前世の記憶が甦るという、テンプレスタート!
魔が差したので、書きました。
──身体が弱かった。
体育の授業はいつも見学。
たまにしか行けない学校には友達もいなかった。
皆優しくしてくれたけど、名前も覚えられないから。
幸いウチは裕福だったし、私には妹もいる。
惜しみない愛情と、それに見合う待遇……それは、先のことを心配しなくていい状況。
──きっと私が死んだら皆泣いてくれるのだろう。
そしてきっと、私のことは簡単に思い出に変えてしまうのだろう。
そんな風に思っていた。
実際どうかなんてわからない。結局は他人の気持ちだ。
でも私にとってその想定は希望であり、同時に絶望でもあった。
段々と臥せがちになり、学校に行けなくなった。
学校に行ったところで疲れるだけなので、あんまり行く気もなかったけれど。
勉強には既についていけず、身体的にも高校に通えそうもなかったから、受験もしなかった。
中学の卒業式は出れず、比較的元気な日に証書だけ貰いに行った。
余命宣告を受けてからは、家でゲームばかりやっていた。
やりこんでいたのは、コンシューマー乙女ゲーム『月の乙女に光と愛を~太陽の貴方~』。
世界観は乙女ゲームにありがちな中世ヨーロッパ『風』の学園モノ。中世ヨーロッパで学園というのはどうにも意味がわからないが……そこはファンタジー異世界。気にするところじゃない。
ヒロインは魔力の多い男爵令嬢。
『特待生』として学園に現れるのだが、とにかく色々な人(攻略対象)から庇護を受けまくる。
その最大の理由……彼女は『病弱』なのだ。
私はヒロインに自分を重ねていた。
時に
『テメェ、病弱をいいことにあざといんじゃゴルァ!!』
──と叫び、
時に
『また簡単に吐血しおってから! 病弱舐めんな!!』
──と憤り、
時に
『なんて生き汚い女だぁぁぁ!! いっそ羨ましいわその根性!!』
──と謗りながら。
ちやほやチヤホヤされまくるヒロインに、自分でもよくわからない想いをぶつけてプレイしていた。
──そんな、享年16歳。
短い人生だった。
***
そんな記憶を取り戻した、私。
「コリアンヌゥ──────!!!!」
私は自らの名を叫び、そして
「……げはっ!!」
「キャー!!? お嬢様!?」
──吐血した。
なんと私は『月の乙女に光と愛を~太陽の貴方~』のヒロイン、『コリアンヌ』に転生していたのだ!
つーかなんでコリアンヌなんだよ?!
転生すんなら健康な身体が欲しいっつーの!(ジャイ〇ン口調で)
吐血した私はベッドに運ばれた。
そういやこのコリアンヌ、やたらと血を吐くキャラだった。
『吐血=病弱』……うん、わかりやすい!──って
言 う か ! 馬 鹿 !!(ノリツッコミ)
とりあえず、私は間違いなくコリアンヌ・リヴォニア(9)。
内弁慶だが、外面は良い。
少しばかり他のお子様よりも大人びている、などと言われている。
病弱で家にずっといるため、勉強するくらいしかやることがなかった。
それを気にしてか、客がくると父は積極的に私を紹介して外界との繋がりをもたせようとしてくれたものの、客は当然大人──そのせいか、なんかこうなった模様。
つまり、私の賢さとか性格は元々の『コリアンヌ』自身のモノであると言えよう。
そもそも前世の私は、16歳没である。
しかも引きこもってゲームしかしてなかった……そんな前世のほぼどうでもいいような知識を手にしたからといって、何が変わるとも思えない。とどのつまり、私は私だ。
前世の私の口汚さには少し驚いたが、今の私とて脳内で考えている内容はデスマス調でも淑女チックでもなんでもない。
前世の世界『地球の日本』は男女平等で特権階級もない社会のようなので、多少口汚くともきっと普通の範疇なのだろう。
前世の記憶がちょっとばかり甦ったからと言って『性格が劇的に変わった!』みたいなことはまるでなく、大した違和感もない。
また、『ゲームヒロイン・コリアンヌ』の性格なわけでもないようだ。
私はあんなにクソあざといぶりっ子ではない。
強いて言うなら、脳内がちょっぴり愉快になった気はする。
変な語彙が増えて。
暫くしたら、またなんかちょっと思い出した。
(そういえばこのゲームは、かなり杜撰な設定のゲームだったような……)
『流行りのラノベから取ってきました!』と言わんばかりの悪役令嬢(※二周目からプレイ可能/ざまぁアリ)に、取って付けたような婚約破棄。
イライラしながらやってた背景には、そういう理由もあったようだ。
……っていうか、なんでやってたんだろう?
クソゲーじゃないの。
正直なところ『前世の記憶が甦った』と言える程、たいしたことは思い出せてない。
叫んでしまったのは単純に驚いたのと、無性に腹が立ったのだ。
「なんで病弱→病弱なんだよぉぉぉ!!?」
そ れ な 。(自問自答)
私は再び湧き上がる憤りにまた、ベッドの中で叫んだ。
「……げふッ」
そんでまた、吐血した。
コリアンヌはとにかく吐血するのである。
要らんとこ、ゲーム設定に忠実。