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私の気持ち 4

 タダがいないと聞いて一瞬ほっとしたが、それなら私はどうしたらいいのかな…

「大島が来たら」とカズミ君が私の手を掴みながら言った。「…じゃなかった、ユズルが来たら入ってもらっといてって言われたから入って入って!ほんとはさ、チャイム鳴った時すぐ大島だってわかったんだけど、兄ちゃんに一応違う人で危ない人来たらいけないから大島じゃなかったら開けちゃいけないって言われてたから。『どちらさまですか?』って聞けって言われてたから!」

「そうなんだ」と言いながら思わずにんまりしてしまう。可愛いな。「えらいね!」

「違った」とカズミ君。

「なにが?」

「大島じゃなくてユズル」

「ハハハ」と笑ってしまう。


 前に私の誕生日の時にここへお邪魔した時に、私の事を『ユズル』と呼ぶってタダとカズミ君が言い出して、でも呼べなくて、カズミ君は『大島』って私の事を呼ぶのだ。これも可愛い。

 タダも私の事をずっと大島って呼んでるから。

 タダが転校して来た小6の時からずっとそうだから。逆に名前で呼ばれたりしたら恥ずかし過ぎて返事が出来ないよね。

「大丈夫だよ大島で。お兄ちゃんも大島って呼んでるよずっと。ヒロちゃんたちは?」

「まだ来てないよ」


 まだ来てないのか…

 しまった…ソワソワし過ぎて早く来過ぎちゃったのかな?

 …いや。そんな事はないよね。早過ぎもしない、遅過ぎもしないちょうどいい感じの時間を確実に見計らって来たのに。なぜカズミ君しかいない。

 ニコニコ笑って私を見ているカズミ君は可愛いが、タダもいないしヒロちゃんたちも来てないのに家に入って待っとくってどうなの?タダの家にお邪魔するのは今日でまだ3回目なのに。

 やっぱりいったん家に帰ろうかな。

「帰んないで」とカズミ君が言った。

「え!?」

思ってる事を年少さんのカズミ君に言い当てられて驚いた。


 「兄ちゃんが、『大島がいったんうちに帰ろうとするかもしれないから止めといて』って言ってた」

「…」

「ねえ大島それ丸焼き!?兄ちゃんが言ってた!大島が丸焼き持ってきてくれるんだって!すげえ良い匂いする!」

「そうだよ丸焼き」と言ってカズミ君の顔の前にグイッと袋を寄せてみせると、カズミ君もさらに顔を近付けて嬉しそうに匂いを嗅いだ。

「すげ~~~!すげぇ良い匂いする!すげぇうまそう!」

「そう?私と私のお母さんとで作ったんだよ」

「そうなん!?すげえ大島!すげえな!」

あんまり喜んでくれるから、へへ~~、とカズミ君に自慢げに笑ってしまう。「でしょ?」

「うん、すげえ!開けたい開けたい!中見たい!」

「あ~~…それはお兄ちゃん帰ってからにしようか」

「え~~早く見たいな。早く食べたい!すげえ良い匂い!…あ、でも兄ちゃんはもう大島って言わないよ」

「え?」

「ユズルって呼んでる」

「へ!?」

「あがってあがって早く早く」

「…」え、どういうこと?

「早く早く寒いもん」

あ、まずい。カズミ君が風邪引く。



 結局タダがいない家の玄関に入り込んでしまった。

 ていうか、私をユズルって呼んでる?家で?タダが私をユズルって呼んでるって本当ですか!?ほんとのほんとに!?

 今すぐカズミ君の肩を捕まえてグイグイ揺さぶって本当かどうか問いただしたい…と思っているところに、先に中に入って行くカズミ君がパッと振り向いたのでビクっとする。

 カズミ君はまたにこっと笑ってから言った。「手を洗ってうがいしなきゃいけないよ大島!」

「あ…、…うん」

答えながら、可愛いなと思うけど、タダが出かけてるのに本当に中に入ってていいのかな…


 ていうか…

 ていうか!!

 タダが私の事を家で『ユズル』って呼んでるの!?家で私の話をしてるって事?

 え、それはカズミ君だけじゃなくてお母さんたちの前でもって事?それだとお母さんたち、私の事を彼女だと誤解しないかな…

 彼女じゃないのに?しかも私には大島って呼んでるのに?



