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『七行詩集』

七行詩 671.~680.

作者: s.h.n

『七行詩』



671.


君はまるで 高速で走る車の窓から


世界を見ているかのよう


彼が走らせる メルセデス


そして僕は 一息 道端に停めさせる


景色のひとつには なれたのかもしれない


良い旅を 道中どうか お気をつけて


その笑顔が絶えないことだけを 思っている



672.


断ち切れぬ糸は 離れるほど


この胸を強く締め付ける


私がどれ程の 愛の夢の中にいるか


知れば貴方は きっと羨ましく思うでしょう


結ばれぬ絆も 月は見守る


夜は平等に 子ども達に 夢を見せる


私はやがて その夢の償いをしなければならない



673.


日が傾いた頃に目覚め


手足は鈍く痺れている


行き場のない愛情は 一秒ごとに変化して


傷だらけの身をやつれさせる


倒れるまで突き進めばいい


倒れたら起き上がればいい


簡単には くたばらない 今までそうしてきたように



674.


朝帰りで 疲れ切った背中を


焼かれながら 自転車をこいで


日の長い季節は 爽やかさなどない、と


小声で 悪態をついていた


けれど 月明かりの下 向かう毎日は


ひんやり涼しい 夜に守られて


目は冴え 足は軽快で



675.「この指とまれ」


じめじめとした 6月は


私の生まれた季節です


はつらつとした 気分には


どうにもなれないものだけど


アジサイの花が咲く


寄り添う傘のような姿で


とまれ、とまれ この指とまれ 雨よ、無数の涙よ



676.


池に溜まった 憂鬱の中で


鯉はその身を光らせ 踊る


急ぐこともなく それが風情であるように


足を止め 時間を忘れて見つめることが


私には度々あります


展示された 着物や洋服を見るとき


一人の人を 知りたいと思うとき



677.


夢の中 私は 鏡に鏡を投げつけて


何枚も割ってしまった


覗き込み 半分に割れた顔を見ると


それまで見ていた自分のことが


まるでわからなくなるようで


破片で薄く 頬に傷をつけ


よく似合う化粧だと 笑ってみた



678.


忘れることは とても難しいことで


全身に巡る血管の中に 根を広げてしまった木を


引き離すことは とてもできない


尽きぬ涙で 水を与え続け


枯れるのを待つしかないでしょう


むしろ私は その木に強く支えられたまま


生きて 希望を掴みに行くと 決めたのです



679.


もしも上手に話せていたら


もしも不要なためらいの言葉を飲み込めていたら


もしも迷わず向き合えていたら


私にはその才能がなかった


全て過ぎてから思い返し


その甘さや後悔に耽っていた


一人では それを幸せと 呼ぶしかなかった



680.


雨上がりの早朝は 六月の色をしている


風は湿り 視界は鮮明で 向こう岸を 歩く人が見える


団地の庭には 紫陽花が咲いて


青や紫の 可憐な傘を並べている


整った素顔 雨の中笑うのは 貴方だけ


どうかもう一度 雨を降らせてください


この景色を いつか私が並んで見せたい




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