第q・w¥。えr話
開いていただき誠にありがとうございます
まず初めに、こちらの作品は作者が思い付きで書き始めた計画性のない代物であることと駄文の連続であるを十分に考慮した上で、それでも何となく暇だし目でも通してやるかという器量の大きな方はそのまま本文の方へお進みください。
ここは何処だ?そして……俺は……誰だ?
……
…………
………………
なぁ~んて、よく聞く記憶喪失のセリフなんぞ思い浮かべてみたが、幸いにも自分の名前はしっかりと覚えてるし、今までの記憶もほぼハッキリとしている。
……もっとも、今現在俺がいる場所については本当にわかっていない。
「いや、ほんとに何処だよここ」
右を見ても左を見ても景色は無い。”何もない部屋”であればまだ良いが、残念なことに視界に映るのは真っ新な画用紙の様な”白”一色。天井やら床やら壁やらが一緒に見えているのかもしれないが、それらの境界線らしき物すら見当たらない。
首を曲げているのに別の方向を向いている気がしないと言うのは、本当に変な感覚だ。
それに……
「体も見えん」
下を向いてみても……いや、実際に下を向けているかどうかはわからんが、下を見ても自分の身体がどこにも見当たらない。が、何故か手足を動かす感覚はあるし、身体に触れば触れた側も触れられた側も感触はある。ならばと手を伸ばしてみても何かに触れた感触は無いし、足を動かしても前進も後退もしている感覚はない。……というより、そもそも自重による足への負担とかは全くない。
もしかしたら無重力ってのはこんな感覚なのかもしれない……何とも奇妙な感覚だ。
なんて考えつつ、結局何がどうなっているのか理解できずにいると、
『やぁ、待たせたね』
と、何処からか声が響いた。
いや、正確には耳で聞いていると言うより頭に直接響いている様な、何処一つの方向からではなく全方位から同時に聞こえてきている様な感覚だ。
……今の俺に耳やら頭やらがあるかどうかは別だが……。
「いえ、それほど待ったという感覚はないのでもんだいありません」
『おや、そうかい?』
「ええ。ところで、申し訳ありませんが状況を説明していただけますか?どうにもここが何処で何故ここにいるのか私にはわかっていないので……」
『もちろん。その為に僕が居るからね』
男性とも女性ともとれる何とも中性的な……というより、変声前の子どもの様な声の主は、どこか楽しそうな声音で答えて来る。
『まず、ここが何処なのかという話になるんだけど、ここは世界と世界の狭間に位置する場所かな?正確にいうと君の居る世界から壁一枚を隔てた場所って言うべきかな?』
「どういうことですか?」
『う~ん……肉体を持つ者が到達することのできない場所。まぁ、ちょっと違うけど、神々の住まう領域だとでも思ってくれればいいかな?間違ってはいないはずだし』
声の主もまた、上手く説明できないらしい。が、何となくこの場所がどういった場所なのかは理解できた。
つまり……
「私は死んでしまったということですか?」
『まぁ、端的に言えばそうなるね』
何ともあっさり、自分の死を肯定されてしまった。
んにしても、死んだ記憶なんぞ無いんだがな……
『あぁ、それは多分世界間の壁を抜ける際の副作用だと思う』
「副作用ですか。……あれ?今私、声に出てましたか?」
『いや、出てはいないね。ただ、何か不思議そうな顔をしてたからちょっと頭の中を覗かせてもらったんだ』
「……小説などでたまに見る展開ですね。ということは、言葉に出す必要性は無いと言うことですか?」
『いや、あんまりのぞき見するのは趣味じゃないから喋ってもらえると嬉しいかな~。さっきは何を不思議そうにしているのか何となくわかったから確認のために覗いただけだし』
「そうですか。わかりました」
う~ん、小説とかだとかなり無粋に覗き込んでる印象が強かったが、もしかしたらそう見えるだけで本当は違うのかもしれない。これはまた面白い発見だ。
「あの、一つ聞きたいことがあるんですが……」
『それは良いんだけど……君あれだね?自分が死んだってことに対してどうしてそこまで淡白な反応なの?』
