第6話【最高の見繕い】
「へい、いらっしゃい」
「お、フィオナの嬢ちゃんだな」
中年男性の威勢のいい声が響き渡った。
「やぁ久しぶりだな、親父さん」
今、俺と悠貴はフィオナの案内でこのモンゼンの町にある、バッカス工房という鍛冶屋を訪れていた。
「フィオナの嬢ちゃんがツレを連れて来るなんて珍しいな」
「で、後ろのお二人さんは?」
「私の新しいパーティーメンバーだ」
「こいつらに装備を見繕ってやってくれ」
「わかったぜ、じゃお二人さん能力値の書いた石版を見せてくれ」
「わかりました」
そう言われて、俺と悠貴は鍛冶屋の親父に石版を見せた。
鍛冶屋の親父は石版を見て、少し顔をしかめた。
「フィオナの嬢ちゃん、固有スキル持ちとFランクのフロンティアが一緒にパーティーを組むって、どうゆう人選だ?」
「私にもいろいろと事情があってな、まぁ気にしないでくれ」
フィオナは少し困った顔で答えた。
鍛冶屋の親父は静かに頷いて、店の奥の方へと足を運んだ。
俺達が鍛冶屋の中にある品々を見ながら待つこと数分、鍛冶屋の親父が細長い袋を抱えて、店の奥から出てきた。
「待たせたな、これは俺の打った物の中でも5本の指に入る代物だ」
鍛冶屋の親父は抱えていた袋から剣を取り出した。
俺達の前に置かれたその剣は、底の見えない穴のように吸い込まれそうな黒色の鞘に納められており、少し反りのある形状になっている。
剣というよりは刀に近い感じがする。
「これはまた変わった形状をしているな」
フィオナはその剣に興味津々な様子だった。
「この剣の素材には特殊な鋼を使っていてな、切れ味が抜群なんだ」
「そこで俺なりに工夫してみた結果こういう形状になったてわけよ」
「しかもこの刀の鞘と柄にはバベリアのど真ん中にある、あの大樹を使ってる」
鍛冶屋の親父は自慢げに俺達に刀の説明をしてきた。
「すげぇーぞ陽凪、この世界にも日本刀があったんだなぁ」
悠貴も男の子だこうゆう物には憧れを抱くのだろう。
「そこのイケてる兄ちゃんにとっても不満のない品だと思うぜ」
「でも、こんな業物を私達に渡していいのか?」
フィオナは申し訳なそうな顔で質問した。
「イケてる兄ちゃんは能力値を見る限り練度0、つまり期待の超大型ルーキーって事だろ」
「それにフィオナの嬢ちゃんのパーティーメンバーに三流品を渡すわけにはいかねぇーだろ」
「ありがとう、親父さん」
「そしてこっちがFランの兄ちゃんの短剣だ」
そう言って鍛冶屋の親父は、透き通った青色をしており、ほのかに光を放つ短剣を出した。
今Fランの兄ちゃんって言ったよな。
入試難易度が低い偏差値がお可哀そうなあれの呼び名かよ、ふざけんなよ。
「陽凪、何をそんなにしょんぼりしてるんだ?」
悠貴は何も気づいていない感じで質問してきた。
「俺、模試の偏差値は60よりちょい下ぐらいだし……Fランじゃねーし」
俺は小声でぶつぶつと呟いた。
「何言ってるんだお前」
俺と悠貴が理由のわからないやり取りをしていると、鍛冶屋の親父は大きく咳き込んだ。
「ちょっといいかお二人さん、この剣の説明を始めるぜ」
「この剣は魔剣だ、使用者の魔力を吸収して魔法を行使できる、ちなみにこいつは魔力のストックが可能」
「つまり魔力がないFランの兄ちゃんでも仲間に魔力をストックしてもらえば、魔法を行使できるって事だ」
「おぉー俺も魔法が使えるのか、すげぇーな」
この世界に来て魔法を使う事を諦めていた、俺は少しだけ救われた気持ちになった。
「気に入ってくれって良かったぜ」
「じゃー、後は防具だな」
そう言って、鍛冶屋の親父はまた、店の奥へと足を運んだ。
しばらくして、今度は大きな箱と小さな箱を抱えて戻ってきた。
そして俺達の前に箱を置き、2つの箱の蓋を開けた。
「左のがイケてる兄ちゃん用、右がFランの兄ちゃん用だ」
「着てみてくれ」
俺と悠貴はすぐに鍛冶屋の親父が持ってきた装備に着替えた。
「おぉー、二人とも似合っているじゃないか」
フィオナは俺達の装備を見て、嬉しそうに言葉を放った。
隣を見てみると、白金色と青色を基調としたスマートな鎧に身を包んだ悠貴が立っており、その姿はまさにゲームやアニメに出てくる勇者そのものだった。
俺は普通の服に軽い金属で作られた胸当てをし、その上から青紫色の腰まであるマントで身を覆った。
全然悪くない格好ではあるが、悠貴と比べるとモブ冒険者感が半端なかった。
「じゃ、親父さん武器と防具一式を頂くよ」
「まいどあり、フィオナの嬢ちゃん」
「どれも間違えのない品だ、少し値は張るがそこは勘弁してくれ」
「フィオナ、俺が払うよ」
悠貴はギルドで貰った報償金を出した。
「ユウキ、これは私のお願いを聞いてくれた君達へのお礼だ、気にせず受けっと欲しい」
「フィオナ、ありがとう」
悠貴は笑顔でフィオナにお礼を言った。
「ありがとう…」
悠貴に続くように俺もお礼を言った。
フィオナは会計を済ませ俺達は新しい装備に身を包んで、鍛冶屋を出た。
「フィオナの嬢ちゃん、気をつけてな」
鍛冶屋の親父は少し寂しそうに言葉を放った。
「お二人さん嬢ちゃんをたのんだぜ」
鍛冶屋の店先から俺達を見送っている、鍛冶屋の親父に向けて応えるように手を振った。
「二人とも、装備も整った事だし、後はバベリアに向かうだけだ」
「この町からバベリアに向かう馬車が出るのは4日後、それまでに十分に旅路の支度をしてくれ」
「わかった」
俺と悠貴は、フィオナと別れ宿への帰路についた。
御一読していただき、ありがとうございました。
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