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Beyond the front line 〜弱キャラよ人類の最前線を超えろ〜〈プロト版〉  作者: トワイライトGoodman
第2章 蒼天大瀑布編
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第38話【雲層の先へ】

 

 俺達が飛空艇に身を乗せている間、バベリアは再び世界樹の明かりを消し、再び明かりを灯した。

 今日の早朝に目的地である『蒼天大瀑布』に到着すると昨日ブリューゲルさんから知らされた俺達は空の青さが世界樹の(ほの)かな明かりで曙色(あけぼのいろ)に焼けている時刻から甲板へと足を運んだ。


 「ブリューゲルさん起きて下さい朝ですよ」

 悠貴は甲板の柵にもたれ掛かって泥酔しているブリューゲルさんの肩を強く揺さぶった。


 「まだまだ…飲むぞ…」

 「早く…持ってきてくれ…」

 ブリューゲルさんは意識が朦朧(もうろう)としているのだろう、言葉が跡切(とぎ)れ跡切れの独り言をぼやっている。

 どうやら昨晩、甲板に出たまま酒を大量に飲んだようだ。

 右手で酒瓶をがっしりと抱きしめ、彼の周りにも空き瓶が5本程乱雑に転がっている。


 「その人なら大事な時になったらけろっと起きるはずだ」

 フィオナは泥酔しているブリューゲルさんに見向きもしていない。

 彼女はブリューゲルさんを信頼しているのか…? それとも彼に対して諦めているのか…?

 おそらく諦めの方が強いのだろう、いつもの事が起きたと言わんばかりの冷静な対応だ。


 「それもそうだな…」

 悠貴も呆れたような言い草だった。

 

 先の大戦での『前線連合隊(フロント・ユナイツ)』の総指揮としての適切な支持と鼓舞している様子から流石(さすが)は世界最強のフロンティアだなぁ…と思ってしまい、ブリューゲルさんの本性が世界最強のロクでなしだと言う事を忘れていた。

 何せ彼は酒代に有り金全てを使い無一文に成り、それを賭博で取り戻そうとし失敗、それに加えて世界一の造船職人が造った飛空艇を酒の競売の軍資金にするために売り払うと言う暴挙に出ていたのだ。


 「カゲナギも目つきの悪い細い目をいい加減止めろ」

 フィオナは立ったまま悠貴の肩に顔を寄りかからせている俺に向かって注意してきた。


 「俺は別に目つきは悪くねぇー 腐っているだけだ…」

 「それにこんな朝早くから起こされて、夜行特化型の俺からしたら眠くて眠くて仕方が無いんだよ」

 元いた世界の世界の俺のような夜行性ゲーマはどうしても朝起きなきゃ行けない時はいっその事オールナイトするのだ。

 一度寝てしまったら大きな地震や津波や台風など災害級の異変が起こらない限り何があっても起きないから、寝てしまった時点で負けなのである。

 たまに例外もあるこれは母親から殴り起こされるパターンだ。

 今回の起こされたケースはその役目が母親からフィオナに変わっただけの事だ。


 「また君の屁理屈かぁ…」

 「さっきのようにまた溝に打ち込まれたいか?!」

 フィオナは怪しげな笑みを浮かべたまま手の骨をポキポキと鳴らし始める。


 「はい! ただ今起床いたしました!」 

 俺は寄りかかっていた悠貴の肩からすぐさま離れ、目を大きく見開いて直立不動できをつけの姿勢をとって彼女の方へみせた。


 「よろしい」

 俺の将軍様に向けて敬礼する前の軍人のような整った姿勢に満足したのか、フィオナはその一言と共に手の骨を鳴らすのを止めた。


 「前を見てみろ」

 ブリューゲルさんを置き去りにして船頭へ向かった俺達はフィオナに言われるがままに視線を向けた進行方向に見える光景に驚きを隠せなかった。


 「あれは塔の内壁かぁ?!」

 内壁まではまだまだ距離もあり、薄っすらとしか確認できないが海岸線のようにその先を確かめることは出来ず、下にも上にも永久的に存在いしているんじゃないかと言う程の規模のでかさだ。

 改めて遠くから見ると湾曲状になっており、それが塔の形状をしているのだなぁと認識させられる。

 だが、その規模の大きさからとても塔の一部を構成する内壁とは思え無い。


 「ここは央都センターから真南に南下してきているからな、そろそろバベリアの端っこに来ていると言う訳だ」

 俺達が驚いている傍らでフィオナは冷静に状況を説明する。

 

 「後、あそこの雲の様子なんだか不自然って言うか、ボールみたいじゃないですか」

 バベリアの内壁に視線を奪われていた俺と悠貴はミアの指摘があるまで目の前の超不自然的光景に気づかなかった。


 まだ少し距離はあるが船団と同じ高度ぐらいにやけに雲が一極集中し、超巨大な雲の球体を形成している場所があった。


 「ミアも『蒼天大瀑布』を見るには初めてか?」


 「はい、僕が連れて行って貰えたのは高度3500メートルまでの通常の浮遊島まででしたからね」

 

