風の中の鹿毛(191118 馬)
胸いっぱいに息を吸い込むと、少し冷たく感じる風にのって緑の芳しい香りが鼻孔を抜ける。
鋭い嘶きに振り返ると、冬枯れし始めた山を背に、一頭の馬が駆けてきた。
艶のある鹿毛が美しいその馬は、まるでそこが自身の王国であるかのように悠然と私の目の前を駆け抜けていく。
重厚な蹄音が辺りに響き、勝者を称える勇壮なマーチのように聞こえた。
野生の馬の生き生きとした躍動。
しかし私の心の中にはそれとは相反するように、過去の幻影が暗い水底からやってきた。
私はかつて兄弟のように育った仔馬カイルのことを思い出していた。
生まれた時は弱々しく、立つことすら必死で、足がガクガクと震えていた。両親に似ず臆病な性格で、いつも私の後をついてきていた。
可愛い仔馬のカイル。
共に育ち、共に遊び、共に駆けた。
今大人になった私の側に彼はいない。
刹那、冬の到来を告げるかのような凍える風が一陣吹き抜けた。
まるであの日の……あの崖の底から吹き上げてくる死神の吐息のように。
せりあがってくる恐怖を誤魔化すように息を深く吐くと、私はかけていった鹿毛の馬の後ろ姿を見つめる。
小さくなっていくその姿は、周囲の景色にとけることなく力強く風を切り開いていく。
それは生々しいほどの生の躍動。自らの命を誇るかのような力強さ。
私は無意識のうちにその馬の中に彼の姿を探していた。
「あいつもあんな風に駆けて行ったのかな……」
私の小さなつぶやきに答えるように、微かに嘶きが聞こえた気がした。
ご覧いただきありがとうございました。
馬のデッサン数が圧倒的に足りないと感じて、フリー画像を模写。カラーでの模写もほぼしないのでいい練習になりました。
適当に選んだお馬さんですが、この色合いが鹿毛というらしいですね。
毛の艶感が美しく、疾走している躍動感を出すことに気をつけました。
難しいけど描くと楽しいですね。
文章は本当に適当です。絵を描くと文章書けなくなるので、無理やりにでも毎日文章を書く癖をつけようと思った結果のこの短編。
どこまで続けられるだろうか……。頑張ります。