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Beyond the front line 〜弱キャラよ人類の最前線を超えろ〜〈プロト版〉  作者: トワイライトGoodman
第2章 蒼天大瀑布編
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第35話【そして魔剣は氷刃となる】

 

 飛来して来る魔物の種類は単一的な物では無く『深碧竜』『銀翼竜』を始めとした以前戦闘経験のある五大飛竜に加え、未だに見たことがない鱗が深々しい青色に染まった竜種やジ○リ作品で出てくる節足動物や昆虫の巨大化版みたいな、ちょと気持ち悪い奴など様々な魔物が混ざり合っている。


「シルフ、サラマンダー行け!」


「承知しました、我が主様」


「その指示を待ってたぜ、嬢ちゃん!」

 フィオナは自らが召喚した風の大精霊と火の大精霊を飛来してくる魔物へと対峙させる。

 シルフは疾風の如く、サラマンダーは爆炎の如く、両者物凄い勢いで飛空艇の甲板に飛来してくる魔物に接近していく。


「この前は骨の無い奴ばっかりだったからなぁ、今度は楽しませてくれよ!」

 サラマンダーは以前の『銀翼竜』の戦闘時と変わらず破天荒な戦闘スタイルを展開している。

 持ち前の拳で魔物を殴ると発火し、その拳の威力で甲板の外へとふっ飛ばしていく。

 今回は先の戦闘のように甲板の柵を壊すこと無く、柵の上にしっかりと魔物を飛ばし上げている。


「サラマンダーは相変わらず品が無いですねぇ…」

 シルフはサラマンダーの戦闘を見ながら呆れきった声を漏らしている。

 それと同時に彼女は自身の体を浮遊させ、自ら飛空艇の外へ飛び出した。


「いくら魔物を倒したとしても、これは防衛戦」

「主様達とその飛空艇を無事、この魔物の大軍から脱出させるのが先決」

 シルフは飛来してくる魔物の前で手の平を向けると、魔物達の動きが止まり、思うように身動きが取れず唸り声を上げながらもがいているようだった。


「『エアリアル・リストレイント』」

 どうやら彼女は気流を操り、飛来してくる魔物を束縛しているようだ。


「こちらは私達が引き受けます」

「主様達は反対側を…」

 シルフは飛来して来る魔物を束縛し、サラマンダーはシルフの魔法で束縛しきれず溢れかって、甲板に押し寄せてくる魔物をタコ殴りにする完璧な連携プレイを発揮している。


 俺達はシルフの指示通り、大精霊二人が防衛している方とは反対側の防衛をすることにした。


「カゲナギ、ユウキ、私達も行くぞ!」

 俺達は甲板の反対側の柵の近くまで行くと悠貴は愛刀を抜刀し、俺は両手で持っていた例の風呂敷を自身の目の前の床に置く。


陽凪(かげなぎ)、本当に大丈夫か?」

 悠貴は心配しきった表情で横に立つ俺を見て、不安気な声を漏らす。

 それもそのはず俺は先の戦闘でたかだか2、3匹の『銀翼竜』にびびりまくり尻尾をまいて逃げたのだからな。


「あぁ… もう逃げない…それに俺にはとっておきの秘策があるからなぁ!」

 そうだ、俺はもう魔力無しの雑魚キャラだっていいんだ。

 雑魚キャラなら雑魚キャラらしく、かっこいい王道の戦闘をする事なんて諦めてる。

 ならこの世界では少しだけ誇れる知力と俺のひん曲がった思考回路で敵を討って、第一線で戦う彼ら彼女ら、そして自分自身に恥じない捻くれたフロンティアになるんだ。


生憎(あいにく)、私達の相手は『銀翼竜』らしいな…」

雪辱(せつじょく)を晴らすには丁度いい相手だな、カゲナギ」

