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Beyond the front line 〜弱キャラよ人類の最前線を超えろ〜〈プロト版〉  作者: トワイライトGoodman
第2章 蒼天大瀑布編
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第44話【蒼の頂に至る】

 

 結局、幾多のトラブルに巻き込まれた俺達は上陸時の計画よりまる一日遅れで最終目的地の手前まで到着した。

 『前線浮遊都市(レコードグラム)』からの予定のズレを考えると、確実に数日は遅れている。


 『大探索の命令』が出され、この蒼天大瀑布を目指すのに結成された先遣隊には当初は千を超える人数が参加していたものの、『七星樹(セブンズオーダー)』の国々から派遣された部隊を中心に先遣隊をより精鋭化した約400名の『前線連合隊(フロントユナイツ)』へと再編さた。


 その400名で幾千もの魔物との空中大戦を突破し、やっとの思いでこの蒼天大瀑布に上陸した。

 勢いそのままに『前線連合体(フロントユナイツ)』を探索組と防衛組に二分し、俺たち探索組は上陸の翌朝には討伐目標である『ハイドラ』が巣食う、この島の頂上を目指した。

 しかし道中『ハイドラ』の幻影との戦闘により探索組の大半が負傷し、死者までもが出る、人類未知への挑戦の厳しい現実を叩きつけられた。


 そして、幾多の困難と犠牲と雑用と… あっ…これは俺だけか。

 ともかくその他諸々を乗り越えて、あろう事か最終目的地に到達した7人の内の一人として断崖絶壁の前に立っていた。

 こんなの俺にとっても、この世界の皆様からしても役不足、場違い、キャステングミス、過重労働、労働基準法違反だろ。

 最後の2つはこの世界の皆様には関係ないけど。


 まぁ…それでも荷物持ちとして、いろいろな必須アイテムでパンパンに膨らんだリュックをなんとか此処(ここ)まで運んで来ることが出来るぐらい体力的には成長したと言える。


「この先にハイドラがいるんですか?」

 ミアが目の前に広がる断崖絶壁を見上げながら、少し動揺したように呟いた。


「ハイドラの言葉が本当ならこの島の頂、即ちこの向こう側だ」

「それに僕には魔力が無いから余り分からいけど、魔力がある君たちなら他の魔物とは比較にならない魔力をなんとなく感じ取ってるんじゃないのかい?」

 ミアの問にしっかりと答えたブリューゲルさんだがその視線はずっと前だけを向いていた。


「確かに僕でも、少しは感じ取れますね」


「俺には恐ろしいぐらいに分かる、この先にいる敵の大きさが…」


「あぁ…私も正直少し足がすくんでいる…」


 魔力の無い俺とブリューゲルさんはともかく、どうやら魔力のある連中はその力が強い者程、ハイドラが放つ禍々しい魔力をより強く感じ取っている様子だ。

 それは俺のパーティメンバーだけでは無くゼスタさんやフィオ王子も同じのようだ。


「何が起こるか分からないが我々の目標は飽くまでハイドラの偵察と周辺状況探索だ」

「必ずしも戦闘の必要は無い、と言うか戦闘は裂けたい」 


「その前にどうやってこの断崖絶壁を登るんですか?」

 そう先程から俺たちの目の前に広がっている光景は地面から円柱上に隆起した断崖の岩壁で、その高さは優に50メートル以上を越え、横幅は一つの方向からでは全貌を掌握しきれない程大きい。

 そして何よりその岩肌を水のカーテンで覆うかの如く大滝が何箇所も上から下へ物凄い勢いで降っていくのが衝撃的で幻想的な光景でならなかった。

 落下した勢いで飛び散った水しぶきを浴びた瞬間、俺は確信した。

 豊かな植物を育みこの島を美しい一つの噴水のように見せていた数多の滝やそれに伴って形成された滝壺や湖の数々、小川の一つ一つに至るまで、その源流はこの断崖絶壁の上にあるのだと。

