第30話【魔空域の旅路②】
「いいかカゲナギ、あいつは『銀翼竜』五代飛竜種の中でも水魔法、それも氷を操る竜だ」
「丁度、君の持つ魔剣と相性は同じだがバッカスさんの打ったその魔剣ならあの竜のそれを大きく凌駕する」
「それにその魔剣に魔力のストックも十分してある、後はカゲナギ次第だ!」
フィオナはブリューゲルさんのせいで『銀翼竜』に接近していた俺の近くに来て鼓舞の言葉を放った。
「いやいや待てよ、この前の『深碧竜』との戦闘でも俺何もしてないし、いきなりAランクフロンティアでも苦戦を強いられる敵を相手にしろなんて言われてもよ…」
「つべこべ言うな、敵は魔物待ってはくれないぞ」
次の瞬間、『銀翼竜』は飛行状態から甲板に足を着け四足方向状態になっていた。
彼の竜分かりやすく例えるとすればモン○ンのクシャル○オラの白銀版と言った所だうか。
「やべぇこっちに来るーーー!」
俺は迫ってくる『銀翼竜』に背を向けて、走って悠貴、ミア、ブリューゲルさんの方へと慌てて走り出す。
「あちゃ… カゲナギは本当にここまで連れて来て大丈夫だったのかい?」
「まぁ力はEランクフロンティアだししょうが無いじゃないですか」
「まぁ、いきなりあんな竜と戦えって言う方が常人には無理なんじゃないですか…」
悠貴とブリューゲルさんは慌てて向かって来る俺を見て苦笑しながらも不安そうな顔をしていた。
「カゲナギは本当に弱っちいですね、まだまだ未熟な私でもフロンティアである以上、あんな無様な敗走はしませんよ、たまにはカッコいい所見せてくださいよ」
少々息を切らしている俺を見ながらミアも呆れている様子が伺える。
「うるせぇー俺はプライドよりも命を取るんだよ、まだ死にたくない! 確実に生きたい…」
「見てください、フィオナさん一人であの竜をあしらってるじゃないですか」
ミアに言われ俺は振り返り、俺が慌てて走り出した地点を見た。
「はぁ…まったくカゲナギの奴と来たら…」
「『疑似精霊作成:大精霊サラマンダー』」
いつもの戦闘モードの時のように光の粒が彼女の体の周りを覆い、その光が集約し赤色の光へと変出していった。
「あんまり、この子は召喚したくないんだけどな…」
「ハッハッハ、そんなつれねぇー事言うなよ嬢ちゃん」
赤色に変出した光からは頭部には二本の角が生え上半身はほぼ裸体で下半身には赤色の膝辺りまでしか無い鎧を身に纏い足と手には五台飛竜種のような頑丈そうな鱗、そしてこの世の全てを溶かす灼熱のマグマにみたいなオレンジ色の肌色をした竜人のような精霊が現れた。
声はワイルドで荒々しい兄貴肌の声をしている。
「久しぶりだね、彼を見たのも」
「凄いです! 凄いですよ! あれがフィオナさんの召喚する精霊の中でも最強の火力を誇る、火の大精霊サラマンダーですよ」
ミアは俺に呆れるのなど忘れ、フィオナの召喚した精霊に釘付けになっている。
「で、今日の獲物はあいつか?」
「弱そうな竜だな…あんな奴一撃で終わるぞ」
「あぁ…そうだ」
「くれぐれも飛空艇を壊さないように手加減して倒せよ」
フィオナとサラマンダーが話をしている最中、『銀翼竜』は翼をはためかせ、大気中の水分を10本程の大きな氷柱に変えそれを2人に向かって発射する。
「了解だ嬢ちゃん」
フィオナの横で浮遊していたサラマンダーは甲板に足をつけ、次の瞬間、膝を曲げて少し前かがみになり踏ん張ると、甲板の床は割れ疾風と共に『銀翼竜』の真正面まで飛んで行った。
その疾風は熱気を含んだ焔風へと変わり2人に向かって発射された氷柱は全て砕け落ちた。
「お前ごときじゃー 俺様の相手にはならねぇーぜ」
サラマンダーは跳躍して移動した勢いそのままに『銀翼竜』の腹部に炎炎と燃えたぎった拳を一撃入れ殴り飛ばした。
『銀翼竜』は飛空艇の甲板の縁につけてある手すりを破壊しながら大空へと飛び出していった。
めちゃくちゃだ、あの『銀翼竜』ってAランクフロンティアでも苦戦する程の魔物じゃないのかよ。
先のシルフと言い今回のサラマンダーといいその竜達を一撃で倒すなんてフィオナの召喚する大精霊はいったいどこまで強いのだろうか。
そして彼らを召喚する彼女自信も…
「やべぇ、久しぶりで力の制御出来なかったぜ」
