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Beyond the front line 〜弱キャラよ人類の最前線を超えろ〜〈プロト版〉  作者: トワイライトGoodman
第1章 異世界来訪編
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第4話【紅蓮の記憶】

 

数秒間の沈黙が続いた後、俺の隣から低くて鋭い声が聞こえた


 「もし仮に俺達がその異世界人だったら、ギルド長は俺達をどうするおつもりですか?」

 そう質問仕返した悠貴の表情は何時(いつ)になく真剣な表情をしていた。


 「安心してくれ、特にどうもしない」

 「ただ君達二人が本当に異世界人ならお願いしたいことがある」

 ギルド長ユースティア=フィオナは柔らかい声で質問に返答した。


 「ギルド長御名答です、俺達二人は地球という星の日本という国から来た異世界人ですよ」

 俺は何故(なぜ)か笑いながら自分たちの正体を明かしていた。

 

 「やはりそうか、君たちは師匠と同郷の者だったんだね……」

 ギルド長はどこか寂しげな声を漏らした。


 「今、あなたの師匠と俺達が同郷って言いました?」


 「うんその通り、師匠の名はシノザクラ・サヤ、私の大恩人だ」

 「その師匠は君達が来た場所と同じ場所を故郷だと言っていた」


 俺達以外に同郷の人がこの世界に転移していた事を知って驚いた。


 「ギルド長はどうやってその方と出会ったのですか?」

 単純に疑問に思ったので俺はギルド長に質問してみた。


 「じゃー少しだけ君達に私の過去の話をしてあげよう」

 ギルド長は少しだけ暗い表情でそう言った。


 

 ♢ ♢ ♢


 

 これは今から13年程前の話になる。


 私の血統であるユースティア家は代々ある国の大領主として名を馳せていた。

 私はそんなユースティア家の跡取りの一人娘として生を()け、何不自由ない環境の中で幼少期を過ごした。


 そして私が8歳の頃、我が父ユースティア=フィルフレッドは先代のお祖父様から大領主の地位を譲り受けた。


 「お父様は、お偉くなったの?」


 「あぁーユースティア家が代々守り抜いてきたこの土地と民の為に、もっとお父さんは頑張らいないといけない、だから少しフィオナと遊んでやる時間は減るかもしれない」

 「ごめんな……」


 8歳の私からすれば父と関わる時間が減り、我が父が少し遠い存在になった気がして寂しかったかもしれない。

 だが我が父はいつも自分の領地の民草(たみぐさ)の暮らしを向上させようと日々尽力する、とても努力家で優しいお方だった。

 私はそんな父の背中を見て憧れを抱いた、だから私は自分の寂しさを押し殺すことができた。


 それから2年後、私が10歳になった時、我が父はある制度を廃止しようとしていた。

 それは奴隷制度の撤廃だった。

 私の祖国では奴隷制度は根強く残っており、貴族なのに奴隷を使役しない我が父は周りの諸侯(しょこう)からは変人として扱われていた。


 奴隷制度を撤廃したユースティア家の領地には、他の領地から沢山の難民や社会的な地位の弱い者たちが移り住んできた。

 その者達はよく働き、よき人格の者ばかりで、奴隷として扱われず自由を享受(きょうじゅ)出来たことを大変喜んだ。


 その結果ユースティア家の領地は経済的に(うる)おい我が父は民草の生活を向上させる事に成功した。


 「フィオナ、これが私の創りたかった場所だ、民草が皆笑っている」

 「お前はこれからユースティア家の次期当主として、民草と共に進んでいく世界を創りなさい」

 

 「分かりました、私もお父様のような立派な領主様になります」

 そう言うと我が父は私の頭をそっと()でてくれた。

 その時の我が父はとても幸せそうに見えた。


 だがこの時を最後に私と我が父が、言葉を交わすことはなかった。


 翌日我が父は奴隷制度撤廃の成果を報告するために王都へと旅立った。


 それから1ヶ月後ユースティア家の領地に大軍勢が押し寄せてきた。


 「この地の領主、ユースティア=フィルフレッドは我が祖国へ謀反を働いたとして、王都にて捕縛した」

 「ユースティア家の者は直ちに投降せよ、又ユースティア=フィルフレッドは領地内に大量の兵器を隠しているとの情報が入った、この地は今から立入禁止区域となる、民は直ちに領地外に避難せよ」

