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Beyond the front line 〜弱キャラよ人類の最前線を超えろ〜〈プロト版〉  作者: トワイライトGoodman
第2章 蒼天大瀑布編
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第41話【大蛇の幻影】

 

 俺とゼスタさんが走り出して約5分程が経過した。

 道を進むに連れ密林の密度が小さくなり、次第に視界も明るくなる。


 ふと俺はかなりのスピードで並走しているゼスタさんの足元を見ながら、いつの間にか自分がハイペースで走れるようになった事に気がついた。

 この世界に来てから、ミアを担いで砂漠を一時間程走ったり、パーティーの荷物運びとしてかなりの重量の荷物を運びながら移動したりしていたからな。

 まぁ…これも戦闘力ほぼ皆無の俺が唯一任されたオーバーワークの産物かも知れない。


「もう少しで密林が開けますぞ」

 俺が自分の体力的成長に自らの心のなかで浸っていると、その世界から引き戻されるようにゼスタさんの声が耳の中に響き渡った。


 俺は視線を彼の足元から正面に向き直すと、ほんの少し先に光が差し込んでいるのが見えた。

 その光が長かった密林の道中の終わりを俺に知らせていた。


 俺とゼスタさんは密林を抜けた。

 そこには飛空艇を停泊した場所と酷似した湖畔があり、湖畔沿いの陸地には数百人もの探索組のメンバーが吐血や流血をしながら倒れて込んでいるのが確認できた。

 その中にはセルギウスさんやフィン王子の姿も確認できた。


「悠貴達は大丈夫なのか…」

 俺は倒れ込んだ探索組の(むご)い姿に釘付けになりながら、仲間の身を案じる声がぽつりと漏れた。

 だが俺の懸念はすぐさま晴れることとなった。


「ユウキ頼んだ!」

 ブリューゲルさんの声だ。

 倒れ込んでいる人々の中に俺のパーティーメンバーがいなかった為、おそらく全員無事なのだろう。


「『火ノ二(ひのに) 炎滅鳳凰(えんめつほうおう)』」

 俺の中に響き渡った声に導かれるように、物凄い熱を放つ炎の鳥の方へと視線が誘導される。


 そこには刀を地面と平行に振り炎の鳥を出現させた悠貴がいた。

 その後ろにはブリューゲルさんがおり、彼を中心に青白い雷の檻が形成され、中には意識のある探索組のメンバーがいた。


 炎の鳥は彼らと敵対していると思われる竜人のような姿をした者に向かって一直線の羽ばたき、対象の直前で炎の翼を大きく広げ包み込んだ。

 対象を包んだまま炎の鳥はその形を失い、小さな太陽のような丸い火の玉へと変化した。


 次の瞬間、オレンジ色だった火の玉が紫色に染まり熱量が減っていき、次第に紫色の液体になって地面に流れ落ちている。


 その中から敵対している竜人のような姿の者が現れる。

 その者はなんとも禍々しい姿をしており、見ているだけで身震いが止まらなかっった。

 身体はもあもあした紫色の霧のような物で出来ており、その霧がリザードマンのようなファンタジー世界で見る二足歩行の亜人型になっている。


「どうしたら倒せるんだ…」

 珍しく悠貴が焦っている表情で敵を睨みつけていた。


「くそ…」

 すると敵は目にも留まらぬ速さで悠貴に接近し、鋭利に尖った凶暴な爪で彼を切りつけようとする。

 悠貴もすぐさま反応して、敵の攻撃を刀で受け止める。


 俺にはその一連の攻防が速すぎて状況を目視することが出来ず、目の前で何が行われているのかしばらくの間理解する事ができなかった。


「カゲナギ殿…念の為に抜刀しておいた方がよろしいかと」

 ゼスタさんは俺に一言だけアドバイスをすると、疾風の如き速さで俺の傍らから消えていた。


「はい…」


「私の剣技は空間そのものを切り裂く、これなら…」

「『虚空刀(こくうとう) (から)斬り』!」

 ゼスタさんが敵に斬りかかろうするとブラックホールのような真っ黒い刀身が現れ、その真っ黒い刀身のまま敵を斬りつける。

 敵も悠貴の刀と接触していない方の爪で彼の攻撃を止めようとしたが、彼の剣技はまるで消しゴムでノートを白紙に戻すように、この世界から存在自体が無かっかのように跡形もなく刀身と接触した部分を消した。