「あ~……多分実感がないからじゃないですかね?交通事故なり事件に巻き込まれたりといった記憶が残っているか、あるいは自分の死体なり死んでいる現場なりが見えているのであれば他人事には思えないのでしょうけど、残念なことに今の私は口頭で報告されただけで確認できるものがありませんからね。加えて言えば、長らく一緒に過ごした家族やら友人の死ではなく自分の死を聞かされているわけですから、余計実感なてわきませんよ。……少なくとも私は、ですが」
『へぇ~、そんなものか~』
納得しつつも珍しい物を見たような声音の反応に、そんなものですよとだけ返しておく。
「それで、聞きたいことなんですけど……」
『何だい?君の死んだ理由かい?それともこの場所にいる理由かい?』
「いえ、先程私の頭の中を覗いたとおっしゃっていましたが、私の考えていることってどのようなかたちで伝わるものなのですか?やっぱり音声として聞こえるのか、それともログの様に文字に起こした状態でみることができるのか……はたまた別の見え方があるのか……」
『し、質問の内容が予想外すぎる』
驚愕したように響いていた声量が一段と増した。
確かに、声の主が言うような内容……まぁ、前者は間抜けな内容で無い限り教えてほしいくらいだが、後者の場合は確実に知っておきたい内容ではある。が、それこそよく見る勇者召喚なんかであれば仮にここで説明がなくとも召喚された先で説明がある可能性もあるため、優先順位は高いが必ずしも聞いておかなくてはならない内容と言うほどでもない。
だが俺が質問した内容……これに関してはこの空間で実際に俺の頭の中を覗いた声の主にしかわからない。……いや、同じ状況に陥って違う人物が対応してくれるのであればその人物……まぁ、人かどうかはわからんがその人物に聞いてみるのも良いだろう。だが、もう一度これと同じ状況に陥る様な可能性などあるはずもないし、そもそもそう何度も死にたくはない。となれば、たかだか小説やら創作物の内容とは言え前々から気になっていたことをこの機会に聞いてみるというのは、決して間違っていないはずだ。
「それで?頭の中を覗いた時はどのような形であなたに伝わっているのですか?」
『えっと……あぁ、君の世界で言うログ……って言うのかな?君が考えていたことが文字の羅列としてみることができるんだよ。しかも何と、進行形で考えていることを覗いた場合は音声付きで見られるのさ』
「おぉ、そう言う風に見えるんですか」
どこか自慢げな回答の内容は、ギャルゲーなどでよく見る様なシステムなのだろう。だが、それでも長年何となく疑問に思っていた答えが聞けたことに、俺は十分に満足した。
『満足できた?』
「はい。気になっていたことだったので、知ることができたのは嬉しいですね」
『うん、変わってるね君。普通は直前の記憶がないなら何でここに居るのかを真っ先に聞くと……あぁ、そう言う心配してたのね。しかも異世界に来た理由は後々知れる可能性もあるからって……仮に人気のない深い森の中とかに突然転移させられたらどうするつもりなのさ』
「その時はその時ですね。それよりも当事者でなければわからない疑問をぶつける方が先でしたから」
『確かに当事者にしかわからない内容だし、いざ異世界に行ってしまえば答えなんて聞ける可能性は限りなく0だろうけど……だからっていきなりその質問するかな?普通』
まぁ良いけどねとどこか楽し気な口調のまま先程の質問に対する会話を切ると、他に質問は?と再び問いかけてきた。
となれば、とりあえず聞いておくべきは……
「何故、私はこの場所にいるのですか?」
『それは何があってこの場所に来ることになったのかについてかい?それとも、君がこの場所に来ることになった理由についてかい?』
「後者ですね」
俺が即答したのに対し、そっかと声の主は驚くことも無く言葉を続ける。多分、先程俺の頭の中を見た際に間抜けな内容でなければと言っていたため、優先順位が低いと判断したのだろう。
『まぁ率直に言うと、僕の管轄になっている世界でちょっとだけ魔力が不足し始めてたから君のいた世界から魔力を分けてもらうことになったんだ。でも、宿屋やマンション?とかの部屋同士と同じで、世界と世界の間には互いの干渉や影響を及ぼさないようにするための壁が存在しているんだ。で、魔力単体じゃ世界と世界を隔てるその壁を超えることができないから、その受け渡しに使う穴を開けるために君を利用させてもらったのさ』
