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Beyond the front line 〜弱キャラよ人類の最前線を超えろ〜〈プロト版〉  作者: トワイライトGoodman
第2章 蒼天大瀑布編
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第42話【仕切り直しと二度目の決意】

 

 俺がテントの入口の幕を上げると、そこには俺とミア以外のパーティーメンバーとゼスタさん、肩から包帯を巻いたセルギウスさんが卓上を囲んでいた。

 室内には蝋燭(ろうそく)が数箇所置かれているのみで、少し薄暗い雰囲気だ。


「すまないね、こんな夜分に呼び出して」


「いえいえ、俺も丁度暇してた所ですから…」

 申し訳無さそうにしているブリューゲルさんに俺は思わず愛想笑いをしてしまう。


「ミアも来たみたいだね」

 俺の少し後ろを歩いたミアもテント内に入り、フィオナの横の席に着席する。


「それじゃ少し話をしようか」

「その前に… 本当に申し訳ない!」

 ブリューゲルさんが一言目の言葉を発したかと思えば間髪入れずに、彼は自らの頭を卓上に付け謝罪の言葉を述べた。

 突飛よしも無いことで俺以外にもその場にいる皆が驚きを禁じ得ない様子だ。


「こんな状況になったのも僕の判断ミスだ…名目上だけだが『前線連合隊(フロント・ユナイツ)』総指揮として、そして何より『現世の語部(ワールドキャスター)』の名を冠するフロンティア、ブリューゲルとして心からお詫びする」