 蒼天大瀑布が(あお)い神秘に満ちている所以はこの(いただき)にあるのだと。


「登らないさ」

 ブリューゲルさんは端的に呟いた。


「これだけの勢いで、これだけの数の滝が流れているんだ」

「きっとどこかに侵食され、壁の向こう側に繋がる亀裂がはいってるはずだ」

 いつもは何事にも適当で、『前線連合隊(フロントユナイツ)』のリーダーなのに此処に来ても未だお酒をパンパンに詰め込んだリュックを背負ってるくせに、今のブリューゲルさんはずっと前だけを向いていて、彼の放つ言葉には真実味があるような気がした。


 念の為にフィオナの方に視線を向け彼女を見ると、一瞬だけブリューゲルさんの方に目を配り軽く頷いた。


「フィオナがそう思うなら…」

 俺は思わず小声で呟いてしまった。


「じゃさっそく、その亀裂とやらを探しましょうか」

 ゼスタさんは会話の流れを組み、俺達に次の行動を促す。


「ちょっと待ってくれ… その前に一つだけ」

 皆が動き出そうとしたその時、俺達の行き足を止めたのは悠貴(ゆうき)の一言だった。


「この先、万が一戦闘になるかも知れないだろ?」

「そうなった時にここいる皆が互いに能力を知っていた方が連携も取れるし、きっと死ぬ確率も低くなると思う」

「だから最終確認と言うか…情報共有をしておきたい」


「分かったユウキの言う通りだ、君はずば抜けた戦闘力だけじゃなくて頭もキレる男だね」

 世界一のフロンティアも褒め称える、これでこそ我らの完璧超人 神海磯(かみがそ)悠貴(ゆうき)さんだ。


 悠貴の提案にゼスタさんやフィン王子は少しだけ渋った顔をしている。

 そりゃ彼らは『七星樹(セブンズスター)』の国々の最高戦力者達だ、今は共通の敵を得て一時的に結託をしているが他国の要人や世界屈指のフロンティア達に自らの情報を洗いざらい吐くのには抵抗があるのだろう。


「皆さん洗いざらい全部教えるのもアレでしょうし、秘技とか奥の手とか色々あるでしょうし… 主な戦闘スタイルとか能力の概要だけでもいいんじゃないですか?」

「そこは個人判断という事で」

 彼らの様子を見てすぐさま俺がフォローに入る。 

 人の顔色を伺い、人の意見のフォローなど普段なら絶対にしない。

 しかし今、俺達は命を張ってる状況だし、悠貴の提案は少なからず生存率を上げるのに有効な手段ではある。


 どうやら俺の言葉を聞いてゼスタさんもフィン王子も少しは乗り気になってくれたみたいだ。


「じゃ…言い出しっぺの俺から」

「俺の魔力属性は基本5属性全て、スキルは『英気繁栄』と『永久ふろぉ…」

 危うく悠貴は俺たち異世界転移者の秘密をバラすところだったがギリギリの所で言い留まった。

 完璧超人のくせにたまに、こいつはボロが出るから困る。


「『英気繁栄』は簡単に言えば逆境になればなる程、俺のステータスが跳ね上がる」

「それと剣技に関する普遍スキルがちらほらって感じかな」


「貴様はさっき『英気繁栄』の他になにかもう一つスキルを言っていなかったか?」

 フィン王子がすかさず指摘する。


「あぁ… いえ技の名前を間違えって言いそうになっただけで…」

 悠貴はいつものコミュニケーション能力の高さを生かしてなんとかごまかそうとするが、フィン王子は何かに勘付いたように顔をしかめる。


「じゃ次は俺が、名前は小野田(おのだ)陽凪(かげなぎ)