サラマンダーは首を捻りながら、フィオナの方を見て苦笑した。
「やっぱりそうなるよな… お前はいつも力の制御してないだろ」
「甲板の床も手すりも壊して…」
フィオナは前に垂れた髪を耳にかけながら落胆の声を漏らした。
「すまねぇーな、でも拳一つであそこまで成るとは思わなくてよ」
「もう戻れ…」
「嫌だよ嬢ちゃん、せっかく久しぶりに召喚して貰ったんだぜ」
「まだまだ暴れたり無いぜぇ!」
「はぁ…お前は戦闘狂だからあんまり召喚したくなかったんだ、私の召喚できる精霊の中でお前が一番、対『銀翼竜』戦に向いてるから仕方なく召喚しただけなんだけどな…」
「そんな事言わないでくれ、寂しいだろ嬢ちゃん」
「そんなに戦闘衝動が収まら無いのなら、空に残りの『銀翼竜』がいるはずだ」
「ほっといても他のメンバーが倒すだろうが気の済むまで倒してこい」
「いいのか?」
「この飛空艇で暴れられるよりは幾らかましだ」
「それじゃ、行ってくるぜ」
サラマンダーは再び体躯を浮遊させ大空へと飛び出していった。
「騒がせてすまないな、あいつは四大精霊の中でもなかなかな曲者でな」
「利口なシルフとは対照的で驚いただろ?」
確かにそうだ、俺達が一番最初に目にした精霊であるシルフは清廉で美しくお淑やかな女性の精霊であった為、精霊とは高潔なんだろうと勝手なイメージを作っていた。
しかもシルフは地に足を着けず体が常に浮かせて戦っていたので、今回のサラマンダーと比較するだけでも精霊にもいろいろな戦闘スタイルがある事が判明した。
「いえ、フィオナさんの四大精霊を見ることが出来て嬉しかったです」
「フィオナは本当に凄いなぁ、俺じゃまだまだ及ばないなぁ」
悠貴とミアはフィオナの戦闘シーンを見れて満足気な表情だった。
「それはそうとカゲナギ、君が逃げるからサラマンダーを召喚する羽目になったんだぞ」
フィオナは厳しい表情で俺を見てくる。
「だって、流石にあれはなぁ…」
「言い訳は結構だ、いいか私はお前を守ると誓った」
「だがここまで来た以上、常識は通用しない、常人のままでは生き残れない」
「それが人類の最前線と言う場所だ」
確かにフィオナの言っている事には理がある。
『前線連合軍』の面々を見たら分かるようにここに来ているのは常人じゃない曲者ばかりだ、法は疎か人類が決めたルールなど何一つとして無視され魔物蔓延る人類の未踏の地は無秩序無き場所に違いない。
常人では無く曲者である覚悟を持たなければ、生き残れない世界なのだ。
それにこの世界に来る前、特別な何かに成りたいと願っていた俺にはぴったりなのかもな。
「すまなかった、次からはちゃんと戦ったてみるよ」
俺はしっかりと背筋を伸ばした上で頭を下げ謝罪した。
「猫背がアイデンティティとか言ってるカゲナギが捻くれてない…」
ミアの驚きを隠せず呟いた小声が耳に入った。
「もう、別に倒せなどとは言わない、だが立ち向かう勇気を持って欲しい」
「それでピンチになっても大丈夫だ、このパーティーのメンバーは皆相応の覚悟を持っている、だから強い」
「仲間の逆境ぐらいカバーしあえる」
「おう!」
俺が顔を上げると、パーティーの皆は微笑んでいた。
「あぁ、それとさっき逃げた罰として甲板の床と手すりの補修作業をしておいてくれ」
「資材はここに来る前に買ってあるから安心しろ」
「えぇ…」
「分かってくれたとは言え、あの行動は戦場ではあってはいけない行為だ」
「しっかりと罰は受けて貰うぞ」
「はい…」
その後、皆は船内に戻り俺は甲板で一人、飛空艇の倉庫から持ってきた資材と工具を使って補修作業を行っている。
空を見上げると、赤き流星のような眩い光と獄炎の炎と共に次々と『銀翼竜』を倒していくサラマンダーが見えた。
「ちょっとは骨のある魔物はいねぇーのか?」
「やっぱり、俺が強すぎるだけなのか、ハッハッハ!」
辺りにはサラマンダーの高笑いが響き渡った。
「はぁ…俺は異世界に来て日曜大工かぁ…」
弱キャラの俺が響かせられる音と言えばこのトンカチの音ぐらいだ。
御一読していただき、ありがとうございました。
よろしければブックマーク登録、評価をお願い致します。




