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Beyond the front line 〜弱キャラよ人類の最前線を超えろ〜〈プロト版〉  作者: トワイライトGoodman
第2章 蒼天大瀑布編
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第43話【再出発の朝に】

 

 世界樹の光は『蒼天大瀑布』の存在を世界から隠そうと(たたず)む分厚い雲を通り抜け、一日の始まるを知らせる朝日を降り注がせていた。

 そして今日はこの島の頂で待ち受ける討伐目標『ハイドラ』との接触を試みる時だ。

 それは俺たち、いや今までに人類の最前線を塗り替えようと立ち上がった者達全てにとって重要な局面を迎えるということだ。


「やっぱ怖いな…」

 俺は寝泊まり用のテントの中で衣服を着替えたり、荷物持ちとしてリュックの中に戦闘用のアイテムを詰め込んだりと身支度に追われていた。


「何今更、怖気ずいてるんだ?」

「昨日はあんなかっこいい事言ってたじゃないか、フゥ」

 俺の傍らではすでに身支度を終えた悠貴がいつものように白金色と青色を基調とした勇ましい鎧を身に纏い、慌てた様子で身支度をする俺を見ながら、準備運動をするように四肢をぶらんぶらんして体を慣らしている。


「おまっ、それ俺を褒めてるつもりなのか…」

 悠貴が言葉の最後に軽く鼻で笑っていた。

 まだ昨日の事で思い出し笑いをしているのだろう。


「いや、ただの皮肉だ」


「お前が今の俺の気持ちが分かるか?」

「今俺は朝炊事や仕事の準備で大忙しなのに、父親にあーだ、こーだ言われてる母親の気持ちだよ」

 俺がこの世界に来て荷物持ち言う雑務をこなしている中で、元の世界でいろいろな家事をこなしてくれ母親の有り難みを見に染みて感じていた。


 俺と悠貴は互いの皮肉を言いながらいじり合う、そんな他愛も無い会話を俺の身支度が終わるまで続けていた。


「よし、終わったぞ」

 俺は悠貴に身支度完了の合図を伝えると同時に、ぱんぱんに膨らんだリュックサックを床から持ち上げて背負おう。

 その後、集合場所である拠点のはずれにある開けた湖畔の沿岸に向かった。


「おはよう」

 俺の傍らにいた悠貴がいつものように溌剌(はつらつ)とした張りのある声で挨拶をする。


 よくもまぁ…朝からこんなテンション上げれるよな。

 彼は元の世界にいた頃から、教室に入ってくるや否やハイテンションで一限目が始まる前からクラスメイトと話に花を咲かせていた。

 夜行性で朝には滅法弱い俺とはまさに対照的な陽の性質を持ち合わせている。


「おはようございます、ユウキ殿、カゲナギ殿」

 先に集合場所にいたのは俺のパーティーメンバーの女性陣とゼスタさんだった。


 フィオナとミアは仲よさげにガールズトークに夢中のようだ。

 彼女らと少し距離を置いて一人でぼんやりと湖畔を眺めていたゼスタさんが真っ先に俺達の存在に気づいて挨拶してきた。

 いつものようにがっちりとした鎧に白色のマント、悠貴が勇者ならば、彼は騎士長や軍団長と言ったところだろうか。


 そして彼は、なんかいつもは冴えないのに、本気出したらチート級の強さだったオーラをそこはかとなく出していた。

 なんとなくいいたいこと分かるよね…?

 って俺は一体誰に向かって理解を求めているんだ。


「後来てないのはブリューゲルさんか…」

 俺は周りの状況を確認して、ぽつりと呟いた。


「ごめんよーーー」

 俺たちの耳の中に木霊(こだま)しそうな程大きく伸びのある声が流れ込んでくる。

 その声の聞こえてくる方角へ視線を向けると、銀髪の若い男性が物凄いスピードでこちらへ猪突猛進

 してくる。

 その体躯の速さは、疾風の如く風を切る音と共に俺たちの目の前へと現れた。


「いや… ちょっと荷物をまとめるのに時間がかかっちゃってね」

 ブリューゲルさんは俺の背負っているパンパンのリュックに引け劣らないぐらい大きなリュックを背中に背負っている。


「ちなみに聞きますけど、ブリューゲルさんって戦闘の時特出した武器とか道具使いませんよね?」


「うん、そうだね」

「僕は『万象魔眼』で他人の魔法をコピーできるから、これと言った道具は使わない」


「じゃそのリュックの中身ってなんですか?」

 俺が淡々とした口調で質問しながら、パンパンに膨れ上がったリュックを指差す。


 すると彼は少しもじもじしながら、俺と目を合わせようとしない。


「まさか…お酒じゃないですよね?」


「君のようなカンの良い人は嫌いだよ…」

 まさかこの世界に来てまで○の錬金術師の名台詞を聞くことになろうとは。

 じゃなくて、今は心中でひとり語りをしている場合では無いのだ。


「あなた昨日の反省はどうしたんですか?」


「いや…反省はしてるし、同じ過ちをは繰り返さなけど… お酒ぐらい許してくれよ…」

「だってカゲナギに言っても持ってってくれなさそうだったし…なら自分で持っていこうかなぁって」


「当たり前じゃないですか!

