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Beyond the front line 〜弱キャラよ人類の最前線を超えろ〜〈プロト版〉  作者: トワイライトGoodman
第2章 蒼天大瀑布編
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第31話【魔空域の旅路③】

 

 結局、フィオナが召喚した火の大精霊サラマンダーは『銀翼竜』や向かってくる他の魔物達を次々と殴り倒し撃墜していった。

 その倒した魔物の総計は百余りだそうだ。

 それも、どれもAランクフロンティア以上じゃなければ倒せないレベルの魔物だったらしい。

 気の済んだサラマンダーは世界樹の光が眩しい日中の内にフィオナの魔力の中へと還っていった。


 一方俺はと言うと世界樹の光が落ちてバベリアが夜になった今でもトンカチの音を響かせていた。


「カゲナギ調子はどうだい?」

 今までもパーティーメンバー全員が変わる変わる様子を見に来てくれていたが、最後に船内から出てきて様子を見に来てくれたのはブリューゲルさんだった。


「まぁぼちぼち終わってきてますよ、床の補修作業はもうすぐ終わりますね」

「でも、手すりの方はまだ手を付けてません」

 俺は早く作業を終わらせたいが為に、人と会話をしている時も作業の手を休めることはしなかった。


「そんな根詰めすぎずにそろそろ休憩したらどうだい?」

「はい、これ」

 ブリューゲルさんは左手に持っていたコップを差し出してきた。


「あぁっ、ありがとうございます」

 俺は作業の手を止め、差し出されたコップを受け取った。

 コップの中には透き通った金色の液体が入っていた。


「これって何って飲み物ですか?!」

 俺がその飲み物を口に含み、喉をとうした瞬間、この液体が炭酸水であることを感じ取った。

 そして俺の舌はこの金色の液体が俺の好物だった飲み物である事を記憶していた。


「これはアルコールが飲めない子供でも飲めるように作られた飲み物で『ライトエール』って言うんだ、けどそんなに興奮してどうしたんだい?」


「俺があっちの世界で大好きだった飲み物と似ているんですよ」

「この炭酸の日々のストレスを吹き飛ばしてくれる飛散感と爽快感、それにこの少し辛さのある味」

 そうまさしくこの『ライトエール』と言う飲み物は現実世界で言う所のジンジャエールに当たる物だ。

 そしてジンジャエールは俺が向こうの世界で一番好きだった炭酸飲料だ。


「僕はもちろんこっちより本物お酒のほうが好きだけど、フィオナがカゲナギとユウキは未成年だとか言って酒を飲みたがらないと聞いてね」

「それなら『ライトエール』なら飲めるんじゃないかと思ったんだけど、気に入ってもらえて嬉しいよ」


「どうせならもっと早く教えて下さいよ」

「それで、この飛空艇にどれだけ積んであるんですか?」


「確か倉庫に酒樽2個分ぐらいはあった気がするよ…」

「おそらく、フィオナが気を利かせて買い付けてくれんだろうね」

 俺は自分の好物がこの異世界に来てまで飲める事を知り、なんだか少しだけ報われた気持ちになった。


 ありがとうございます、フィオナ先輩。

 そして、俺は心の中でフィオナに深く謝礼をした。


「ありがとうございます、ブリューゲルさん一息つけました」

 俺はライトエールを飲み干すと、謝礼の言葉と共にブリューゲルさんへコップを返した。


「それじゃ、僕も少しカゲナギの作業を手伝おうかな」

 ブリューゲルさんはコップを船内へと持っていってから、再び甲板に出て俺の作業を手伝いに来てくれた。


「じゃ、手すりの補修作業に入りましょうか」

 俺はブリューゲルさんが船内へと戻っている間に床の補修作業を終わらせた。


 俺達は資材を持って甲板の縁にある、手すりの壊れた場所へと向かった。


「怖ぁ…」

 手すりは飛空艇の縁に設置された落下防止の為の物であり、それが先のサラマンダーと『銀翼竜』の戦闘で破損しており、作業中に誤って少しでも体勢を崩したら、落下してしまいそうだった。