「それは、私でなくともできる内容だったのですか?それとも、何か特別な条件が必要だとか……」
『特別な条件……と言えばそうなんだろうけど、それほど細かい何かがあるわけじゃないよ。ただ、世界間の壁を超えるには魂にとてつもない負荷がかかるんだ。それも、君が考えていた中にある勇者召喚何かよりもはるかにね。だから、それに耐えられるだけの屈強な魂が必要だったわけ。それがたまたま君だったと言うことさ』
「……屈強な魂と言われましても、私はいたって平凡な普通の一般人ですよ?」
この場合は過去形の方が良かったか?……まぁ、どっちでも良いか。
『魂の強度については生活でどうのこうのとなるわけじゃ無いから、例え平凡な人生しか送ってい無かろうが奇天烈な人生を歩んでいようが、人生は関係ないんだよ。まぁ、生まれ持った才能とでも思ってくれれば良いかな』
「それはまた、喜んでいいのか嘆けばいいのか判断に困る才能ですね」
生きているうちには恐らく役に立たないであろう隠れた才能とやらに、何とも言えず思わず肩をすくめる。
……もしかしたら、魂が強い方が幽霊とかに取り憑かれにくかったりするのかね?いや、でも霊感が強かったわけでも無いから違うのか?わからん。
「それにしても、勇者召喚も同じ様に世界間の壁とやらを超える必要が有るんですよね?あなたの言い方では、そちらの方が魂にかかる負荷が少ないような言い方でしたが、それは何故なんですか?」
『召喚の際にはこっちの世界と君の世界との間に簡易的な道が形成されるんだけど、その中を通過する際には魂にかかる負荷がかなり軽減されるんだ。その際にも魔力の受け渡しは多少ならできるんだけど、元々魂を通すことを目的として形成される物だからそれ以外の作業はほとんどできないうえに役割を終えたらすぐに閉じちゃうから受け取れる魔力量なんて雀の涙以下なんだよ。……合ってるよね?雀の涙』
「大丈夫です合ってます。で、そうした時間的にも状況的にもほとんど余裕があるわけでも無い勇者召喚に乗じるより、双方の合意の下壁に穴を開けてしまった方が多量な魔力の受け渡しも十分に可能である……と言うことで合ってますか?」
『そ、合ってる合ってる。まぁ、正確に言えば穴を開けて、そこを広げる形で大きくするんだけどね。でも、勇者召喚で作られる穴はきれいに開けられるんだけど、その分広げるのが大変なんだよ』
「それに比べ直接壁に穴を開ければ、多少形は崩れるがその分拡張はしやすいと」
『そういうこと』
なるほど、そう言うことであれば勇者召喚以外でわざわざ魔力の受け渡しを行う理由がわかった気がする。
「……というより、私が居た世界には魔力があったんですか?」
『あるんだよ。有り余ってるんだよ』
「それは、魔力を日常的に消費することが無いからですか?」
『そういうこと。他の場所とは交流がないから全部が全部そうかはわからないけど、君の居た世界とこの世界では世界そのものが魔力を生産し、同時に世界を維持するために魔力を消費しているんだ。ただ、維持するだけなら消費する量より生産される魔力の方が多いから多少他のことで魔力を使用するのは問題ないんだけど、君の世界では維持以外で魔力は消費されず、逆にこっちの世界では至る所でばんばん魔力を消費しているってのが現状でね?少なくなってしまえば世界の維持に支障が出るし、かといって在り過ぎても世界に負担がかかって危険になる。だから、今回みたいに魔力の受け渡しなんて作業が行われているんだ」
「なるほど」
『まぁ、現時点では危機的状況とは言い難いんだけど、君みたいな存在ってのはかなり希少な部類だから魂が肉体から解放されたこの機に乗じようってことになったわけ』
「あら、案外そこまで深刻な内容じゃ無かったんですね。まぁ、消滅寸前の世界に送られるよりはいいですが……」
『でしょ?』
またも誇らしげな声音に変わる。
どうもこの声を聞くたびに、小さな子供が得意げになっている様な姿を思い浮かべてしまう。
「さて、一応この場所に来た……と言うより来させられた理由は理解できました。できれば、私がこの場所に来る原因となった出来事について教えていただけますか?話しているうちに思い出せるかもと思っていたのですが、どうやら無理そうだったので」
