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Beyond the front line 〜弱キャラよ人類の最前線を超えろ〜〈プロト版〉  作者: トワイライトGoodman
第2章 蒼天大瀑布編
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第34話【開戦の大投擲】

 

「確かここら辺に………」

 俺はこの飛空艇の倉庫に貯蔵してある、ある特殊な石を探し(あさ)っている。


「あった! これだけあるなら1箱分ぐらいは使って大丈夫だよな」

 倉庫の一区画に沢山の木箱が積まれていて、その木箱の大きさは縦横高さ1メートル程の立方体で上部には蓋がしてる。

 その蓋を開け中身を確認した俺は木箱を抱えて甲板まで戻った。


「おいっしょ…」

 木箱の中身は中々の重量でひょろい体つきの俺では少し移動させるだけでも一苦労だった。

 悠貴とフィオナはすでに臨戦態勢に入っており、船首から飛来して来る魔物大軍に意識を集中させているのだろう、俺が甲板に戻ってきた事には気づいていない様子だ。


「それじゃ始めるか…」

 俺は腰に携えていた魔剣を鞘から取り出した。

 ほぼほぼ戦闘で使用した事が無い上、この魔剣を刃物として扱った事は一度も無い為、刃こぼれは(おろ)か刀身に傷一つ入っていない。

 しかしながら、その刀身からほのかに溢れている青白い光と共にただならぬ名剣の香りを放っていた。

 それもそのはず、この魔剣はブリューゲルさんも憧れる程の名工バッカス=クロムウェルが打った代物なのだ。

 その事を考えると俺がこの魔剣を所持している事が宝の持ち腐れだと改めて思ってしまう。


 だが今はそんな事を思っている暇など無い。

 俺は先程取り外した帆の一つを床に敷き、4つの正方形型の布地に切り分け床に並べた。

 そこに先程運んできた木箱の中に入っている特殊な石を包み込み風呂敷状の布包を作った。

 作業が終えると魔剣を鞘へと収め、その風呂敷の一つを右肩にかけるように両手で持ち上げた。


「待たせたな、二人… 三人?」


「あぁ…シルフは念の為、早めに召喚しておいた」

 フィオナの横にいたシルフが一礼をしてきたので、俺は返礼した。


 それにしてもいつの間に召喚したんだ? 

 同じ甲板の上に居たのに全く気づかなかった。

 それだけ俺も作業に集中していたと言うことか。


「お、おう… なんだそのサンタさんが持っている布包みたいな奴は?」

 悠貴とフィオナは揃って俺の肩の後ろにある布包を不思議そうに見ている。


「これは俺の戦闘必須アイテムだ、まぁ見れば分かる」


「それで、両手が塞がっているのにどう戦うんだ?」

 フィオナが俺の今の状況を見て当然の疑問を投げかけてきた。


「それも見れば、分かる」


「それとサンタさんって誰の事だ?」

 そう言えばフィオナには聞き慣れない人物の名前だな。


「俺達の元いた世界で年に一度聖なる夜にだけ現れて、世界中の子供達に欲しい物をプレゼントする北国生まれのめっちゃいいおじいちゃんだ、ちなみに空飛ぶそりをトナカイという動物に引かせて子供達の元へ行くんだ」

