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Beyond the front line 〜弱キャラよ人類の最前線を超えろ〜〈プロト版〉  作者: トワイライトGoodman
第2章 蒼天大瀑布編
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第33話【大戦の予兆】

 

「魔物の大群が突っ込んでくるぞ!」

 時刻はもう昼近くになっただろうか、俺が甲板で一人空を見ていると突然、この船団の先頭から男達の叫び声が空中に飛散し伝わってくる。

 その声の発信源は先遣隊の中の更に精鋭で構成されている、この『前線連合軍(フロント・ユナイツ)』の一番槍を務めるベルドハイム=セルギウス率いるノルデン連合国『漆黒の暴牛』の飛空艇からだった。


 俺はふと視線を何気なく見ていた空から声の発信源のある空へと移した。

 するとそこには確かにこの船団の進行方向に幾つかの点のような物が一直線に飛行してきているのが確認できた。 

 ここからではまだ極小の点にしか見えないが、目を凝らして見ると確かに魔物だった。


「はぁ… 『蒼天大瀑布』に着くまでに、一体何回戦闘すればいいんだよ…」

 俺はもう数回繰り返してきた、空路での戦闘に呆れかけていた。

 そうは思いつつもフィオナ達に魔物の接近を伝える為に、俺は船内へと急いで戻った。


 ガッタン

「おい皆、進行方向から魔物の大群が突っ込んでくるらしいぜ」

 俺は勢いよくドアを開け、急いで状況を皆に伝える。


「敵の数は?」

 ドアの近くにいたフィオナからすぐさま状況を把握する為の質問が返ってくる。

 流石(さすが)はSランクフロンティア、特に慌てたもせず戦場慣れしている様子だ。


「まだだいぶ遠くに見えるから、数までは分からない」


「わかった、私は甲板に出て状況を確認してくる」

「カゲナギは他の部屋にいる皆に伝えにいってくれ」

 フィオナは俺に指示を出し、即座に甲板へと飛び出して行った。


 俺はフィオナの指示通り、船内にいた他の仲間を呼びつけ戦闘準備をして甲板に出た。


「すまん、待たせた」


「皆、今回の戦闘はこのパーティーになって一番激しいものになるかも知れない」

 そう言ったまま、フィオナは魔物達のいる方向から視線を逸らさなかった。


 それに習うように俺達も魔物たちのいる方法に視線を向けた。

 そこには先程、俺が確認した時よりも魔物達が確実にでかい点となってこちらに迫ってきている事が確認できた。


「なんですか…あの数は」

 俺の隣にいたミアがその魔物達を見て目を丸くしている。


 そう先程は極小の点で何かがこちらに向かって接近してきている、強いて言えばその点が魔物だと(かろ)うじて確認できる程度だった為、その数は分からなかった。

 しかし、その点が大きくなり魔物が接近しているとはっきりと確認できる今ならその具体的な数を把握する事ができた。

 俺は正直、今までの戦闘のように数十体、いや数百体その程度の規模だと考えていた。 

 しかし今回はそんなレベルでは無かった。


「いくら浮遊島が多く存在する魔空域と言っても、あの数は異常だ」

