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私の気持ち 6



 「カズミ」

急にカズミ君の前にしゃがみ込み、怒っている声でもなく、かと言って優しくもない本当に普通の声で、カズミ君の目をじっと見つめるタダ。

「なに?」と、これまた普通にタダに答えるカズミ君。

「大島と指切りしたん?」

「した~~」

「なんの約束したん?」

「あ~~…」と、今度はとたんに目を背けるカズミ君だ。

 カズミ君?目を背けちゃ隠し事あるって疑われるよ?

 

 「え、と…。うん」と答えるカズミ君。「ちょっと…」

「何の指切り?」とタダ。

や、なんでそんなに詰め寄る?

「ふつうの」

そう答えたカズミ君があからさまにソワソワし始めて、もちろん私もそれ以上にソワソワする。

「普通の?」とタダ。

 なんかタダ、嫌な感じだな。

「お~~」とヒロちゃんが口を挟んだ。「いいよな、カズミ。兄ちゃんに秘密の約束、大島としても。秘密だから絶対教えてやんねえぞ!ってハッキリ言っとけ」

 ヒロちゃん、なんでそんな余計な感じで口を挟んでくる。


 私がくだらないことを聞いて、それを黙っといてって頼んだばっかりにこんな小さな子に負担をかけて…

「あの!」とつい言ってしまう。「ちょっと私が…頼んだ事あって」

「なにを?」と聞くタダ。

「なんていうか…黙ってて欲しい…失敗!ちょっと失敗したことあって。ね?カズミ君」

「しっぱい?」とカズミ君。

「うん」と大きくうなづいて見せて「ね?」と言ってみる。

「黙ってて欲しい?」とまた口を挟むヒロちゃんは笑っている。

 よくないなあ!ヒロちゃん。面白がって。

「もういいじゃん」と今度はユキちゃんが口を挟んでくれた。「ちょっと指切りしてただけじゃん。そんな、タダ君もムキになって問いただす事ないでしょ?こんなちっちゃい子に」

「いや」とカズミ君がムッとしてユキちゃんに言った。「ちっちゃくはねえよ」

「あ、ごめん」とユキちゃん。「ごめん、カズミ君」

「それは大島が何かしたことを秘密にしてってカズミに言ったの?」とまだカズミ君をロックオンしているタダ。

 しつこいなタダ!

「だから秘密なんだって!」と私は今度は強くタダに言った。「タダには関係ないからカズミ君にそんなに聞かないで」



 「にいちゃん」とカズミ君。「大島が秘密にしててって言うから言わない」

 おおっっ!

 良かった。カズミ君頑張った。偉いぞ。拍手したいくらいなんだけど。カズミ君も私を見てちょっと得意気にするから、つい可愛くなって私もニッコリしてしまうと、タダが私を睨んできた。ヒロちゃんはちょっと笑ってるし、ユキちゃんもちょっと口の端で笑っている。

「ほんとにそんなたいした事じゃないよ!」とつい強めに言ってしまう。

本当に超つまんない事だし。

「いやイズミ、」とヒロちゃんが口を挟んでくれる。「もう指切りげんまん終わってんだっつううんだよなカズミ。秘密成立しってから。なあカズミ?」

「せいりつ?」とカズミ君。

「約束の出来上がりって事」とヒロちゃんが言う。

「うん」とカズミ君。

それを聞いて「ちっ!」とタダが舌打ちをした。

 舌打ち!

「おいおい~~~」とヒロちゃん。「大人げないですよイズミ君」


 それは無視してまたじぃっとカズミ君を見つめるタダと目を反らすカズミ君。ニヤニヤ笑うヒロちゃんに、私とカズミ君を見てふふっと笑うユキちゃん。

 タダが静かに台所の方へ移動してカズミ君を呼んだ。「カズミ、ちょっとこっち」

「へ?」急にか細い声になるカズミ君だ。

「ちょっとこっち来いって」ともう一度カズミ君を呼ぶタダ。

「え?なんで兄ちゃん…」

「なんでもない。ちょっと手伝いして」

「え、なんか今は嫌だな…」

「ダメだろ。準備あんだから。いいからこっち」

「…」

「来いって」

「…でも指切りのこと言わないよ。大島と約束したから」

ものすごく嫌そうな顔をして立ち上がりタダの方へ行くカズミ君が私を見て、うん、とうなずいてくれた。

 それは約束大丈夫って事?