 悠貴は何故か自分の事であるかのように自慢げにサンタさんの説明をしている。


「君達の世界にはそんな献身的で善良な心を持ったおじいちゃんがいるのかぁ…」

「私も子供の頃にプレゼント貰ってみたかったなぁ…」

 フィオナは少し頬を緩ませ、妄想に浸っている様子だった。

 いつもの高潔な雰囲気は薄まり、夢見る一人の女の子と言う感じだ。


 あっちの世界でフィオナぐらいの年齢の女性がサンタさんを本気で信じてたら少し引くぞ…

 サンタさんを信じていてもセーフなのはぎりぎりミアぐらいの年齢の子供までだ。

 フィオナもいい歳だ、夢を見させてばかりではいけない、ちゃんとした現実を教えてあげないと彼女が恥かしい目に合う。


「ただし、元々クリスマスなんて文化が無かった俺達の祖国ではその正体が親だったりする…」

 俺は至って善良な心でフィオナに現実を教えるべく、ぼそっと呟いた。


 ごっつん

 次の瞬間、俺の後頭部に痛烈な痛みが走った。


「痛てぇーな! いきなり何するんだよ!」

 どうも悠貴が俺の後頭部にげんこつをかましたらしい。


「人の夢を壊すなよ、少年」


「俺はただ現実を教えってあげただけだろ…」


「今のサンタさんの妄想をしている時のフィオナの幸せそうな顔を見ただろ」 

「その笑顔を奪うなよ、しばらくそっとしておいてやれよ」

陽凪(カゲナギ)だって子供の頃はサンタさん楽しみにしてただろ?!」


「フンッ 俺は子供の時からサンタなんか信じちゃいねぇーよ!」

 これは本当の事である。

 小学校低学年からサンタの存在を否定していたのは俺だけで、冬休み前の学活の時間にレクリエーションでクリスマス会をやろうと言う事になったがもちろん反対した。

 するとサンタがいるかどうかと言う今では彼ら彼女らもどうでもいいと思っているに違いない、くだらない争点で俺一人VS学級の俺以外の構図で学級内戦争をしたのはいい思い出だ。

 まぁ、それ以来クラス替えまで小学生にしては珍しくぼっち生活を送っていたのだがな…


 確かに俺は親が夜分に不審者にしては珍しく目立ちやすい赤服を好むじじいに変装して俺の部屋に不法侵入して来た所を目撃したわけでも、はたまた小学校時代にクラスメイトからその存在が架空の人物であると暴露された訳ではない。

 しかし、俺は幼くして年に一度しか働かずトナカイと共に都合よく空を飛べるじじいなどこの世のどこにも存在しないと悟っていたのだ。


「それなのに… アニメとかの空想の世界には憧れるのかよ?」


「あぁ… そうだ矛盾していて何が悪い、俺はアニメ好きだ!ラノベ好きだ!ゲーム好きだ!二次元大好きだ!少し中二病だ!捻くれ者だ! ………サンタは嫌いだ…」

 俺は少し感情が高揚してしまい、何か吹っ切れたように自分をさらけ出した。

 少し叫びすぎたようで一番叫びたかった言葉なのに最後の言葉だけ声を張り上げて叫ぶことができなかった。


「おぉ…おう…そうか」

 流石の悠貴も少し引き気味で、俺の捻くれた考えを正すのを断念した様子だ。


「まぁまぁ…君達…」

「よく分からん単語が多かったが、私のサンタさんについての事で喧嘩をしないでくれ」

 フィオナもこの状況には困り果ている様子だった。


「あぁ…すまない、ちょっと熱くなった」

 俺は冷静になり、この雰囲気を作った事に対して謝罪し、それと同時に自分で自分の事を少し引いた。


 『聞こえるかい前線連合隊(フロント・ユナイツ)の皆、ブリューゲルだ』


「ブリューゲルさんの声だ、いつもの拡声魔法か?」

 悠貴の言った通り、今ブリューゲルさんの声がした。


「違う、私達の脳内に直接声を届けている」

 突如として脳内に響き渡ったブリューゲルさんの声にフィオナも驚きを禁じえないようだ。


「これも力属性魔法の応用か?」


「いいや、人間の脳に直接語りかける魔法など聞いた事が無い」

「元々は誰の魔法なんだろうなぁ…?」


 『各隊の代表者とあの魔物の大軍に対する対処法を話し合った』

 『迂回してもあの数だと戦闘は必死、また進路を変えたら蒼天大瀑布に本日中に到着するのが困難になり、その上他の浮遊島の領域に入れば違う魔物の群衆と出くわす可能性がある』

 『よって結論としてはこのまま真っ直ぐ蒼天大瀑布を目指す、つまりあの大軍と正面衝突だ!』


 まっとうな決断だろう、視認した限りでも魔物の数は幾千にも及び、その大軍は船団を包囲できる程の横幅を有している上、奥行きもそれなりにあり何層にも魔物が重なって飛来してきている。