 ダメだまたソワソワして来た。やっぱり私チュウされたんじゃないかな。それになんか…なんかやっぱりタダって、いろいろ慣れてる感出てない?何それ、モテるから?ヤだなぁ…

 それで…ヤだなあって思いながら私、結構喜んでない!?



 

 私の誕生日の時に家でご飯を食べさせてもらったから洗面所の場所はわかってるんだけど、勝手に行って手を洗っていいのか躊躇していると、カズミ君が「丸焼きかして!」と言いながら、私の手から丸焼きの入った袋を取ってタタっと台所の方へ走って行き、袋を置いてすぐに戻って来た。そして、「こっち!」と言って洗面所の方へ手を引いてくれる。洗面所では私の両手を横から掴み、手のひらを広げさせて、「はい」と、その広げた手のひらにハンドソープの容器をプッシュしてしてくれる。

「はい、こう。こうすんだよ」

言いながら、横でハンドソープは付けていない自分の手のひらをこすり合わせてやって見せてくれるカズミ君。


 イケメンさんだなカズミ君。女の子にもてそう。だってうちの学校の女子のみなさんに、タダがもしこんなことしたとしたら大変な事に…と思ったら、自分がタダにこうされてるところを想像しかけてぶんぶんと首を振った。

「どうしたの!?」と驚いているカズミ君。「せっけんしみるの?」

「違う違うごめんごめん。え、と、なんか今ね、髪の毛、目に入りそうになったから」

「そうなん?ピンで止めたげようか?」

「だいじょぶだいじょぶ。もう大丈夫」

 タダの弟の横で、その弟をタダだと思って妄想するとか、それで嘘ついてごまかすとか、もうヤだなぁ私。



 「どうする?」と聞くカズミ君。

「なに?」

「兄ちゃん帰って来るまで兄ちゃんの部屋に行っとく?」

「なんで!?」

突然の提案に驚いて、必要以上に大きな声を出したのでカズミ君もビクっとした。

「なんでって待つため」

「いや行かないよ」やっぱり強めに拒否してしまう私だ。「そんな、その人がいない時に勝手にお部屋に入ったりしたらいけないんだよ。カズミ君は弟だからいいかもだけど」

「ユズルもいいよ。ユズルなら兄ちゃん怒らないよ」

「そんな事ないって!」

 


 リビングへ手を引いてくれながら今度は、「そっかじゃあ一緒になんかして遊ぶ?」とカズミ君が聞いてくれる。

「遊ぶ?遊ぶの?」

「遊ばないの?」

「いや遊ぶけど…。遊ぶ!」

「何して遊ぶ?」目をキラキラさせるカズミ君。

え~~なんだろな、何が良いんだろ…

「お絵描きとかする?」とニッコリ笑うカズミ君。

「お絵描き?うん。お絵描きする」

ふふっ、と不敵に笑うカズミ君に「どうしたの?」と聞いてみる。

「兄ちゃんが何もする事なかったら『お絵描きでもしてやっといて』って言ってたから」

「…」

なんだその言い草、と思うが、カズミ君が「する?」と聞いてきて、その言い方の可愛さに、わ~~~、と思う。



 「何描く?」と聞かれる。

「え、…なんだろ…」何描こうかな…

「大島何がうまいん?…ちがった、ユズル、何がうまいん?ユズル、学校で絵を描くやつしてるって兄ちゃんが言ってた」

学校で絵を描くやつ?

 部活の事か。タダは私が美術部なのをカズミ君に教えてんの?

 そんな事まで小さな弟に話すとかどんだけ可愛いんだタダ!


 タダの事を不審に思う気持ちもあるのに、小さな弟に私の事を話すタダを想像してニヤつきかけるのもどうなんだろ。ニヤつきかけたって、ほぼニヤついたけども。

「兄ちゃんが、ユズルは絵がうまいつってた~~」笑顔で言うカズミ君。

「マジで!」

「マジ、マジ」

それはちょっと困るな。やだなタダ、勝手にハードルあげやがって。

 ガサガサとリビングの端に置いてあった大きめのお道具箱から、スケッチブックとクレヨンを出してくれるカズミ君を見ながら、「ん~~~…」と、何を描こうか考えて、なぜだか小学の時のタダの姿が頭に浮かび、タダは小6の時にこっちに引っ越してきたけど、もっとずっと小さい時からこっちにいたら、こんな風に一緒に遊ぶこともあったのかなって思いついてしまって、ちょっとまたニヤつきそうになった。



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