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黒い翼の救世主「メシア」

 翼を広げた悪魔、私にとっては救いの天使かもしれないけど、大きく開かれたその黒い両翼は見る者を圧倒する。月明りに照らされて燦然と輝くその羽根はとても美しく、まるでそれ自体が発光しているかと錯覚してしまうほど。


「これからどこにいくの?」

「我の城に戻る。そしてお前からは色々と教えてもらわねばならない」

「わかったわ。私に出来ることがあれば何でもする」

「では、行くぞ」


 マルファスは私に近づくと腰を折り右手を膝裏辺りに入れ、左手を肩に添えて立ち上がる。


「え!? ちょっと、これって……!」


 体がふわりと持ち上がる。これは俗に言う……


 お姫様抱っこ!!

 顔がカーっと熱くなる。

 まさか人生初の相手が魔王になるとは夢にも思ってなかった。


「あの、恥ずかしいんだけど……やるならやるって言ってくれれば」


 心の準備が出来たかも……いや、無理ね。彼が意識してやってる訳がない。その証拠に、


「何が恥ずかしいのだ? これが一番運びやすい態勢なのだ」


 こんな事言っちゃってるし。まったくこっちの気も知らないで……

 そして、それよりも早く静まれ私の心臓!さっきからドキドキドキドキうるさいんですけど!


 確かに暗くて顔がよく見えなかったけど、近づかれてお姫様抱っこされている今なら分かる。切れ長の目に赤い瞳、通った鼻筋、形の良い唇、肌は若干青白いけどシミ一つないキレイ顔。頭頂部から生えている角さえ気にしなければ、私の人生でこれほどまでの美形に出会った記憶がない。


「しっかりつかまっていろ。振り落とされるなよ」


 私は彼の服の襟を掴む。首に手を回した方が安定するのだろうけど、そんな大胆なこと出会ったばかりの人に恥ずかしくてできるわけがなかった。彼から言ってくれれば別だけど……


 そして黒い翼をバサッと羽ばたかせると瞬く間に空へと駆け上がっていく。下を見れば先ほどまでいた森がすでに小さくなっており、目の前は開けた視界で満たされていた。空から見る月明かりに照らされた山や森や草原は、普通に生きていれば絶対に感じる事が出来ない感動を私にもたらした。


「お城まではどれくらいかかるの?」

「さぁな。どのくらいと言われてもなんと答えればいいのか。夜が明ける前に到着する事は確かだな」


 魔族には時間の感覚がないのかしら。人間には何時何分って表現があるからとても分かりやすいけど……時間の概念から教える必要がありそうね。


 もう一度大きく羽ばたき前へと進むと冷たい夜風が頬を撫でた。私は冷たさを打ち消すように彼の胸元へと顔を近づけた。


 しばらく沈黙が続く。聞きたいことは色々あるのだけど何から聞けばいいのかしら。好きな食べ物? 趣味? 普段は何をして生活しているの? ……どれも違う気がするわ。あれこれ考えている内に目的地が近くなってきたのかマルファスが口を開いた。


「もうすぐ着くぞ」


 思っていたより全然近かったようだ。体感で三十分もかかってないと思う。前を見れば大きなレンガ造りのお城が森の中に堂々とそびえ立ち、主の帰りを待っているようだった。そして大きな門の目の前にふわりと着地すると地面に降ろされる。至福のお姫様抱っこタイムが終わってしまった、残念。


「ここが魔王のお城……」


 私がいた王宮と同じくらいの広さはあるかもしれない。そして華やかで煌びやかな雰囲気だった王宮とは違い、何物もを寄せ付けないピリッとした空気で満たされている。そんな事を肌で感じ取っていたとき門の向こうから駆け寄ってくる人物がいた。


「魔王様! 姿が見えないと思ったらどちらに行かれてたのですか!? ん? お前は?」

「こやつはアイシア。我が拾ってきた」

「拾ってきたぁ!? 何を犬猫みたいに言ってるのですか!」


 犬猫……とても複雑な気分だわ……それはともかく、マルファスに駆け寄ってきたこの男は誰なのかしら。少し長めの色の落ちた金髪に目の色は青、肌は同じく青白い。そして美形。……魔族の男性はみんな容姿がいいのかと思ってしまう。


「とりあえず中へお入りください。アイシアと言ったか? お前も一緒についてこい」


 謎の男の先導でマルファスに続き私も一緒に城の中へ案内される。はたしてこの先に何が待ち受けているのだろうか。一応客人なわけだし、なにかあっても彼がかばってくれるはず! ……だよね?

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