 今から迂回しても大軍の末端と衝突するのは不可避だろう。


「やはりそうなったか…」

 さっきまでとは違い、二人の表情がいっきに真剣な物になる。


 『それに伴い、各隊の代表者及び他数名は先陣のノルデン連合国『漆黒の暴牛』の飛空艇にて進路を拓く』

 『残された者は自らの飛空艇の防衛に専念してくれ、以上だ…前線連合隊(フロント・ユナイツ)の健闘を祈る』



 ♢ ♢ ♢



 時を同じくして『前線連合隊(フロント・ユナイツ)』先陣 ベルドハイム=セルギウス率いるノルデン連合国『漆黒の暴牛』の飛空艇の甲板。


 ブリューゲルはこの窮地を脱して、この船団が進軍する為の活路を見つけようと各隊の最高戦力を先陣の飛空艇へと集めた。 


「悪いねぇー君達を召集してしまって」

「本当は自分達の飛空艇を守りたいだろうに…」


「構いませんよブリューゲルさん」

「我がルーペスト帝国には自国の船も守れぬような軟弱者は同伴させておりませんから」

 ブリューゲルの発言に真っ先に返答したのはゼスタだった。

 ルーペスト帝国は今回の『前線連合隊(フロント・ユナイツ)』には、『夜明けの港(ブレイクポート)』に留めていた城を乗せたようなバカでかい飛空艇では無く、人数を抑えたがゆえに他と変わらぬ大きさの飛空挺で参加している。


「当家も同じだ、彼の地にも辿り着けずにこんな所でくたばる奴らはここにはおらん」

 ゼスタさんに続くようにイージス家の当代当主にしてSランクフロンティア『絶界の護身(アテナ)』 イージス=アイギスが発言する。


 更にアイギスの発言に呼応するように各国の代表者も頷く。


「おや、オリエント聖王国の王子が来ていないなぁ…」

 ブリューゲルはじぃーと辺りを困り顔で見渡す。


「セルギウスさん… 報告致します、アメン=アンク=フィン王子が召集を拒否しました」

 黒い毛皮のコートを羽織った『漆黒の暴牛』の戦士がブリューゲル達が集う船頭へすたすたと駆け寄ってきた。


「全くあの王子らしいなぁ…」

 ブリューゲルの隣に立っている『漆黒の暴牛』を率いるこの『前線連合隊(フロント・ユナイツ)』の中で最も巨漢の男 ベルドハイム=セルギウスは呆れ顔になる。


「その王子から伝言が…」


「してなんと?」


「『あのような有象無象の軍前など取るに足らん、余が出ずともそなたらだけで十分討伐は可能なはずだ、余は無駄な事が嫌いだ、わざわざ余に貴重な労働力を使わせるな』 『それとブリューゲル、貴様は総指揮とは名目上だけで実際には指揮を取らんと言ったはずだ、余は誰の軍門にも下らん』と…」