 「あれが『蒼天大瀑布』さ」

 誰も居ないはずの俺の右の耳元で突然若い男性の声が響いた。

 

 「びっくりした… いつの間に起きたんですか?」

 その声の主は右手で酒瓶を抱いたままのブリューゲルさんがいつの間にか泥酔から目覚めていた。


 「このバベリアには極稀に、あんな風にとてつもない大きさの球体状の雲の層に取り囲まれた浮遊島が存在するのさ」

 「通常、バベリア内では世界樹のおかげでどの高度でも地上に同じ環境が作り出されているから、気圧の変化もなければ、気温や降水量に大きな差が生じない」

 「ただ、あの雲の層に取り囲まれた浮遊島では気温も違えば降水量も違う、つまり植生や生活している動物、魔物達も外とは違う独自の生態系や環境を形成しているんだ」

 「実際に行くまで環境が分からないから、危険度は更に跳ね上がる」

 「まさに人類がまだまだ未知な事が詰まった、探索の最前線だね」

 ブリューゲルさんは俺の問を受け流し、そのまま流暢(りゅうちょう)に説明を始める。


 「だが今回は3年前に私達が少し探索を進めているから、ある程度の環境は把握出来ている」

 フィオナはブリューゲルさんの説明が終わったタイミングで一言添えた。


 「そうだね、でも『蒼天大瀑布』の說明は一旦置いといて、今は上陸の準備だ」

 ブリューゲルさんは手を一回叩くと場の空気をリセットして、俺達の気持ちを一旦上陸する事へと移した。


 「私が操舵室に行こう、残りは一応臨戦態勢で船内で待機しておいてくれ」

 フィオナは俺達に指示出した後、颯爽と操舵室に駆けていった。


 「「了解した」」


 それから船内で待機し始めて数十分が経過した。


 「そろそろかな」

 ブリューゲルさんが独りでに呟いた。


 次の瞬間、飛空艇が少しだけ揺れ始める。


 「どうしたんだ?!」

 船内で待機していた俺は突然の揺れに戸惑いが隠せなかった。


 「大丈夫だよ」

 「あの雲の層の中に入っただけだろ」

 悠貴は落ち着いた様子で着席したまま、慌てる俺とミアに言葉を掛けた。


 「流石は悠貴! 賢いね」

 同じくブリューゲルさんも涼しい表情のまま、特段なにか対応を見せようとはせず酒を片手にがぶがぶと飲み始める。


 「どう言う事だ?」

 俺は悠貴に安心していい理由を訪ねた。


 「ほら地学の時間にやっただろ、おそらく『蒼天大瀑布』を覆っているには層雲っぱい性質の雲だ」

 「層雲は霧のような柔らかい雲だから積乱雲のように上昇気流も発生しないし、比較的揺れは小さくてすむと思う」

 学校で習った地学がまさかこんな所で役立つなんて、やはり悠貴の記憶力と知識を使った考察力には目を(みは)るものがある。


 「なるほど!」

 俺は思わず拳を上から手の平に叩きつけてぽんとした。


 「チガクにソウウンってさっきから何言ってるんですか?」

 ミアは不思議そうに首を(かし)げている。

 異世界人のミアはそりゃ悠貴の說明を理解するのは不可能だろう。


 「簡単に言うと『蒼天大瀑布』を覆っているのは雲じゃなくて霧の集合体のような物ってぐらいの認識でいいと思うよ」

 ブリューゲルさんはミアの質問を聞いて横から補足說明を入れた。


 「てかブリューゲルさんは今の說明でよくわかりましたね」

 

 「何、僕だって君達の言っている単語は分からないけど、この雲の層について少しだけ予備知識があっただけの話さ」


 そんなこんなで揺れの原因について会話していると、揺れがピタリと止んだ。

 しばらくして甲板へ通じるドアがゆっくりと開いた。


 「着いたぞ…」

 操舵を終えたばかりのフィオナが俺達に到着の知らせをしてくれたのだ。


 俺達は船内から甲板へ通じるドアをくぐり、勢いよく外へ飛び出した。


 「ここが『蒼天大瀑布』…?!」

 俺の目の前に広がった光景は青々しいなんとも無垢で美しい自然の光景だった。

 島は円形の形を象っており中央に行く程、標高が高くなっているようで中心に行くに連れて地表面が隆起している。

 島の各所には深々しい緑色の樹木や草が生えており、標高の高いところから段々と流れる水が小さな滝を幾つも織り成し、その下には透明度の高いエメラルドグリーンの滝壺や湖が形成されていた。

 その島全体の姿はまるで微細に作り込まれ、おまけに自然的な緑の装飾が施された美しい一つの噴水のようだった。

 

 御一読していただき、ありがとうございました。

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