『あぁ、だから最後まで聞いて来なかったのね。と言っても、君が思うような間抜けな最後ではなかったよ?小さな女の子を助けようとして、君が死んでしまった……ただそれだけさ』
随分とあっさりとした物言いだ。まぁ、親しい間柄でも身内でもない相手に対してならば、こんな物だろう。
……それにしても、良く俺は子どもを助けようと動けたな。てっきり助けなきゃだと思っても動けないものだとばかり思ってたのに……。
『まぁ、そればっかりはそうした場面に実際に出くわしてみないとわからないものだからね。今までの人生で同じような場面に出くわしたことはあった?』
「……いえ、覚えている範囲ではありませんね。というか、今サラッと頭の中見ましたね?」
『あははは……ごめんよ?何か難しそうな表情をしてたからさつい……』
「そうですか」
そこでフと、疑問が浮上した。
「そう言えば、追加で質問してしまうんですが……」
『いいよいいよ~。……と言っても、そろそろ時間もなくなって来たからあんまり多くは答えられないんだけどね』
あら?時間制限なんぞ聞いてないんだが……
「時間制限とかあるんですか?」
『うん。今居るこの場所って、君みたいな魂の身の存在にとってはかなり厳しい環境なんだよ。なんて言うのかな……宇宙空間に生身で放り出されてるみたいな?』
「爆ぜるわ!!んなことされたら!!」
『いや、例えだってば!!例え!!それくらい過酷な環境であって、普通の魂であれば言葉なんか交わすどころかこの空間に招待した時点で消滅してしまうほどなんだ。逆に言えばそれだけ君の魂は強いってこと。それでも限界はあるから、あんまり長時間ずっとってわけにはいかないってだけ』
「あ~、ならば良かったです」
たとえだとわかっていても思わず声を荒げてしまった。
というか、この場所ってそんなに過酷な環境だったのか……何も感じないが。
「それで、質問というのは、先程から私の表情がどうのと言っていますけど、私には今身体があるんですか?話を聞く限り、私はすでに死んでいて魂だけの存在の様ですが……」
そう、俺はすでに死んで魂だけの状態になって居るはずなのだ。だというのに、声の主は俺の表情を窺って頭の中を覗いている。それはつまり、俺には体が存在していると言うことだろうか。
…………やはり下を覗いても何も見えないが。
『いいや。君は確かに死んでいて、魂だけがこの場にある。つまり、既に肉体とは離れてしまっている』
「なら、何故私の表情を知ることができるのですか?正直、眉を寄せたり口を動かしている感覚はあるのですが自分では見えないので、どうなっているのか。……もしかして、首だけで浮いてたりしませんか?」
『そんな気持ち悪い状況に何てなってないよ!!怖いこと言うね君!!』
良かった。どうやら生首状態にはなっていないらしい。
『今の君には、確かに肉体は存在しない。それでも僕が君の表情を理解できているのは、君の魂に刻まれている一番最新の肉体の記録を映し出しているからなんだ。ただ、君の方からはそれを見ることができないから、何もないように見えているだけなんだけど、僕の方からはちゃんと君の意志に沿った動きをする人間に見えているよ。えっと……ちょっと覗かせてもらうね………………あぁ、マジックミラーってやつだと思えばいいのかな?中からは外しか見えないけど、外からだと別の物が見えてるみたいな感じ』
「なるほど。……でも、肉体がないのに何故手足を動かしている感覚があるんですか?」
『その感覚自体は魂に記録されているから、君の意志に合わせてその情報が適応されているんだよ。でも、五感そのものは失われているから、触れもしないし何かを見ることもできない。だから、僕の見えている物を君が視認することはできないし、仮に君の隣に何かがあっても触れることも感触を確かめることもできない。あぁ、声に関しては僕の方は魂に直接語りかけてるだけだし、君自身も声を発していると言うより思考を飛ばしているって感じなんだ。もっとも、伝える意思のある内容だけが僕の方に届いて、一人で考え込んだりする内容はそのまま君自身の中にとどめているんだけどね』
おぉ、まさか頭の中で考えているつもりだったことまで全て駄々漏れだったのかと思ったが、そうではないらしい。……これも漏れてないよな?
