ある夜、森の中①
「ぷぎゃっ!!」
「あた!!?」
「……『あた』?」
私は何かにぶつかり、尻餅をついた。
だが私の尻は常日頃からレナによって鍛えられているので、これしきの衝撃など屁でもない!
……尻だけに!!(ドヤァ)
すぐさま立ち上がり声のした方を見てみると、そこにはあきらかにイイトコの坊っちゃんがいた。
だが思い描いていたのとは、大分違う。
ヒューゴー様が『病弱』と言っていたので、私のように小さいのを想像していたのだが……
むしろ平均より明らかにでかい。
筋肉がなくてヒョロっとしてるけど、背は高い。
流石に攻略対象だけあって顔は整っているが、『9歳の美少年』というより、『14歳の美少女』って感じ。
「アンタ、クソ坊っ……ゲフンゲフン、イーサン?」
「……お前はなんだ? 見たところ平民ではなさそうな出で立ちだが、礼儀のなってないガキだな」
「おっと、コイツァうっかり」
何気に強く前世の語彙は生きている。
愉快な脳内友達のせいもあり、気を抜くと口が悪くなっている今日この頃……『言葉は生き物』とはよく言ったものである。
私は『このクソ坊っちゃま』と脳内で毒吐きつつ、恭しく淑女の礼をとる。
「失礼致しました。 私、リヴォニア男爵家子女コリアンヌにございます。 イーサン・シュヴァリエ卿とお見受け致しました」
「……そうだ。 だが男爵家のご令嬢が何故こんなところに?」
あ~カーテシー疲れるわァ。
さっさと「楽にしろ」って言えよ!
「貴様……貴殿を探しに参りました。 このクソ坊っちゃま、皆に迷惑かけやがりまして、とっととお縄につきやがれませ」
「……後半本音が漏れてるぞ」
「おっとコイツァうっかり」
もう本音も吐いてしまったところで、面倒になった私は勝手に態勢を戻した。
あたりを見回してみると、やはり崖とか急な斜面は見当たらない。薄暗いとはいえ、それくらいはなんとなくわかった。
それに体感した落下時間の割に衝撃がなさすぎる。
「……転移魔法とかそんな感じかな? それとも異空間とか?」
「馴れ馴れしいやつだな……まあいい。 思ったより馬鹿ではないようだし」
イーサンの不遜な態度に、私はチッと舌打ちをした。
「馬鹿はアンタの方でしょ? 7年くらい待てないの?」
「7年後、生きてる保証がない。 お前にはわからんだろうが……」
「そういや病弱なんだっけ。 ふ~ん」
「……お前は同情しないんだな」
興味がなさそうな返事を返すと、イーサンは少し瞠目してそう言う。私は頭にきて睨んで返した。
わからないわけないだろ?!
こちとら余命宣告まで受けた病弱のスペシャリストだぜ!
……我ながら嫌なスペシャリストだな!!
私はヒューゴー様のように優しくはないので、病弱を理由に我儘を言う奴に同情などはせぬ。
病気が辛いのは身をもってわかっているが、病気のことと奴の今回の我儘に直接的な因果関係はないのだから。
どちらかというと優秀な兄達へのコンプレックスだろう。
(精々不幸ぶっているが良い。お子ちゃまめ)
それに──
「アンタのは病気じゃないから死なないわよ」
「なんだと?」
イーサンを見たら少し設定を思い出した。
そう、ヤツは病気ではない。
イーサンは『コリアンヌ版の隠しキャラ』だ。
コリアンヌは主人公だが、周回クリアで悪役令嬢やライバル令嬢を主人公に選択することができる。
その場合攻略対象は初回の数人ではなくなり、ヒロイン替え初回の攻略対象は、選択した令嬢の婚約者や幼馴染の一人に限定される。
ヒロイン替え二週目以降は、追加して隠しキャラが出てくるのだが……
それとは別に、二週目以降再度コリアンヌを主人公に選択した場合のみの隠しキャラも、勿論いる。
それがイーサン・シュヴァリエだ。
ヤツはなんと学園に伯爵『令嬢』として入ってくるのである!
なんで友人キャラなのに好感度ゲージがあるかと思えば!!
──だがそんな『乙女ゲーム設定』など、今からぶち壊す所存。
「病気じゃないってどういうことだ」
「アンタは多分、放出型に魔力コントロールが出来ないタイプなのよ。 私と逆でおんなじ。 だからきっと魔力もあるんじゃない? 測ったタイミングが悪かったんでしょ」
つまり、彼は魔力コントロールができない為に、意図せず体内の魔力を身体の成長促進だけに使っていたのだ、と私は推測している。
私が取り込む→熱暴走→回復を勝手に行っていたせいで常に具合が悪かったように、イーサンは成長促進→魔力枯渇で具合が悪いのではないだろうか。
体格があからさまにおかしいのも、それならば理屈に合う。
そのせいでヒョロいノッポさん。うごうご。
「ちょっと待て、理解が追いつかん……」
「いやぁ失礼失礼……坊っちゃまにはまだ早すぎましたかしら? こんなお話は」
さり気にさっき悪口を言われたことを根に持っている私は、イーサンをふふんと鼻で笑う。
「むっ…………フン、そういうのいいからさっさと詳しく話せ!」
苛つきを隠さないあたりがお子ちゃまだ。
だがまだ伯爵令息殿は不遜であらせられるので、説明などしてやる気はない。
人に物を頼むのは、それなりの態度ってものが必要だと学ばせてさしあげてよ!
「まあなんてつまらない殿方かしら! ねェ、奥様?」
「誰と話しているんだ?!」
「オーホホホホホ! 声を荒らげるなんて、野蛮ですわね! お子ちゃまはこれだから!」
「くっ……! いいからちゃんと話せ!!」
我儘坊っちゃまを脳内奥様と馬鹿にしていると、後ろからガサガサと音がした。
「ヒューゴー様!?」
きっとヒューゴー様が駆けつけてくれたのだわ!
ヒューゴー様、私イーサンを捕縛致しましたわよ!
褒めて!!
──やっぱり魅力的な男性はまず筋肉ですわよね!奥様!!
──いくら美形でもヒョロガキなんかに興味はないわ!
──所詮女装子なんて百合好き忖度キャラ!!そうは思いませんこと?!
「ヒューゴー卿が探しに……? そんな……」
「……? なにいきなり大人しくなってんの」
──はっ!まさかイーサンって?!
──ベーコン(B)レタス(L)のにほひがプンプンしてきやがったぜ!
──コイツァ見過ごせませんぜ! 兄貴!!
突如奥様と交代した脳内舎弟に合わせて、『ヒャッハー』と言いそうになりながらイーサンを見た後、私は音がした方に再び目を向けた。
「──ヒャッハァァァ!!!!!?」
しかし……まさか違う意味で『ヒャッハー』と叫んでしまうことになろうとは想像もしていなかった。
──そこにいたのはヒューゴー様ではなく、とても獰猛そうな熊だった。
引きが強いな?!
会う?!普通!!
副題変更しました!
著作権法に引っかかる案件でしたわ……




