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突然の婚約破棄

「アイシア!何度言えば分かるんだ!勇者であるおれを待たせるな!」

 

 耳をつんざく様な男の金切り声が室内にこだまする。周りの取り巻きの人たちからもせせら笑う声が聞こえた。


「はい、シグルド様。申し訳ありません」

 

 お淑やかな、それでいて柔らかい声色の女性は、勇者であるシグルドに対して深々と頭を下げた。美しい金髪がはらりと前へ垂れる。その謝罪でさえも、一目見て高貴な施しを受けてきたのだろう気品をうかがわせる。


「これからお前との婚約のために、有力貴族へ挨拶をしなければならないのだ!あいつらからの支援が受けられれば、これからの旅路がずっと楽になる!それを台無しにする気か!」

 

先ほどよりもさらに語気を強めてシグルドは言う。


「申し訳ありません。次からは――――」

「お前のそのグズぶりが直るなんて期待していない!私をイラつかせないように気を付けろ!」


 必死に謝る女性にこれでもかと追い打ちをかける勇者シグルド。彼の傍若無人振りは今に始まった事ではない。魔王を倒すことが出来ると言われている聖剣を、台座から引き抜いたことがきっかけで彼は変わった。力を欲し、権力を欲し、女を欲し、およそ勇者とは言えない蛮行を重ねてきた。それでも聖剣の使い手は彼しかいないので、誰も止めることが出来なければ意見を言うこともない。


 足早に応接間へ向かう彼をやっとの思いで追いかける。彼は基本的に他社に対する思いやりがない。全て自分のペースで物事を進めようとする。配慮することがあるとしたらそれは、金、権力、女が絡んでいるときだろう。


「私だ!勇者シグルドだ!入るぞ!」

 

 素早くコンコンと二回ノックすると、相手の返事も聞かずにズカズカと部屋に入る。


「おぉ!シグルド君、待っていたよ!」

「これはこれは、デプーリ殿。お待たせしてしまってすみません。彼女がドンくさいせいで貴重なお時間を無駄にしてしまったことを謝罪します。」

「気にしないでくれたまえ。それに今日は君のフィアンセを紹介してくれる日だろう?彼女の事を悪く言うものではないよ、ハッハッハ」


 デプーリと言われたその男は、勇者の魔王討伐に当たっての言わばパトロンである。見た目は腹の肥えた肥満体型そのもので、額に汗を滴らせ、たいして動いてもいないのにゼェゼェと荒い息を吐いている。


「ほら、お前も挨拶しろ!」

「初めまして。アイシアと申します。以後、お見知りおきを」

 

 シグルドに促されて軽くあいさつを交わす。この場が終われば関わる事はほとんどないのだから、必要最低限に留めておこう。気を利かせるとまた彼の癇癪が爆発してしまいそうだから。



 そして雑談も程々に、そろそろ話が終わろうとしていたその時、



「そうそう、こちらも一人紹介したいと思ってね。ジェシカ、おいで!」

「はい、お父様」

 

 奥の扉から現れたジェシカという人物。お父様と言ったのだからデプーリの娘なのだろうが、似ても似つかない容姿をしていた。赤みがかったロングヘアーに大きなエメラルド色の瞳が印象的な美人だ。


「皆様、初めまして。デプーリの娘、ジェシカと申します。勇者様に会えると聞いて、お父様に無理を言って同行させてもらいました。」

 

 柔和な微笑を携えながら、ジェシカはペコリとお辞儀をした。



「……美しい」

 

 ポツリとシグルドがそう呟いた。またいつもの悪癖だろう。好みのタイプが現れると手当たり次第に行こうとする。


 そして、話し合いも終わったのでお開きになろうと言うタイミングで、


「アイシア、先に部屋に戻っていろ!おれはデプーリ殿と二人で話す用事が出来た」


 今の話し合いで決まらなかった事でもあったのだろうか。考えたところで分かるわけもないので、言われた通り部屋へと戻るしかない。


「それではデプーリ様、ジェシカ様、ごきげんよう」


 二人にあいさつを残し、その場を後にしようと踵を返そうとしたとき、シグルドが不敵な笑みを浮かべていた……ような気がした。


 部屋に戻ってからしばらく一人の時間を過ごし、夕食をとり、着替えて床に就こうと思っていたその時、


「アイシア!入るぞ!」

 

 いつものようにノックもせず、扉を勢い良く開きながら部屋に入ってくるシグルド。


「シグルド様、もう少しお静かに……」

「うるさい!おれは、疲れているんだ!さっきまで、デプーリ殿と話し合っていたからな!」


 こんな時間まで一体何を……そう問いかけようと口を開きかけたが、それは終ぞ言葉になることはなかった。







「お前との関係を今日限りで解消する!」






 彼から放たれたこの言葉に何も考えられなくなってしまったのだから。


「シグルド様!それは一体どういう意味で――――」

「どうもこうも、お前とはお別れだ!これは、決定事項!明日、王からも話がある!」


 それだけを言うとシグルドは部屋を出て行ってしまった。


「お別れって……そんな……」




 こうして私、アリスタイン王国の第一王女アイシア・フィル・アリスタインは、勇者から一方的な婚約破棄を言い渡されてしまったのである。













はじめまして。ぱたたです。

最後まで読んで頂きありがとうございます!


婚約破棄物を書いてみたくなり挑戦しました。

楽しく面白いものを書いていきますので、

少しでも気に入ってもらえたら感想、評価、ブクマお願いします!


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