「どうせ素人のやる補修作業なんだし、簡易的な措置ができればいいのでさっさと終わらせましょう」

 俺達は手すりと手すりの間の開いたスペースを埋めるようにとりあえずは木の板で簡易バリケードを作る事にした。


「カゲナギはこの世界が好きかい?」

 作業にも少し慣れ、余裕の出来た様子だったブリューゲルさんは作業しながら唐突に俺に質問を投げかけてきた。


「まぁ…好きか嫌いかで言えば嫌いでうすね」

 俺は自分の思った事を率直に伝えた。


「どうして嫌いなんだい?」


「だって、せっかく憧れていた剣と魔法のファンタジー異世界に来たのに俺の周りのパワーバランスおかしぎますよ」

「俺と一緒に転移してきた悠貴は超高ステータスとおまけに『英気繁栄』とか言うチートスキル付きのイケメン完璧超人だし、フィオナは世界で5本の指に入る程の超強いフロンティアで、それに加えて貴族家の当主だし、ミアもまだまだ幼いけど『一発必中』って言う唯一無二のスキル持ってるし、あなたは全ての魔法やスキルを模倣できるチートの具現化見たいな人間だし、それに今まで会ってきたバッカスさんやスカーレット様、今一緒に『蒼天大瀑布』を目指している『前線連合軍(フロント・ユナイツ)』のメンバーだって、各国の王族や貴族、最強の軍や隊の(おさ)とかばっかりで、こんなに世界観も登場人物も第一級で王道なのに俺だけ魔力無しの一般人ですよ」

 俺は心の中に浮かんでくるこの世界に対する愚痴を次々と吐露した。


「そりゃー、憧れてた異世界と言えどもこんな自分だけ雑魚キャラ設定じゃ好きにはなれませんよ」

「こんな理不尽な異世界転移があってたまるものかって思ってます」


「アッハッハ、カゲナギのそう言う卑屈で少し曲がった見方ができる所いいと思うよ」

 ブリューゲルさんは俺のこの世界の理不尽さに抗う熱弁が余りにも必死だっったのか、少し苦笑している。


「それに俺みたいな弱キャラ一般人が今人類の最前線に向かってるなんて笑い話もいいところですよ」


「全くだ、君は特例中の特例だ、人類史上Eランクフロンティアが人類の最前線に行ったなんておそらくなかっただろうね」

「でも、カゲナギ自身も捻くれてるが故にそんな今のおかしな現状が少なからず気に入ってるんじゃないのかい?」


「まぁ、確かにそうかも知れませんね」

「ちょっと前の俺なら普通じゃない特別に成りたくて、その特別が悠貴みたいなおとぎ話のような王道主人公のような力を得ることだと思ってたんですよ、でも今はこんな捻くれた自分でもある意味特別ななにかにもうなってるんじゃないかなぁーって開き直ってます」

「それに今のこのパーティーに入って散々な目にあってもう勘弁してくれって思う時も多々ありますけど、なんだかんだ言っても俺にとって非日常的なこの日々が少しだけ楽しいのかも知れませんね、でもそれを認めちゃったらきっと俺の持ち味が無くなっちゃうと言うか…」

 この世界について語りだしたら自分でも何を言っているのか分からなくて、文脈がおかしくなっていることぐらい分かっていたが、それでも言葉が出てしまう。


「だから結局、俺はこの世界が嫌いなままでいいんだと思います」


 こんなちょっとくさい雑談をしていたらあっと言う間に時間が過ぎ、気づけば手すりの修復作業も完了していた。

 時刻は深夜辺りだろうか。


「ありがとうございました! ブリューゲルさん」


「いえいえ、カゲナギの助けになれて良かったよ」

「さぁ、明日にはいよいよ『蒼天大瀑布』が見えてくるはずだ」

「カゲナギはもう休むといい」


「わかりました」

 俺はブリューゲルさんの指示通り工具や余った資材を片付けた後、体を軽く洗い、すぐさま寝床に就いた。


 ♢ ♢ ♢

 ブリューゲルはカゲナギが船内へ戻った後も一人、甲板に残りバベリアの空を見つめている。


「懐かしいなぁ…」

「あの時の君を見ているようだよ」


「本当は好きだし、自分の感情も理解している」

「だけど表面上は絶対にそれを認めない、捻くれた自分さえも肯定してしまう」

「彼は結構君に似ていないか?」


「それもそうか………」


「だって彼は君の…………………」

 

 御一読していただき、ありがとうございました。

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