか熊に?!」
「いえ、血を吐いただけっす……いつものヤツですわ……フフ♡」
「そうか……なら安心だな」
「安心なのか!? だいじょばないって言ってなかったか!?」
そうツッコむイーサンに、ヒューゴー様は私の身体をそっと預け、緩慢とも言える動作で剣を抜く。
それからのヒューゴー様は、間違いなく完全にヒーローだった。
手負いの獣である熊の、がむしゃらな攻撃などものともせず、圧倒的な強さであっという間に倒してしまわれた。
「「カッコイイ……!!」」
私の感嘆の声と被り、イーサンまで。
おもわずそちらを向くと目が合い、恥ずかしそうに逸らす。
(やはりコイツは……BL的な……!?)
でも見た目は『14歳美少女』よ!?
……かたや私は⒎5歳児!!(※しかもヒロイン設定にありがちな普通レベルの親しみやすい容姿)
私が優位なの、性別くらいじゃん!!
キィィ~!!(※ハンケチを以下略)
「コリアンヌ……さっきは、その……」
「──お離し!! クソ坊っちゃま!」
ちょっと休んだら復活したので、私は支えてくれているイーサンの身体を軽く突き飛ばして前に出た。
「こんなことで貸しだと思われては困るわ!」
「…………は?」
「アンタになんか負けないんだからね!!」
そう言って私はヒューゴー様の元へ駆け寄り、ダイブした。
誤字報告ありがとうございます!°+♡:.(っ>ω<c).:♡+°