「『前線連合隊(フロント・ユナイツ)」探索組、おおよそ400名中重軽傷者242名、死者18名、僕が彼女の技を模倣して守れたのはたった50名程だ」

 少しだけ顔を上げたブリューゲルさんの表情をちっらと見ると、悔しそうに顔を歪ませている。

 それはいつも気さくでロクでなしで陽気な普段の彼からは想像もできない程のものだ。


「特にセルギウスとフィオン王子、二人の部隊から死者を出してしまった、国の大事な戦力を喪失させてしまった事重ねてお詫びする」

 ブリューゲルさんは立ち上がり、セルギウスさんの方に向かって再び頭を下げる。


「頭を上げろ…ブリューゲル、同胞の死は惜しいが彼らは誇り高きノルデン連合国一屈強な『漆黒の暴牛』の戦士」

「国を代表してお前らフロンティアと同じ場所に立った以上、そこは魔物との命を狩るか狩られるかの場、皆覚悟は出来ていた」

「それに今となっては他国からは古臭い考え方と馬鹿にされるが、戦士が戦場で花散らすのは名誉ある事だ! フゥハッハッハ!」

 セルギウスさんは話し始めは表情が曇っていたが、話すに連れて次第に表情から曇りは見えず、最後にはたくましい巨漢が笑いし始めた。


「ありがとう」

 ブリューゲルさんはセルギウスの笑いを見て、安心した表情で再び席に座った。


 そうブリューゲルさんが責任を感じるのも無理は無い。

 この探索組の中で最も実力が合って守るべき立場だったのに守れなかった悔しさ、それは実力が無い俺でもなんとなくだが想像は付く。

 ただ、俺達は今まで人類の最前線を目指している割には平坦な道を歩きすぎたのだ。

 確かに多少の困難があった、俺からしたら物凄い困難だけど… でも各隊の代表者をはじめ世界屈指の実力者が集まることで死者を出さずに難なく切り抜けてこれた。

 しかしそんな彼が集まっても倒せず死者を出した魔物、あいつの正体がまだ何なのかは分からないが、おそらくこの島の頂にいるハイドラと関係があるのだろう。

 今回の出来事によって、俺達の討伐目標が平坦な道の道中に立ち塞がる大きな壁であり、人類が至ったことが無い未知の強さを秘めた怪物なのだと再認識させられた。


「よし…これで僕の中でも一旦気持ちに区切りは付いた」

「それじゃ本題に入ろう」

「まず先程から話題になっている霧の化け物についてだが、あれはおそらくハイドラの分身体、もしくは幻影だ」

「そうだろ? フィオナ」

 軽く息を吐いていつもの気さくな雰囲気に戻ったブリューゲルさんは流れるように話し始めた。


「はい、3年前、まだ私が師匠のパーティーにいた頃『蒼天大瀑布』で対峙したのがあの霧の化け物でした」

「3年前もあの霧の化け物は圧倒的な強さで、師匠以外歯が立たず、皆疲弊し物資の尽きた私達は一人師匠を残してこの島を後にしました…」

 フィオナは落ち着いてはいるが低い声のトーンで話し出した。


「じゃあ三年前の『雲海大渓谷』を踏破したフロンティア達でも奴には敵わず、伝説のフロンティア シノザクラ・サヤしか戦うこともままならなかったと…」

「それがハイドラ本体では無く、奴の幻影となぁ…」

 セルギウスさんは困り顔で首を横に捻らす。


「それにハイドラは知性のある魔物だ」

「あいつは僕の魔法みたいに皆の脳内にあいつの声を直接流し込んだ」


「普通の魔物みたいに本能のままに襲いからず、一筋縄では無い…」 

 セルギウスさんは今度は逆の方向に首を捻らした。


「それを踏まえて単刀直入に聞く僕達はこのまま進むべきか否か?」

 ブリューゲルさんが皆に質問を投げかけると、ほんの少しだけ静寂の間が出来た。


「私は進みたい…」

 その静寂を破ったのはフィオナだった。


「他の皆はどうだい?」


「ぜんぜん良いぞ、仲間をやられっぱなしではむしゃくしゃするしな」


「いやセルギウスはどちらにせよ此処で退()いてもらう」


「何故だ?!」


「君はさっきの戦闘で大怪我おってるだろ、それに昨日の魔物との戦いで使った大投擲で魔力も完全に回復してないじゃないのか?」


「確かにその通りだが…そんな事も分かるのか『万象魔眼』は…」


「そんな事『万象魔眼』を使わずにとも分かるさ」

「だから君には明日の朝、重軽傷者を率いて防衛組の陣まで引き上げてもらう」

 ブリューゲルさんの理路整然とした說明で納得したんのか、少ししょんぼりとしているがセルギウスさんは小さな頷いた。


「俺たちはフィオナに付いて行くだけだぜ」

 俺の隣とそのまた隣に座っている悠貴とミアは何も迷いの無い清々しい表情で問に答えた。


 ですよねぇー…俺的には勘弁してほしいがフィオナは師匠に会うために3年間待ち続けて、やっと此処までたどり着いたんだもんな。

 だがそれは分かっていても、小野田陽凪(オノダカゲナギ)と言う弱者としては一応問うてみたくなったのだ。


「そんなに急がなくてもいいんじゃないか?」

「それにハイドラの強さを考えるにSランクフロンティア以上の実力者じゃないと生還するのは厳しいと思うんだ」

「なら本体のスカーレット様達を待った方がいいんじゃないか?」


「カゲナギ、今のお前の言っている事は珍しく正論だ」

「私はお前を守り生きて返すと誓った、自らの身を案じるのは当たり前だし、君の提案の方が理に叶っている」

「それでも私は進む、後はカゲナギの判断だ」

「ここでパーティーを離脱してセルギウスさん達と戻ってくれても構わない」


 こんな風に冷たい切り返すが来るのは分かっていた、彼女の気持ちを考えたら当然の反応だ。

 それなのにあなんでこんな事言っちゃたのか…俺って本当に捻くれてるよな。


「だめだ! 行くならパーティーメンバー皆で行く」

「一人でも行かないのなら、俺は全力でフィオナを止める!」

 すると当然、悠貴が立ち上がり机を両手で叩いた。


「忘れたのか?! フロンティアギルド本部で、必ず『蒼天大瀑布』をこの4人で踏破しようって誓った事」

「戦闘要員がいなければ魔物にやられるし、荷物持ちがいなければ此処に拠点を作る事は難しかった」

「此処に来るまでにこのパーティーの誰か一人でも欠けてたら、俺達は『蒼天大瀑布』に来れてないんだよ」

「そしてこれまでもそうだったように、これからもそうなんだよ!」

 悠貴にしては珍しく、冷静さを失い声を荒げている。


 しばらくの間悠貴が呼吸を整えるよに息を吸ったり吐いたりを繰り返している。


「すまない、ユウキの言う通りだ」

「カゲナギの提案に従うべきだと私は思う」

 悠貴が呼吸を整えたのを確認するとフィオナは発言し、その内容はさっきとは全く真逆の物だった。


「じゃ俺の意見を言わせてもらう…」

「明日の朝に此処を発って、『蒼天大瀑布』の頂上を目指す!」

 俺は一息吸って、張りのある声で高々に宣言した。


 その場に居合わせた、6人の頭の上にクエスチョンマークが痛い程くっきりと見える。


「俺、フィオナが3年間も待ち望んだ時が今なんだって、待ち望んだ場所が此処なんだって分かってた」

「でも俺って捻くれ者だから、フィオナに本当に強い意志があるのか確認したくて意地悪でなぁ… まぁ…」


「なんだそれ…フッ」

 俺が頑張って出来るだけ素直に赤裸々に話したにも関わらず、俺が話し終えるとフィオナを皮切りにその場に居合わせた皆が大爆笑し始めた。


「ちょっ… おい…止めてくれよ」

 俺は恥ずかしくなり皆の爆笑を必死に抑えようとするが、笑い声は全く止むことが無い。


 結局、笑い声は数分続き、遂には悠貴は俺のモノマネを始めだした。


「『でも俺って捻くれ者だから、フィオナに強い意志があるのか確認したくて意地悪でなぁ…まぁ…』だってよ!」


「本当にカゲナギはたまにキャラと全然一致しない事を言うんですから」

 そのモノマネを見てミアがツボに入ったのか、思い出し笑いなのか、定期的に笑い声が溢れ出す。


「もう知らん、俺は寝るぞ!」

 俺は恥ずかしさと呆れ果てたあまり、今いるテントを後に寝泊まり用のテントに移動しようと幕を上げくぐり抜けようとした。


「カゲナギ、君の望み通り明日の早朝に出発だ」

「メンバーは私達4人とブリューゲルさんとゼスタさん」


「了解だ…」

 俺はフィオナに向かって振り向かずに手を上げて返事をした。


「それから…」

 突然フィオナの声が女性らしさ溢れる可愛らしい声になったような気がした俺はふと後ろを振り向く。


「本当にありがとう! 君がいてくれて良かった!」

「必ず、『蒼天大瀑布』を4人で踏破しよう!」

 フィオナは戦闘の時のローブとは一変して肩が露出した赤い色の清楚なエプロンドレスのような服に身を包んでいた。

 そんな彼女が後ろ自らので手と手を握り、俺は彼女の満面の笑みで魅せられた。


「お…おう」

 俺はすぐに顔を()らし、急いでテントの幕をくぐった。

 顔の辺りの体温が上昇し熱くなっているのを感じる。


「だから俺は女性耐性Fランクなんだって…」

「ミアみたいなロリは友達感覚でまだ何とかなるけど、フィオナはいかん…」

「しかも今日の服装なんだよ、あれ、あのバックの中にしれっとあんなお洒落な服詰めるなよ…」

 人類の最前線の闇の中には、戦力としてはちっぽけでどうしようもない捻くれ者の独り言がぶつぶつと響いていた。


 御一読していただき、ありがとうございました。

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