 ゼスタさんの攻撃で真っ二つになった敵は形を戻す事が出来ずに真っ二つのまま静止する。

 コンマ数秒後、敵は形を留めて置くことが出来なくなり紫色の霧は薄くなり遂には空気と同化して見えなくなった。


 『我の幻影を消したか… 汝らの力は把握した』

 『もう小癪な手段で奇襲は掛けぬと約束しよう』

 『我を討ちたければこの島の頂きに至れ、さすれば汝らの非力さを今一度証明しよう』

 紫色の霧が消えたと同時に頭の中に聞いたこのも無い声が流れ込んできた。

 周りを見渡した限り、意識のある者は皆この声に困惑しているようだった。



 ♢ ♢ ♢



 俺達は戦闘後、すぐさま中間拠点の設営に入った。

 野営する為のテントを立てたり、負傷者を運び込み手当をしたり、食事の準備をしたり、俺に至っては置き去りにした荷物の回収したりとやることは尽きなかった。

 そうして一段落した頃には気づけば夕方になっていた。

 今は夕食を終え、野営テントの外に出て一人切り株のイスに座ってぼーとしている。


 今に至るまでに俺は今回の戦闘の成り行きについて聞かされた。

 俺やゼスタさん率いる『ルーペスト帝国軍』がまだ密林を進んでいる頃、その他の隊はブリューゲルさんに率いられすでにこの場に到達していたらしい。

 当初の目的通り中間拠点の設営に入ろうとした時、あの霧の化け物が現れて奇襲を仕掛けてきたらしい。

 一番目に不意を突かれてフィン王子率いる『オリエント聖王国軍』がほぼ壊滅、それに気づいたベルドハイム率いる『漆黒の暴牛』が応戦するも霧の化け物の圧倒的強さに敗北、無事な者を守りながら戦うことは難しいと判断したブリューゲルさんは止む無く『万象魔眼』の力で雷の檻を作り防衛戦に徹した。

 だが悠貴が霧の化け物の相手を自ら買って出て応戦、その場面で俺とゼスタさんは丁度到着したと言う訳だ。


 悠貴の『英気繁栄』の力は想像以上に凄まじかったようで、当初フィオナの見立てでは『蒼天大瀑布』に到着した際、彼女と同じSランクフロンティア相当のステータスになると予測していたが、それを優に超え知力、運、練度以外の主に戦闘に直結する全てのステータスがSSランクの数値に到達していたらしい。


 あいつ『英気繁栄』さえあれば、この島一人で攻略出来るんじゃないか。

 それに引き換え俺はと言うとフィオナ以上の実力を有した人の戦闘を目で思うことも難しい。


「同じ異世界転移者なのになぁ…」

 俺は落胆しながら首を天に向ける。


「カゲナギ、ブリューゲルさんが皆さんをお呼びですよ」


「ミアかぁ… 本当に無事で良かったよ、一番心配したんだからな」


「この中で最弱のあなたには言われたくありませんよ」

 ミアは後ろで自らの手と手を握り、少しむくれたように俺に言葉を投げ返してきた。


「悪かったな最弱で… だけど俺のおかげでふかふかのクッションの上で寝れるんだぞ」

 この世界には水分を含むことで伸縮する何とも不思議な羽毛があって、それを利用してふかふかの簡易ベットになる、持ち運ぶ時はとてもコンパクトでで便利な魔法具があるのだ。

 俺は念の為にそれをリュックの中に仕込ませておいたのだ。


「ありがとうございます! 世界最弱にして最前線に立つ荷物持ちさん」

 ミアはそのままあざとく笑ってみせた。


 おそれくこれは俺に対する皮肉だろう。

 しかしそんな事分かっていても、この笑顔にはまじで癒やされる。

 え、まじで可愛んですけど…天使じゃん。


 いかんいかん、ここで彼女と張り合わなければ年上としての威厳が。


「世界最弱は言い過ぎだろ、ロリっ子さん」


「だから僕はロリじゃないです、いい加減にしないとここで討ちますよ」

 ミアは弓を引く構えを作り、魔法で矢を作成しようとしていた。


「ごめんって、俺は討伐目標じゃないから、やめてください」


「本当にカゲナギは…」

 俺への攻撃は中止したものの、ミアは再びむくれ始め俺の方へは視線を向けなかった。


「でも本当に無事で良かった! 俺がいなければあの時誓いを守れないからさ…」

 ミアはむくれるのを止め、俺の顔へと視線を戻した。


 そして俺と彼女の間には何とも言えない静寂の時が数秒流れた。


「忘れたのか?! 『深碧竜』と始めて戦った時の夜…」


「覚えてますよ! 別に説明しなくてもいいです!」

 ミアが照れくさそうに俺の発言を途中で遮った。


 そうこれは前線浮遊都市レコードグラムに上陸する前の日の夜に彼女が突然俺に膝枕してきた時、何か言いかけた事の続きを『蒼天大瀑布』を攻略したら言うと約束したんだ。

 その代わり、その続きを聞くまでは俺は捻くれた手段で彼女を守ると誓ったんだ。 


「ならいいよ…」


「おぉーい、二人で何してるんだ? 皆揃ってるぞ」

 また何とも言えない静寂が二人の間に流れつつあったその時に悠貴がテントから顔を出し、俺達を呼んだ。


「すまん、すまん、今すぐ行くよ」

 返事を返すと悠貴は顔をテントの中に戻した。

 その際に彼の顔が少しニヤッとしていた気がした。


 俺はテントへ向かおうと座っていた切り株からすっと立ち上がり、ミアよりも少し前を歩み始めた。


 御一読していただき、ありがとうございました。

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