それにしても、まさか刑事ドラマの取調室やAVでよく見るマジックミラーの様になっていたとは……見えないはずだ。って、視覚もないからどっちにしろ見えないのか?まぁ、どっちでも良いか。
何にせよ、この場に来てから何故体を動かす感覚があるのに体が見当たらないのかについての謎がようやく明らかになって良かった。正直、訳のわかっていないこの現状が少し気に入らなかったのだ。
『他に、何か聞きたいことはあったりする?』
その質問に、俺は考え込む。
これ以上、ここで聞いておきたいことはあまりない。時間がないと言う割に向こうから話を切り出してこないあたり、良くゲームなどになぞらえた様なステータスの振り分けやスキルの選択やらと言ったものは無いだろう。となると、後は転生と転移のどちらになるか、向こうの世界で何かすべきことがあるのか……くらいか?現状が魂だけということは、恐らく転移という形ではなく転生という形になるような気もするが……
「あの、私はこの後、転生という形になるのでしょうか?それと、向こうの世界……あぁ、壁を超えているから既にこちらの世界ですか。こちらの世界で何かやるべきことはあるのでしょうか?」
『えっと、まず最初の質問については転生という形になります。でも、赤ん坊として生まれるわけじゃ無くて、こちらで用意した肉体に魂が宿る形かな。ホムンクルスとかじゃなくてちゃんとした普通の人族の肉体だし、元の世界に居た頃と同じ外観の物を僕の方で用意するから見た目は君が死んだ一七歳の肉体と同じにしてるから安心して?もちろん髪も黒いままだし、焦げ茶の目の色もそのまんま……あ、下の方は元々大き目だったけどもう少し逞しくしておいたよ?……そうそう、今君が想像した「余計すぎる配慮だわ!!」
あまりにも予想外の内容に、俺は反射的に体を半身に反らして内股になって股間を両手で隠す。
それはもう、自分でもびっくりな反応速度だと自負しているが……よくよく考えたら、遮る物も隠すべき対象もここには無いんだった。
「………………それで、えっと……人族ってことは他にも似たような外観の種族があるんですか?」
『うん。でも、それは現地でのお楽しみにしておこう。それから、何かやることがあるのかって話だけど……ごめんね?これに関しては今の時点で君の役割は全うされたから、地上に降りても何をしてほしいってことはないんだ。まぁ、逆に言えば自由に世界を満喫すればいいってことだね。あぁ、でも安心して?魂の強度に合わせて肉体も作るから、現地の人達に比べて圧倒的に強い肉体にはなってしまうから』
「なってしまう……ですか」
『うん。弱い肉体だと魂を受け止めきれなくて四散するよ?それでも良いならつくりな「ぜひとも今用意してある肉体を使わせてください!!」
土下座した。気持ちだけなのかもしれないが、もの凄い勢いで生まれて初めての土下座を繰り出してみた。
いや、流石に異世界入ってすぐに四散するとか考えたくもないわ!!