「魔力なし、目立ったスキル、ステータス無し、魔剣と魔蔵石を使って物頼り、他力本願で此処まで来ました」

 フィン王子に勘付かれまいと、俺はすかさず自分のステータスを洗いざらい吐いた。

 俺が言葉を発した後、場は呆れ返った雰囲気になったが、そんなのはもう慣れっこだ。


「僕は魔力属性 風と力の二属性、スキルは『一発必中』と弓技に関する物が一つ」

「ご存知の方もいると思いますが『一発必中』は文字通り一日一回、僕の全魔力を消費して使用できる技です」

「おそらく、皆さんの中ではお荷物ですが後方支援頑張りますのでよろしくおねがいします」


 うん。こんな人類の最前線で危険な場所でもミアは変わらず可愛い。


「私の魔力属性はユウキと同じ基本5属性、戦闘スタイルは疑似精霊を作成し使役させる事、また作成した精霊を自身の体に取り込むことで私自身を強化する事も可能だ」

「私の作成する主な精霊たちは四大精霊の名を冠し、火の大精霊をサラマンダー、水の大精霊をウンディーネ、風の大精霊をシルフ、土の大精霊をノームだ、この4体ぐらいは覚えておいてくれ」


 確かまだ、水の大精霊ウンディーネと土の大精霊ノームには対面したことが無いな。 

 彼女の作成する精霊たちは皆各々に意志を持ち、中々個性豊かだから残る2体もシルフみたいに常識的だといいんだが。


「次は僕だ、僕のスキルは『万象魔眼』」

「皆も知っていると思うからスキルの說明は省く、それよりも皆に知って欲しいのは僕のスキルの使い方だ」

「僕は確かに一度見たスキルや魔法を模倣することが出来る、だがそれは魔法やスキルまでしか模倣出来ないとい言う事でもある」

「セルギウスみたいにあんな大投擲は出来ないし、ゼスタみたいな一流の剣技を真似ることは出来ない」

「僕の身体能力はカゲナギ並の超一般人、ただ魔法やスキルに起因する身体能力強化は可能だ」

「その他にも条件はあるんだけど、大まかな事はあと2つだけ『万象魔眼』のリミットは一日合計約一時間まで、複数の魔法やスキルを同時に使用可能だが、2つ同時に使えば一秒で2秒分、3つ同時に使えば1秒で3秒分ずつリミットが減っていく」

「最後に一つだけ、この先遣隊で言えばアイギスとミアのスキルだけは模倣が不可能だ」


 ブリューゲルさんは制約の多い、自身のスキルを見事に說明しきって見せた。

 てかこの人のスキルただのチートと思っていたけど、意外と制約多いし、意外と頭良くないと使いこなせそうに無いな。


「私の魔力属性は空間、空間その物を引き裂く剣です」

「残念ながらこれ以上は…」

「しかし、仮にまたあの幻影と対峙する事がありましたら私が引き受けましょうぞ」


 先の幻影を討伐したのもゼスタさんの剣だ、ハイドラ攻略に置いて彼の存在は必要不可欠な存在だろう。


「最後は余か… 余の魔力属性は力属性ただ一つ」

「余の魔法は全ての力を捻じ曲げ、屈服させる」

「今言える事は以上だ」

 フィオン王子は口数少なめに說明を終えた。


「まぁ…ブリューゲルとやらはどうせ『万象魔眼』でだいたいの能力は把握しているのだろ?」  

 フィオン王子の問いかけにブリューゲルさんはこくりと頷く。


「ならそれで十分だ」

 ブリューゲルさんの動向をちらっと脇見して、言葉以外の何かで通じ合っている長年付き合いのある友達みたいに単調な一言だけを呟いた。


 前線浮遊都市(レコードグラム)を出発する時はフィオ王子はブリューゲルさんに対しいて余りよい感情を持ち合わせていなさそうだったが、今はそれなりに前向きな感情を持っているようだ。


 この世界に来てまだ日が浅い俺でもなんとなくだが分かる。

 フロンティアと『七星樹(セブンズオーダー)』の要人達、両者は決して相容れぬ事の無い存在なのだろう。


 でも今は一時的とは言え互いに背中を預ける者達。

 とても深く厚い関係性を築けたとは言えなけど、それでも俺たちは人類の最前線に立っていると言う矜持と、共に死線を潜り抜けた経験でどうにかこうにか信頼できる関係性を得たのかもしれない。


 気づけば俺はその場に一人取り残され、他の皆は迷うこと無く一歩前へと前進していた。


 御一読していただき、ありがとうございました。

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