「もうそれはいいって」とタダがカズミ君に言った。「ジュースとか運ぶ手伝いだよ」

そしてタダは私たちにも、部屋の隅に運んでおいた食器をテーブルに並べる様に言うと、カズミ君と一緒にキッチンの方へ。


 心が痛む!

 年少さんなのに、気を使ってくれて、なんちゅうイケメンさんなんだ!

 …あんなどうでもいいような、でもどうでもはよくないけど、それでもあんなちっちゃい事で困らせてゴメン。


 

「しばかれてんじゃねえか、カズミ」とヒロちゃんが言う。

「え?」と驚く私だ。「さっきの指切りの事?本当にあんまなんでもない事なんだよ」

「ほんとにそうかあ~~~?」面白がって聞くヒロちゃんだ。「ちょっとオレにも話してみ?」

「嫌だよ。ヒロちゃんだったらすぐタダに言いそうだもん面白がって」

「そりゃ言うだろ」

「じゃあ絶対教えない」

「じゃあさ」と今度はユキちゃん。「私にだけこっそり教えてくれたりとかは?」

「ユキちゃん…」

「だって私も知りたいもんユズちゃんが秘密にしたい事。さっきユズちゃんを守ろとするカズミ君が王子様だった!超可愛いね!カズミ君。あんな弟欲しい!」

マジかユキちゃん。私も欲しいけど、カズミ君みたいな弟。

「オレとどっちが可愛い?」とユキちゃんにマジ顔で聞くヒロちゃん。

バカだなヒロちゃん。

「どっちも~~」と答えるユキちゃんだ。

マジかこの二人。私の指切りを弄びやがって。


 

 「なんかさあ」とユキちゃんがクスクス笑って言う。「タダ君てカズミ君に焼きもちやいたんじゃないかな」

「カズミに?」とヒロちゃんが私を見る。「まあなあユズとイチャイチャしてたからな~」

「もう~二人してそんな事ばっか言って」

そう言いながら、タダに連れて行かれたカズミ君が速攻で私の秘密をばらしてなきゃいいけど、と心配する。だってタダの秘密を思い切り私にばらしたから。


 なんかでも…この辺りをタダのファンの子がウロウロしてるの嫌だなあ!



 タダ兄弟が台所で何をしているのか気になったが、すぐにカズミ君が1.5リットル入りのコーラのペットボトルを両手で抱えて持って来た。

 その後タダが私が持ってきた鳥の丸焼きを大きな茶色の皿に入れて運んで来た。

「「お~~~~」」とヒロちゃんとユキちゃんが感嘆してくれる。

「すげえすげえ。ユズすげえな」とヒロちゃんが大げさに言ってくれる。「これあるだけでクリスマスって感じがするわなんか」

「いや、」と私。「ほぼほぼお母さんがやってくれた」

「そっかそっか」と笑うヒロちゃん。

「うれし~~」とユキちゃん。「私鶏肉大好きなんだ~~」

 ふっと顔を上げるとタダが笑っている。優しい顔だ。良かった。さっきは機嫌悪そうだったのに。

 


 タダ兄弟とあとヒロちゃんも運ぶのを手伝って、その次々と運び込んでくれるものを私とユキちゃんでテーブルにセッティングしていく。最後にタダが焼いてくれたケーキ!

「「「おおおおお~~~」」」と私とヒロちゃんとユキちゃんで感嘆する。

 赤い皿に乗せられた白いホイップクリームで覆われたケーキは、細かいデコレーションはないものの、真ん中に苺が人数分5つ、ブルーベリーがその周りに散らばり、側面には細かく砕かれたキャラメルナッツが付けられて、ケーキの脇には柊の葉が飾られていた。

「おしゃれ~~~」とユキちゃんがキラキラと目を輝かす。

 ほんと、おしゃれ。

「なんかな」とタダが言う。「ホイップクリーム、もっと派手に飾るのには腕がなかったわ」

「十分だよ!」とユキちゃん。「すんごい綺麗!おいしそう!でも食べるのもったいない!ね?ユズちゃん」

「うん。すごい。タダ、すごいね。ありがとう。…あ、いや、みんなのために」

「なんだそりゃ」とヒロちゃん。「ユズに食べさせたくて作ってんのに決まってんだろ。とぼけてんじゃねえぞ」

「言い方!」と注意するユキちゃんは笑っている。

 チラっとタダの顔を見てしまうと、タダはまた優しい顔で笑った。




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