 フィオナが言う通り、俺達の相手は先の戦いで俺が目の前にして逃げ出してしまった『銀翼竜』だった。

 その『銀翼竜』が10匹ほどの群れになって他の隊の飛空艇を潜り抜けて、俺達の飛空艇の甲板目掛けて飛来して来る。

 その内の真ん中の3体が翼をはためかせ、大気中の水分を数十本の鋭利な氷柱に変え俺達へと発射す

 る。


 次の瞬間、俺の横にいた悠貴は垂直に2、3メートル程の大ジャンプをしていた。

 彼は飛び上がったまま、愛刀『夕薙(ゆうなぎ)』を片手で持ち体の側面で自身の体躯とは水平になるように、まるで日本刀を抜刀する武士のような構え方を見せた。


「『火ノ一(ひのいち) 灼炎竜王(しゃくえんりゅうおう)』」

 その姿勢から氷柱に向けて空切りをしたかと思うと彼の愛刀から灼熱の炎が溢れ出しその炎は次第に龍の姿を型取り、その龍は氷柱の前で大きく口を開け飲み込んだ。

 そして、その勢いのまま氷柱をこちらに放った『銀翼竜』3体をも飲み干し消失した。


「上手くいってよかった…」

 悠貴は着地するや否や安堵の声を漏らした。


「今のは… いつの間に…」

 流石(さすが)のフィオナも悠貴が放ったその技に目を見開いている。


「フィオナの『疑似精霊作成』や、さっきセルギウスさんがやってた『海投げ』を見て魔法をイメージした物に具現化できるんじゃ無いかと思って試してみたんだ」

「技名は言った方が成功しやすいかなぁって思ったから、俺たちの世界の漫画で見た物をイメージしてみたんだが…」

 悠貴は俺と違って中二病では無い為、技目を言うのが恥ずかしかっただろうが、この世界には詠唱と言う言葉にする事で魔法をより自らの理想に近づけるシステムがある。

 おそらくそれを考慮し、せめて技名だけでも言ったのだろう。


「いくら魔法の才があると言てっも、詠唱無しで具現化が出来るなんて成長が早すぎる…」


「多分『英気繁栄』のおかげだろう、このスキル逆境になる程俺を強くしてくれるんだろ?!」


 いやいや、全くフィオナの言う通りだぜ。

 悠貴のチート級の成長の速さは、最近流行りの異世界無双モノに出てくるそれだ。

 もし悠貴が主人公でラノベを書かれていたらクソラ○ベレビューに名を連ねる事間違いなしの迷作になっていただろう。


「おいおい悠貴さん、せっかくの俺の活躍の場を奪わないでくれよ…」

 俺は落胆半分、安心半分のなんとも表し難い気持ちに身を浸らせる事となった。


「まだだ…カゲナギ残りが来るぞ!」

 しかし俺がそんな気持ちに浸っているのもつかの間の事だった。

 悠貴の一撃で討伐できた3体以外の『銀翼竜』も一時は彼の攻撃で(ひる)みその場に留まっていたが、しばらくすると戦意を取り戻したようで再び飛空艇へ進撃しようとこちらへ突っ込んでくる。


「この前のお返しだ!」

 俺は右手で鞘から魔剣を抜き、床に置いた風呂敷の中から先程詰めたある特殊な石を空いた左手で2、3個取り出し握り締めた。

 俺はその石を自身の体の正面に放り投げて、振り終わった時に残りの『銀翼竜』に剣先が向くように魔剣でその石を砕きながら体躯と水平に振った。


「「何をしたんだ?!」」

 悠貴とフィオナは驚愕の声を共に上げ、俺と魔剣に視線を集めていた。


「やった! 成功だ!」

 俺が魔剣を水平に一振りしたのと同時に石は砕け光の粒子のように飛散し、その直後魔剣はサイリウムのように眩い青き輝きを宿しながら、剣先から全身を心地よく包む冷気と共に全長4メートル程の先端が尖っている鋭利な氷塊が出現し一匹の『銀翼竜』の腹部に突き刺さった。