 その魔物の数は世界一のフロンティアであるブリューゲルさんでさえ驚いてしまう数なのだろう。


「おそらく千、いや2千、いや3千近い数いるかも知れません」


「この辺の浮遊島であの数の魔物が住み着けるのは『蒼天大瀑布』だけだ」


「だとしても、あの数の魔物が一斉に島から離れるなんて…」


 フィオナとブリューゲルさんの会話している声の雰囲気が揃っていつもより重い感じになっている。


「今はそんな考察をしている暇は無さそうだ」

「僕は他の飛空艇の者達と話をしてくる」

「フィオナ、この飛空艇は君達に任せたよ」 

 ブリューゲルさんはそう言うと勢いよく走り出し空へと身を投げ出した。


「ちょっと、なにしてぇ…」

 俺が止めようと声をかけた時にはブリューゲルさんは自身の体躯を空中に浮かせたいた。


「じゃ、後はよろしく」

 ブリューゲルさんは俺達に向かって手をあげると、物凄い勢いで先頭のノルデン連合国『漆黒の暴牛』の飛空艇へと飛んでいった。

 その飛行の仕方はとても軽やかでまるで無重力空間にいるかのようだ。


「そげぇーなぁ…あの人は」

 悠貴は飛行しているブリューゲルさんの姿を目で追いかけている。


「さて、こちらはこちらのやるべき事を果たすぞ」


「で、具体的には何をしていくんだ?」

 悠貴が真っ先に次の行動への指示を仰いだ。


「おそらくブリューゲルさんが他の飛空艇の代表者と話をつける、その結論はあの魔物の大群と真正面からやり合うか、それとも迂回して戦闘を避けるか、このどちらかの指示が下るだろう」

「まぁ…迂回するにしても多少の戦闘は避けられないだろうがな」

「どちらにせよ船団の進路確保は人手の多い『七星樹(セブンズスター)』所属の隊がしてくれるはずだ、人手の少ない私達は自らの命とこの飛空艇を守る事を優先に行動する」


「ミア、飛空艇の操舵はした事があるか?」


「はい、一応有事じゃ無い時ですが進路変更ぐらいは…」


「なら十分だ、ミアは操舵室に行って指示があるまで待機だ」

「この飛空艇の操舵室の中央には操舵球と呼ばれる紫色の光を放つ球体が浮かんでいる、それがこの飛空艇の原動力だ」

「操舵様式は力属性魔法、後はやってみればどうにかなるだろう」

「頼んだぞ」


「わかりました、最善を尽くします」

 ミアは憧れの存在であるフィオナに頼られて嬉しかったのだろう。

 テンポよく頷くとすぐにフィオナの指示通り、急ぎ足で船体の下部にある操舵室へと向かっていった。


「ユウキはこの飛空艇の死守の為に毎度のごとく私と一緒に戦闘してもらう」


「いいぜ、今回はいままでの戦闘の中で一番やれる気がする」


「いい気合だ、君の固有スキルを存分に発揮してくれ」


 俺はあの魔物数を見て怖気づかないのは流石(さすが)悠貴と思ったが、同時に何を根拠にそんな事が言えるのだろうとも思った。

 しかし次の瞬間、俺はある事を思い出したのだった。

 悠貴は固有スキルである『英気繁栄』を保有していたのだった。

 この『英気繁栄』と言うスキルもかなりのチートスキルで、簡単に言えば悠貴の生命エネルギーをステータスに加算するスキルで、それも逆境になればなるほどその加算の度合いは上昇する。

