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Beyond the front line 〜弱キャラよ人類の最前線を超えろ〜〈プロト版〉  作者: トワイライトGoodman
第2章 蒼天大瀑布編
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第36話【嵐を以て終止符を】

 

 舞台は再び『前線連合隊(フロント・ユナイツ)』先陣 『漆黒の暴牛』の飛空艇甲板に戻る。

 セルギウスの投擲(とうてき)『海投げ』によって魔物の大軍は分断され道は開けたが、その空白を埋めるように残りの幾千もの魔物が船団の行く手を阻もうと襲いかかってくる。


 ブリューゲルによって召集された、各隊の実力者の(ほとん)どは『モントリオール公国』のシン=ギスタンを始めとして自らの体躯を宙に浮かせ、船団の正面や側面の空中で魔物との攻防を繰り広げていた。

 その中で甲板に残っているのは『前線連合隊(フロント・ユナイツ)』総指揮のブリューゲル、先程の大投擲で力を使い果たしたベルドハイム=セルギウス、そしてまだ戦力を温存しているゼスタとイージス=アイギスだけだ。

 無論、『漆黒の暴牛』の隊員は自らの飛空艇を守る為に甲板に残留している。


「他国の戦士たちも屈強な事よ…」

 甲板から戦局を見守っていたセルギウスは空中で戦う戦士達を見て感嘆の声を上げた。


流石(さすが)人類が誇る精鋭達… 特に『モントリオール公国』の彼は別格だ」

「シン=ギスタン、公国の平和と安寧を保つ武力の要と聞くが…」

「まさかあそこまで豹変するとわな…」

 ブリューゲルは冷静な声色である一人の男の戦闘を見ている。


 空中で戦う精鋭達の中で一際異彩を放つ強さの人物が一人いた。

 その男は普段はおっとりした優しそうな顔立ちと物言い、細身のどこにでもいそうな中年男性でとても大国の武力の要と呼ばれる軍隊を率いているようには見えないのだが、今は違った。


「貴様ら虫けらごときが何故、俺の行く手を阻むんだ」

「誰の許可を得たんだぁ?! あぁん?!」

 シン=ギスタンは普段の様子とは一変し荒々しく乱雑な口調、目を怒らしめ、茶髪の髪は逆立ち、まるで鬼神のような(いか)つい顔つき、そして細身だった体付きは服の上からでも分厚い筋肉が分かるほど、たくましい物になっている。


「いくぞ獣…『ロード・テンペスト』」

 彼がその一言を口にした瞬間、彼を中心に暴風が吹き荒れ四方から襲いかかろうとする数十匹の魔物達は上半身が吹き飛び、鮮血と共に無残な姿で地へと落下していく。


 それも(つか)の間の事で彼は両腰にぶら下げていた二本の剣を鞘から抜いた。

 その二本の剣は緑の生い茂った草原のような明るい緑色をしており、朝日に当てられた草木のように爽やかな光沢を持っている。

 形状は一般的な直線的な西洋剣では無く、波のように幾つかの湾曲が内側に向かってあり剣先だけは直線になっており、全長は約1メートル程だ。

 二本の剣は対になっており、それらに寸分たりとも違いは見受けられない。

 まさに双剣と言った所だ。


 やがてシン=ギスタンの持つ二本の剣から放たれる爽やかな光沢は次第に黒混じりの深々とした緑色に変容し、双剣の周りに暴風を纏わせると、可視化出来る程の大気の大渦が形成されていく。

 その姿は両手で灰色の竜巻を握っているように見え、まるで風神が現界したようだった。


「やばいぞ! 全員退避しろ!」

 シン=ギスタンと共に宙を舞い戦っていた戦士の一人が彼の変容に気づき、周りの戦士たちに退散を呼びかける。

 その呼びかけに従った戦士たちは(またた)く間にと飛空艇に退散する。


「仲間にやられるかと思ったぜ…」

 戦士たちは飛空艇に無事退散すると各々に安堵の声を漏らし始めた。


 仲間の退散の確認したのか、彼が巻き起こす暴風は更に勢いを増し飛空艇の船体をも揺らし始める。

 更に各飛空艇の甲板にいた者達は船から身を引きずり降ろされないようにするのが精一杯で船の各所に掴まって耐え忍んでいる。


「これはやりすぎだろ…」

 ブリューゲルやセルギウス達は何らかの手段で(かろ)うじて、髪を(なび)かせながら立っていた。


 『各隊の操舵者に告ぐ、今しばらく暴風が吹き荒れる状態が続くはずだ』

 『舵をしっかりとってくれ、僕もやばい…』


「どうですか、我が隊の隊長の実力は?」

 この嵐の中、退散した戦士の中に一人ブリューゲルに話しかける者がいた。


「まさか二重人格者とはね、驚いたよ」

「てぇ…君は?!」

 ブリューゲルは手を顔の前に掲げ、何とか風を防いでいる様子で返答する。


「私は『平原近衛隊』のピエロスターと申します」

「以後お見知りおきを」

 ブリューゲルに向かって手を添えて深々とお辞儀をしたのは、口から上に白塗りの涙マークのある道化師の仮面を被ってはいるが、他は『平原近衛隊』が着用している緑のローブを他の隊員と変わらず身に(まと)っている、なんとも異様な容姿の男性だった。