 拡声魔法で領地全体に流れた。


 しかしその放送を聞いた領地のほとんどの人々は避難することをしなかった。


 後で分かった事だが、これは我が父が奴隷制度を撤廃したことによって、自分の領地に奴隷がいなくなり面白くないと思った他の領主共が父を失脚さえようと策略した物だった。


 「皆さん領地内は危険です早く避難してください」

 私と母上は少しでも多くの人を逃がそうと領地内に声をかけってまわった。


 「何言ってるんですか、領主様がそんな事するわけないじゃないですか、きっと何かの間違えですよ」

 「それに俺達にはここ以外に行く場所なんてないですよ」

 民草は我が父に絶大な信頼を寄せている事を知って、私は少しだけ涙した。


 夜中になりまた拡声魔法で領地全体に放送が流れた。

 「これは最終通告だ、明日の朝までにこの地に残っている物は全員反逆者とみなす」


 「母上どこにいかれるのですか?」

 

 「あなたは民の方々とお逃げなさい」


 「待ってください……母上」

 

 母上はその放送を聞いて敵の本陣へと単身で乗り込んでいった。

 

 「定刻だ、では進軍を開始する」

 明け方になり大軍が領地内に侵入してきた。


 私と民草はギリギリまで領地内に残り、我が父が無罪であると抗議した。

 だが本当に命の危険が迫りやむなく逃げることなった。


 「見つけたぞ、ユースティア=フィオナだな」

 そう言って追手を引き連れて来た男は我が父と同じこの国の領主だった。


 「貴様の母も捕縛した、お前もおとなしく投降しろ」


 「フィオナ様お逃げください」

 私と共に避難していた民草達は私を守る為に追手の前に立ち塞がった。


 「お前ら奴隷上がりの平民ごときが我が兵を相手に出来るとでも思うか」

 「思い上がるのもいい加減にしろ」


 「皆さんだめです、私はいいのでお逃げください」


 「奴隷上がりの頼りない俺達でも恩人の娘ぐらい守らせてくださいよ」

 「さぁ走ってください、きっとどこかにあなたを助けてくれる人がいると信じて…」


 私は大泣きしながら走った。

 私の後ろからは次々と人々がやられていく声がした。


 そして逃げ続けて2日後、私が出会ったのは悲運にも奴隷商の男だった。


 皮肉な話だ奴隷制度を撤廃した元領主の実の娘が奴隷になるとは。


 私が奴隷の身分になって3ヶ月程がたった頃、私はここモンゼンで師匠シノザクラ・サヤと出会った。


 「奴隷商さん、ここの奴隷を全員私が引き取るわ」


 「承知しました、金貨120枚を頂戴いたします」

 師匠は快く金貨120枚という大金を奴隷商に支払った。


 「さぁ今日からみんなは自由よ」

 その後、師匠は私達一人ひとりに金貨を5枚ずつ渡した。


 「今渡したお金で美味しいものでも食べて、新しいお仕事を探してね」

 そう言って私達の前から去っていった。

 その背中は我が父のようにかっこよかったのを今でも覚えている。


 「待ってください、何で私達を助けたんですか?」

 私は師匠の後を追って問いただした。


 師匠は驚いた顔でこっちを向いた。

 「私は世界中の奴隷を解放したい、しかしそれは無理な事だわ」

 「でもせめて、私の目の前にいる人達は出来る限り救ってあげたかっただけよ」


 「私は自由になっても行く(あて)がありません、だから私をあなたと一緒に連れて行ってください」


 「いいわよ、でも私はフロンティアを生業(なりわい)としてる、だから命の保証は出来ない」

 「それでも一緒に行く?」

 

 「はい」


 こうして私はバベリアでフロンティアとして生きていく事となったのだ。 



 ♢ ♢ ♢



 「それでギルド長のお父様とお母さ様は…」

 俺の横で悠貴が悲しそうに声を発した。


 「安否はわからん、だが恐らくは死罪だろうな」


 ギルド長のその返答を聞いて俺達は神妙な面持ちになった。


 「すまんな、こんな酷な話をして」

 「おっと、過去の話にふけっていたら、もう夜だな」

 

 「そうですね」

 俺は穏やかな声で返答した。


 「今日は私が宿を手配しよう、この世界に来て驚くことばかりだっただろう」

 「存分に疲れを癒やしてくれよ」


 「ありがとうございます」

 俺と悠貴は揃ってお礼を言った。

 

 「明日またここへ来てくれ、その時に本題は話すよ」


 その後俺達はフロンティアギルド兼モンゼン行政府を出てギルド長の手配してくれた宿へと向かった。


 こうして俺と悠貴は突然の異世界転移から始まった怒涛(どとう)の一日は幕を下ろした。


 御一読していただき、ありがとうございました。

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