追放までのカウントダウン
私の名前はアイシア・フィル・アリスタイン。アリスタイン王国の第一王女としてこの世に生を受け、お父様とお母様に蝶よ花よと大切に育てられたわ。小さい頃はお人形遊びやお花摘みをして遊んでいた、どこにでもいる普通の女の子。ただ一つ違ったのは、私に自由な恋愛をすることが認められていなかったことだけ。
特にお父様は私に優秀な世継ぎを生むように、物心ついたときから話してらっしゃたわ。私もプリンセスとしてある程度の覚悟は持っていたけど、やっぱり恋には興味があった。絵本で読んだ白馬の王子様を夢見ることもあったし、どこか異国の素敵な殿方が私を求めて熱烈なアプローチをしてくれることにも期待していた。
でも、現実はそんなに上手くいかないものね。私を求めてきたのは勇者シグルド。勇者なのに粗暴で、自分勝手で、女にだらしない最低な人だった。聖剣を手に入れるまでは普通の青年だったって聞いてたけど、力を手にしてしまうと人は変わってしまうのね。
お父様も最初は反対していたけど、勇者の機嫌を損ねてしまって魔王討伐をすっぽかされるのを恐れていたみたい。何より勇者に選ばれた特別な存在との間に出来る我が子に、思いを馳せてしまったことが大きい。優秀な世継ぎを求めていたお父様にとって、この上ない条件だったってわけ。
え? 普通は魔王討伐を成功させた功績として、プリンセスとの結婚が許されるんじゃないかって? そんなこと横暴な彼の前では通用しないわ。万が一、他の男に取られるのが嫌だった彼は、先に婚約することを条件にしなければ魔王討伐をやらないって言い出したの。
態度は大きい割に器はとっても小さかったのね。そしてもう既にお父様は勇者の言いなりになってた。お母様はただただ私に謝るばかり。そんなに謝られるとこっちのほうが申し訳なく思っちゃうのに……
そしてついに、忘れることのできないあの日を迎えることになるの。
シグルドから突然の婚約破棄を言い渡された次の日、私は玉座の間に来るように言われた。壁一面が白で統一され、高い天井からは淡い光が降り注ぎ、左右に何体もの騎士像があるその部屋はとても厳かな雰囲気で満たされている。
重い扉を精一杯押すとギイッと鈍い音を響かせながら開いた。その先には既にお父様、お母様、シグルド、家臣たち、そしてなぜか昨日あいさつをしたデプーリ殿とその娘ジェシカもいた。
なにが起こるのか分からないまま、中央までオズオズと歩いていくと私は口を開いた。
「お父様、お母様、これは一体――――」
「アイシア!よくも抜け抜けと!このおれを裏切っておいてどの面下げてやって来た!」
「!? 裏切った……? 何を言っているのですか」
「これはこれは、一方的に婚約破棄を突き付けておいてとぼけるとはな!」
分からない。シグルドは一体何を言っているのだ。昨日、部屋に押し入ってきて婚約破棄を突き付けてきたのはそっちではないか!?
「お父様、お母様、これは違いますっ―――」
「王よ! 裏切り者の話など、聞く耳を持ってはいけません。例え自分の娘であっても、行ったことの罪は償ってもらわないと!」
シグルドは私に喋る隙を与えず、一方的に捲し立ててくる。
「さぁ、裏切り者に相応しい罰を与えましょう!」
シグルドがそう言うとお父様は苦虫を嚙み潰したような表情で宣告した。
「アイシア・フィル・アルスタインよ。そなたを国外追放の刑に処す!」
私には何が起きたのか理解できる余裕はなかった。お父様とお母様はとても辛そうな表情をしている。そんな顔をするくらいなら娘に国外追放なんて命じなければ……
悲嘆に暮れているとき視界の隅に笑い顔が見えた気がした。とても気味の悪いニタニタした笑い顔。それは幻覚などではなく顔を上げれば三人が一様に同じ顔をしていた。
シグルド、デプーリ、ジェシカ。三人とも声には出していないが、とても愉快そうに笑っている。
そのとき私は全てを理解した。
あぁ、そうか、私は嵌められたのだ。
三人の聞こえるはずのない下卑た笑い声が脳裏にこだましていた。
こんにちは。ぱたたです。
今回はアイシアの追放までの過程を描きました。
次話はある人物と出会います。とてもとても重要な人です。
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