 俺の攻撃をまともに受けた『銀翼竜』は悲鳴を上げながら地上へと落下していく。


「どんどん行くぞ! 次! 次!」

 俺は風呂敷から次々と取り出した石を魔剣で砕き、向かってくる『銀翼竜』に向けて氷塊を突き刺していく。

 遂には俺は先程より少々軽くなった風呂敷を足で蹴り上げて風呂敷ごと魔剣で切りつける。

 すると風呂敷の切れ目から光の粒子が溢れ出し、肌寒さを感じる程の冷気と共に先程の氷塊の2倍程の大きさの氷塊を出現させた。


 『銀翼竜』は襲いかかる巨大な氷塊を(かわ)す事ができず残りの『銀翼竜』は体の各所に氷塊が突き刺さったまま地上へと落下していく。


 たった今俺の魔剣はその真価を発揮したのだ。

 俺の狙いはこうだ。

 通常魔剣というのは持ち主の魔力を吸収してそれぞれの魔剣が保有する属性の魔法が行使できる代物だ。

 しかしこの魔剣に限っては魔力をストック出来る特性を保有している、つまり魔力の無い俺でも魔力を貯めておけば魔法が行使できるのだ。

 それでも俺の技量ではせいぜいゴブリンを氷漬けに出来る程の微力な氷しか出力する事しか出来ない。

 そこでこの特殊な石の登場だ。

 この七色に光る石は『魔蔵石』と言うアイテムで一定の魔力を石に中に貯蔵することの出来る石なのだが、魔力を欲するモノが触れると、そのモノに魔力を供給して消える性質を持っている。


 どんなモノでも内部で力が溢れかえれば均衡を保とうとする力が働き外部に何らかの事象が現れる。

 俺の所持している魔剣は常に悠貴やフィオナが満タンに魔力をストックしてくれている。

 そこに更に魔力を与える事で強制的に魔法と言う形で魔力を消費せざる負えない魔力の飽和状態を作り出したのだ。

 それが全長4メートルの氷塊という形で現れ、狙い通り『銀翼竜』を仕留めるに至ったのだ。


「俺は魔剣を振っただけ…これぞ必殺他力本願戦法だ!」

 非力な俺が最前線で生き残る手段、それは人に頼り、物に頼り、知恵を絞り陰湿で回りくどくも思いも寄らない斜め上の視点から攻撃の起点を探すこと。


「カゲナギ、それは『魔蔵石』じゃないか?! そんな貴重な物を…」

 そうこの『魔蔵石』は実はとても、とても高価で貴重なマジックアイテムで普通のフロンティアでは入手する事も困難な品だ。

 しかし第一線で戦うフロンティアの飛空艇には有事に備えて少なからず備蓄してあるものなのだ。

 ただ高価な物であるのは変わらない為、フィオナがむきになるのも最もなことである。


「これは貴重な飛空艇の動力源なんだぞ!」

 フィオナは頬を膨らませて俺の肩を揺さぶってくる。


「まぁまぁ…陽凪のおかげで魔物を倒せんだし…」

 悠貴がフィオナを(いさ)めに入り、フィオナもやれやれと言う表情で俺の肩を揺さぶるのを止めた。


 『そろそろ魔物の大軍を抜けるはずだ、もう少しだけ持ちこたえてくれ』

 『ここを抜ければ『蒼天大瀑布』は目前だ』

 ブリューゲルさんの脳内に響く指示通り、魔物の勢いにも陰りが見えきており、戦闘も終盤に差し掛かっているのが分かった。

 当初2千とも3千とも思っていた魔物の大軍は、気づけばその数は千を割っていた。

 俺も必死で戦闘をしていた為、全く気づかなかったが飛空艇を専守防衛している俺達では無く、先頭にいるブリューゲルさん達が魔物の殲滅(せんめつ)をかなり頑張っているようだ。


「ブリューゲルさんの言う通りだ、最後まで気を抜かずこの飛空艇を守り抜くぞ!」

 フィオナの凛々しい鼓舞の声に彼女の声の届く範囲にいる俺と悠貴が深々と頷いた。

 

 御一読していただき、ありがとうございました。

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