「今から人類がまだ体験した事も無いような強さの魔物と接触するのに、なんでお酒なんか持ってくんですか? これ以上荷物増やすの嫌ですよ」

 俺が説教をし、ブリューゲルさんは一様謝りはするものの、お酒を手放す気は無いようだ。

 俺の傍らにいた悠貴呆れて苦笑いをしているだけだ。


「まぁまぁ…もしかしたら何かの役に立つかもしれないじゃないか」

「この世に無駄な物は何も無い、なんてね」


「確かにそうですけどTPOを考えてください」


「ティーピーオーってなんだい?」


「あっ…もういいです」

 そもそも彼にお酒を止めろと言う方が無理なのかもしれない。

 なんせお酒の為に飛空艇を売るような人だからな。


「まぁまぁ…皆揃ったことだし、最終確認に移ろうか」

 俺が説教を止めるとすぐさま、ブリューゲルさんが残りの3人を集める。


「まずセルギウス達は負傷者と共に防衛組が守る拠点まで後退してもう」


「この島に来ててから『ハイドラ』以外の魔物の存在を一切感じませんが…一応私以外の『ルーペスト帝国軍』を護衛の任に就かせました」

 最終確認は定例会議のように粛々と淡々と連絡事項だけを伝え進んでいく。


「そう言えば、フィン王子って大丈夫なのか?」

 周りの皆が連絡を終えるタイミングを見計らって、俺は先日より気になっていた疑問を口にした。


「彼は他の負傷した者達と比べると軽いけがですんだが、一日そこらで前線に復帰出来るほどの軽症でも無かった」

「まだ拠点で体を休めていると思うよ」

 俺の質問にブリューゲルさんはさっと回答した。


「余はここだ! 余も貴様らに同行する…」

 俺達の後ろから突如高慢ちきな声がする。

 後ろを振り返ってみると、いつもは日に焼けていて適度に露出していた上半身を真っ白い包帯でぐるぐる巻に覆われた姿のフィン王子が立っていた。


「フィオン王子! そんな傷なのに武装して本気で行くつもりなのか?」

「僕としては王子の同行を認めることは出来ない」

「これ以上誰も死なせたくない、これだけの実力者が揃ってもハイドラ相手に万全の状態じゃない王子を守りきれるとは思わない」

 普段とは違ってブリューゲルさんの声の響きは静かで、とても慎重な意志を含んでいる淡々とした声色だ。


「戯けごとを、はなから貴様らに守ってもらおうなど思ってはいない」

「余は余の役目を果た為に貴様らに同行するだけで、ただ目標地点が同じだけの事」

 フィン王子は俺達よりも年下で、まだ幼いのに放つ言葉一つ一つが傲慢で、なおかつ威厳に満ち溢れていた。

 しかし、いくら形が無い物に威勢があろうとも、形あるフィン王子の体は酷く傷ついている様子を隠しきれていなかった。


「なぜそこまでして行くんだ?」


「力ある者はその背中に必ずなんだかの役割を負っている、それが人々を先導し王道を征くような(まばゆ)い力であろうと、誰の目にもくれ無い飾り気のない異端な力であろうと…」

「余は聖オリエント王国の聖王の子息として、そして武勇に優れた素質を兼ね備えて生を受けた者として、必ず成果を祖国に持ち帰り王族の権威を示し内乱を収めなければならないのだ」

「王族としての権利を民草から享受している余は、今度は余が民草に王族としての義務を負い成果として返還しなければならない、余に後退は許されていない」


 どうやら俺はアメン=アンク=フィン王子に対して重大な勘違いをしていたのかも知れない。

 彼は親の威光にすがりただ傲慢な態度をとっている暴君と言う訳ではないようだ。

 王族としての権利と義務について、そして国政についても俺達では想像もつかない深い考えをお持ちのようだ。


「これだけは約束してくれ死なないでくれ」

 ブリューゲルさんは何かに納得したように口元を緩めて言葉を発した。


「当たり前だ、余は後に聖オリエント王国 聖王になる男だ!」

 フィン王子は自信満々に両手をぎゅっと握りしめていた。 


 こうして、『前線連合隊(フロントユナイツ)』最後の任務が開始された。


 御一読していただき、ありがとうございました。

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