「まぁ…有事だからしかたないと思うんだけどな… 僕はフロンティアだから一番中立だし」


「ハッハッハ! 子供受けは余り良くないようだなぁ、ブリューゲル」

 セルギウスは王子の伝言に大笑いしている。


「からかわないでくれセルギウス、それに王子を子供扱いすると君もガン付けられるぞ」


「望むところよ、『七星樹(セブンズ・オーダー)』の一角を担う王子と言ってもまだまだ可愛い子供だ、ハッハッハ!」

 セルギウスはまた高笑いを始めた。

 その巨漢から発せられる笑い声は重低音で、その音からでさえ屈強さが伺える。


「フィン王子まだあの歳なのに、Sランクフロンティア級に強いからねぇ…」

 セルギウスの大笑いする姿を横目で見ていたブリューゲルは苦笑しながら、ぼそりと呟いた。


「とりあえず大方は揃った、居ない者の事を考えても仕方が無い、僕に案があるんだけど」

 今『漆黒の暴牛』の飛空艇の船頭にいる者はユースティア=フィオナとアメン=アンク=フィン王子を除いた、各飛空艇の代表者、及びその者達に準ずる実力者だけだ。

 その者達が円陣を組みブリューゲルの声を傾聴している。


「…と言うわけだ、それでいいかい?」


「「「了解!」」」



 ♢ ♢ ♢



 時は少し進み、幾千もの魔物の大軍との衝突を間近に控えようとしていた。


 『これより前方の大軍に向けて進軍を開始する臨戦態勢に入ってくれ』

 俺達の脳内には再びブリューゲルさんの声が響き渡る。


 俺達の飛空艇では悠貴は愛刀『夕薙(ゆうなぎ)』の剣先を敵軍へと向けフィオナは風の大精霊シルフに加え、火の大精霊サラマンダーを召喚し迎撃体勢は整っている。


 俺達と並ぶように飛行している他の隊の飛空艇の様子を伺っても、各々が武器を手に取り万全の体勢のようだ。


「眩しい… あの光は…」

 次の瞬間、先陣の飛空艇すなわち各隊の最高戦力が集まる『漆黒の暴牛』の飛空艇から眼球を焼きつけられそうになる程の眩ゆい青白い一筋の光が一直線に天へと舞い上がっていた。

 俺達の飛空艇から先陣の飛空艇まではかなりの距離があったが、その飛空艇の船頭に光源がある事は確認できた。

 そしてそこには巨漢が一人、空高く自分の身長よりも大きな大槍を掲げていた。


「一番槍は頂くぞ!」

「我は天翔ける邪魔を殲滅せし漆黒の凶戦士なり、ならば我が大槍は蒼天に至らんと進撃する 我が投擲(とうてき)を阻む者無し!」 

 セルギウスさんは魔物の大軍に狙いを定め槍を構えると天へと一直線に伸びていた青白い光はセルギウスさんの詠唱と共に彼の大槍へと集約された。

 その直後巨漢が勢いよく振りかぶるのと大槍は一直線に敵軍へと放たれた。

 その大槍は空の彼方へと消えてしまうのでは無いかと言う程のスピードまで加速し、青白い光は再び莫大な大きさに広がった。

 だがその光は次第に水へと変わり、投擲(とうてき)された槍を核として槍を(かたど)った津波が敵に押し寄せて行く。

 槍はその勢いのまま莫大な水と共に魔物の大軍と衝突し、正面にいた何層にも重なる数百もの魔物を飲みほして行く。


「空で津波とか…ありなのかよ…」

 俺は上空4000メートル付近で天災とも呼べる津波が発生している光景を目の当たりにして腰を抜かした。


「あれはベルドハイム=セルギウスの代名詞と言ってもいい技、通称『海投げ』だ」

「その投擲は城塞を飲み干し、槍が通り過ぎた場所は一つの町を跡形もなく消し去る、連合国一の殲滅力を誇る水の咆哮と聞いていたが…」

「これ程とはな…」


「あれはすげぇーな嬢ちゃん…」

「相性が悪りぃ…俺じゃやられる」

 威勢の良いサラマンダーでさえ、少しだけビビった様子で目の前の光景を見ていた。


 しばらくその光景を眺めていると、水の咆哮は次々と魔物を飲み干し大軍の真ん中に大きな一直線の空白を作り大軍は左右に分断された。 

 圧倒的な水圧で押しつぶされたのだろう、どうやら飲み込まれた魔物は跡形もなく消失したようだ。

 その後、水の咆哮は勢いを失い飛散し雨のように地上に落下していく。


「俺は今のでほぼほぼ魔力切れだ、後は任せたぞブリューゲル…」


「上出来だ、セルギウス」

 『漆黒の暴牛』の甲板でブリューゲルはセルギウスの健闘を讃えた。


 『ベルドハイム=セルギウスの大投擲を以て、道は開かれた』

 『皆は側面から襲ってくる、残りの魔物を倒しながら此処を切り抜けてくれ』

 『正面は僕達が引き受ける』


 そのブリューゲルさんの指示が脳内に響き渡った直後、敵軍の真ん中に一直線にできた空白から船団は敵軍の中へと切り込むように進軍した。


「来るぞ、死ぬなよ…」

 フィオナが再度、俺達に戦闘への警鐘を鳴らす。


 船団の側面にはまだ幾千もの魔物が残っており、魔物達は咆哮を轟かせながらこちらへと飛来してきている。


 御一読していただき、ありがとうございました。

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