『うわっ!!びっくりした!!大丈夫だから!!そんなことしないから頭を上げてよ!!』
声の主が慌てている様子であることから、どうやら俺の身体はちゃんと思い通りに動いてくれたらしい。その為、言われるがまま頭を上げ、元の立っていた姿勢に戻る。……戻れてるのか?これ。感覚も膝への負荷もないから心配になるな……。
『さてと、あんまり長居させても魂に負担がかかるだけだから、そろそろ君を転生させようと思うんだけど……もう他に聞きたいこととかは無い?』
「……あぁ、そう言えば勝手に決めつけて話を進めていたんですが」
『何かな?』
「私が転生する世界って、魔法みたいな元居た世界にはないような物が存在していますか?あと、魔物みたいな危険な生物は存在していますか?」
『両方とも存在してるよ。というか、君の世界は魔法の代わりに化学が、僕の世界は科学の代わりに魔法が発達した世界なんだ。……と言っても、文明の水準は明らかに君が居た世界の方が高いんだけどね』
「あぁ、やはりと言うべきか、そうなんですね」
『そうなんだよね~。まぁ、君には不便かもしれないけど、自然が多い緑豊かな場所とでも考えてよ』
「そうしておきます。…………他にこれと言った疑問が思い浮かばないので、もし転生できるのであればしてください」
少し考えてそう言うと、声の主はわかったよと答える。
直後、俺の身体……正確には魂が、先程まで感じることの無かった重力の様な物によって下へと引っ張られる。地上に降りると言っていたあたり、やはり落下することになるのだろうか?あの変な浮遊感は苦手なんだがな……
『あ、最後に僕から質問しても良い?』
「何ですか?」
『何で君、そんなに堅苦しい喋り方してるの?頭の中を見た時には、すごい砕けた喋り方ができてたのに……』
その質問に、はぐらかすべきかどうかと一瞬悩む。
そして、
「私は人見知りなので、初対面の方にはこうした話し方になってしまうんです」
『そうなんだね。できれば砕けた喋り方の方が良かったけど、それなら仕方ないのかな』
特に声音が変わらないあたり、どうやら頭の中を覗かずに納得してくれたらしい。
『さて、それじゃ少しだけ雰囲気づくりに……』
と、声の主は言葉を止める。
威厳のある喋り方にでも変えようとしてるのかね?と考えている内に、白一色だった光景は浸食されるように下の方から黒く染まっていく。それは半紙に垂れた墨汁の様にジワリと浸食し、下半分の領域を染め上げ更に上へとその領域を拡大し、ついに視界が染め上げられる間際、
『ようこそ、九ノ坂紅野君。僕が管轄している世界、フィーn……』
……
…………
………………
「声の主最後の最後でタイミングミスりやがったー!!」
そんな文字通りの魂の叫びと共に、俺の意識は暗闇の中へと吸い込まれて行った。
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「……ふふふ、ちょっと楽しい時間だったかな」
方向も境界もわからない真っ白い空間の中、それは口元に小さく笑みを浮かべていた。
十歳前後の見た目をした、スカイブルーの大きな瞳と鮮やかな金色の髪を腰の辺りまで伸ばしたそれは、先程までの時間がもう少し長く続けばよかったのになと、今度は少しばかり口を尖らせて拗ねた様な表情を作る。
わかっている。あのまま気の済むまで会話を続けていたら、間違いなく彼の魂は消滅していただろう。それだけは、何としても阻止する必要が有ったのだ。
その為に我慢した結果、彼の魂は無事に離れ、地上に用意した肉体へと宿らせることができた。
「後は、用意した肉体の方に魂が定着してくれれば完了なんだけど……」
そう言い、それは先程まで見ていた方向とは反対の方向へと歩き出す。
音もなく、過ぎ去る物もなく、されども二本の足は確かに地を踏みしめる様に動き、それに合わせて髪が上下になびく。どこか楽し気な表情を浮かべながら進んでいたそれは、ある程度進んだ場所でピタリと足を止めた。そして、何もない空間に手をかざし、そっと右へと滑らせる。
直後、それの目の前に一人の少年が姿を現した。
身長は一八0に届くかどうかと言ったところか。肩付近まで伸びた黒い髪をした、齢十七ほどの中肉中背の少年だ。青いジーンズ生地の長ズボンに白い半袖のTシャツを身に着け黒いスニーカーを履いており、その格好は明らかに外出時の者である。にもかかわらず、前髪の隙間から覗く切れ長なまつ毛の並ぶ瞳は閉じられており、規則正しく肩が上下しているところを見るに、どうやら眠っているようだ。
もっとも、少年の身体は横たわっているのではなく直立した状態ではあるのだが……。
「……ようやくだ」
言葉を漏らし、それは小さな手を伸ばし少年の身体へと軽く触れる。
「ようやく、僕も地上に降りることができる。それまでに、この肉体を僕の使いやすいように調整しておかなきゃね」
まるで新しい玩具を買ってもらった子供のように、それは見た目の年相応の無邪気な笑みを浮かべた。
最後までお読みいただきありがとうございます
次回の更新はいつになるかわかりませんが、また時間が余っていれば目を通してみてください