 フィオナの見立てでは人類の最前線付近での悠貴のステータスはSランクフロンティアに匹敵(ひってき)する程まで上昇するらしい。


「最後にカゲナギはミアの側にでも付いて居てやれ」

「今回のこの状況は修行とかそんな事を言っている場合じゃ無いし、君がヘタに戦闘に参加したら確実に守りきれる保証は無い」

 フィオナはきっと心の底から俺の事を気遣った勧告してくれてるのだろう。


「嫌だ……… 俺も一緒に戦うよ」


「カゲナギが… おかしくなった」

 悠貴はまるで人じゃない何かが人間の言語を話したのを目撃したような顔で俺の方を見てくる。


「今回は本当に危険だ、下がっていろ」

 フィオナの声色もいつにも増して真剣な雰囲気を孕んでいる。


「断る!」

「俺もそろそろ異世界ファンタジー的な事がしたいんだよ」

 俺も本当は自ら命を懸けた戦闘なんぞには参加するのはごめんだ。

 しかし、断ろうと口に出すよりも先に昨日のフィオナの言葉や今までこのパーティーに助けられてこの大嫌いな世界で生き延びてきた日々が脳裏に蘇るのだ。


「カゲナ………」


「それに… フィオナも悠貴もミアもブリューゲルさんも『前線連合隊(フロント・ユナイツ)』の皆もこれから命懸けであの魔物の大軍と戦うんだろ」

「ならそこに俺だけが命を張らずに逃げていい理由があるわけ無いだろ」

「昨日、フィオナ俺に言ったよな『立ち向かう勇気を持て』って」

「上手く言葉では言えないけど、その向き合う力的な奴が今の俺には足りてないんだと思う」

「これは俺が俺自身を変える為に戦う戦いだ、俺は俺自身の為の戦いで死ぬのなら構わない」


「らしくない事言いやがって」

 悠貴が煽るような口調で小さく笑みを浮かべて俺の顔を見てきた。


「うるせぇ… いいだろ腐っても俺からすればこの世界は異世界ファンタジーなんだよ」

「たまには浸らせろ…」


「生きるも死ぬも最後は結局運任せだしな」


陽凪(かげなぎ)の運のステータス確かEランクじゃなかったっけ…」


「さっきから余計な一言が多いぞ悠貴さん」


 まったく…今俺は常識の通用しないこのバベリアで自己保身を諦め、異世界ファンタジーを満喫しようとラノベ主人公的な事を言ってるのにちゃちゃ入れやがって。


「フッ…フッフ…わかった存分に自分の為の戦いを戦ってこい」

 フィオナは俺に対する悠貴の煽りに少しだけ笑った、だがその後の言葉は俺の耳にはとても凛々しく聞こえた。


「ありがとう…」


「それで非力な君があの魔物の大軍からこの飛空艇を守る策でもあるのか?」


「まぁ…一応な、成功するかは分からいないけど」

「フィオナ、この飛空艇の帆って何の為についてるんだ?」


「………もともと師匠が造った飛空艇だからな私にも分からないが、師匠が言うには故郷の船はみんな帆がついていたからとか言ってたかなぁ…」

 フィオナは記憶を辿っていたのだろう、やや言葉の出だしに詰まっていた。


「それなら、この帆が無くても飛空艇の動作には対して関係ないんだな?」


「おそらくな、さっきも言ったがこの飛空艇は力属性魔法の応用で飛んでいるからな」


 やはり俺の予想通りだ、大方俺達と同郷のフィオナの師匠は実際に飛空艇を動かすには必要の無い帆を雰囲気で付けたのだろう。

 そもそも帆とは風を受けその力を利用して船体を動かす為に存在しているものだ。

 この飛空艇はその原理とは全く違った、この世界にしか無い魔法という原理で動いている。


 それに前から気がかりだったのだがこんな上空にいるのにここでは余り風が吹かないのだ。

 だがその訳も風は高気圧から低気圧に流れると言う理論から考えればだいたい予想が付いている。

 バベリアに来た時フィオナが言っていた世界樹の影響でバベリア内ではどの高度でも地上と変わらない環境になっている、つまりは気圧の変化がほぼ無いと言うことだ。

 気圧の変化が無いと言うことは先程の理論と照らし合わせれば(おの)ずと風も吹きにくい事になる。


 と言う事は今この飛空艇に取り付けられている帆は取ってしまってもなんだ問題が無い、帆としての役割を果たしていないただの布切れなのだ。

 だが今はただの布切れがあるだけで十分なのだ。


「この帆貰うぜ」

 俺は飛空艇に取り付けてある帆を少しずつ取り外し、自分の元へと手繰(たぐ)り寄せた


「何をするつもりだ?」


「気にするな二人は戦闘の準備をしておいてくれ」

 俺は手繰(たぐ)り寄せた帆を甲板の上に放置し、急ぎ足で飛空艇の倉庫へと向かって行った。


 御一読していただき、ありがとうございました。

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