 銀髪と黒髪が混ざった髪色をしており、かなり高身長の細身の男性だ。

 ハリのある若々しい声から察するにまだまだ20代前半だろうか。


「なんで君はこの暴風の中で涼しい顔で立っていられるんだ」


「まぁ道化師(ピエロ)魔法(マジック)の種明かしをしては意味がありまえんからね、秘密です」

「それにしてもよくわかりますね、仮面で私の表情は分からないはずなのに」

「流石は『万象魔眼』の持ち主だ…」

 ピエロスターは少しだけ口元を緩めた。


「君は…」

 ブリューゲルは怪しげなピエロスターの表情を見て顔をしかめる。


「どうされました?」


「いや…何でも無い」


「あと一つ、軽く補足をして置くと隊長は二重人格と言うよりは狂化して生物として本来の隊長に戻ったと言った方が正しいですね」


「狂化…?」


「はい、彼の手にしている双剣は国宝 魔剣『ロストワイルド』はかつて『願いの英雄』に世界が滅ぼされる前、現在の『モントリオール公国』が位置する平原地帯に存在したとされる獣人の国の英雄が身に着けていた物」

「その特性は風属性魔法に起因し使用者に嵐を起こす力を与えるもの、更にその力は獣に近い(ヒト)本来の野性的本能を発揮すればする程、大きく、強く吹き荒れる」

「今の隊長は固有スキル『原生回帰』による野生の力で魔剣の力を最大限発揮している状態と言うわけです」


「だからか…」


「あの魔剣をご存知で?」


「いや…だから人が変わったように見えたのかと思っただけさ」


 二人が暴風の中、会話をしている間に船団の前方に浮かんでいるシン=ギスタンはその勢いを更に高めていた。

 準備が整ったのか両腕の距離を徐々に縮め頭の上で重ねると、それに準じるように両手に握っていた災害級の竜巻が統合され、辺り一帯の空域にまで竜巻が出現し始める。


「もうもたない! アイギス頼む」


「承知した!」

 イージス=アイギスは何も無い空間から人一人を覆えるぐらいの円形の大盾を出現させた。

 盾の出現方法はまるでホログラムのようだ。

 その盾を両手で持ち甲板に直立するように突き立てる。


 次の瞬間、彼女の盾を中心に透明感のある青白い光が球体状に放たれ、最初は彼女の持つ盾のサイズだったが次第に船団全体を包む大きさまで拡大した。


「風が止んだ…」

 数秒前まで嵐に吹き飛ばされそうになっていた『前線連合隊(フロント・ユナイツ)』のメンバーは達は何が起きたか理解できていな様子だ。


流石(さすが)は央都やレコードグラムを守る結界を張った一族だ」

 ブリューゲルはその光景を見て安堵と敬意の声を漏らす。

 そう彼女は今、イージス家に脈々と伝わる特殊スキル『絶界守護』により船団全体を包む程の大掛かりな結界を一人で張ったのだ。

 その結界は『央都センター』や『前線浮遊都市レコードグラム』を守る結界に類似している。


「十分か…ブリューゲル?」


「百点満点だ!」

「こっちは大丈夫だ、やってしまえシン=ギスタン!」

 ブリューゲルが拳を天に掲げ、大声でシン=ギスタンに合図を送る。


「終わりだ虫けらども!」

「『ロード・テンペスト・オーバーロード』』!」


 彼が発生させた一帯の竜巻は細長い形状から次第にその形を失い、斬撃の(ごと)き疾風に変わり飛散する。

 その結果、結界の外は雨の降らない、風だけの嵐が巻き起こっている状態になる。

 魔物の大軍はその暴風で彼に攻撃する事は(おろ)か近づく事さえ出来ずにもの凄い勢いで散っていく。

 目立った外傷はないが空域に吹き荒れる風と風が魔物達の身体を押しつぶし内部を破壊しているのだろう。

 少なからず吐血をしている魔物を確認できた。

 飛空艇からその光景を眺めていた者達はこう思っただろう。

 魔物にとっては空の上の地獄絵図だと。


 数十秒、吹き荒れた暴風は消え、それと共に被害にあった無数の魔物が地上へと落下していき、いつしか澄み渡ったいつもの穏やかな空模様に戻っていた。


 それを確認したのか船団を包んでいた透明感のある青白い光は先程とは逆の手順を辿り、船団を包む大きさの球体から次第に小さくなり彼女の盾を包む程の大きさまで縮小した。

 すると再びホログラムが消えるように彼女の盾は消失した。


 アイギスが張っていた結界も解除され、肉眼で普段道理の空を視認することが出来るようになる。


「俺達勝ったのか?!」

 各飛空艇からまちまちに声が飛び交う。


 そしてその空には一人、普段の優しいそうな表情に戻ったどこにでもいそうな中年の男が居た。

 彼は勝利を確信し、無音で右の拳を静かに天に掲げた。


 中年男性のガッツポーズなど、どこに需要があるのかと言われたら、おそらく需要は無いだろう。

 ただこの時だけは違った。

 ただならぬ高揚感が『前線連合隊(フロント・ユナイツ)』の全員の共通感情となっていたに違いない。

 例えるならドラ○ンボールの孫○空が強敵を倒し彼が一人最後まで倒れなかった時の胸の高鳴りのような物だ。


「「「ウォォォーーーー!!!」」」 

 その彼の後ろ姿を見た『前線連合隊(フロント・ユナイツ)』は歓喜の声に包まれたのだった。

 この男の拳を持ってして、幾千もの魔物との大戦に終止符が打たれる事となった。


 御一読していただき、ありがとうございました。

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