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Beyond the front line 〜弱キャラよ人類の最前線を超えろ〜〈プロト版〉  作者: トワイライトGoodman
第2章 蒼天大瀑布編
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第28話【先駆者の空へ】

 

「お二人ともおはようございます」


「お、戻ったか」


 代表者会議を終え宿舎へ戻るとミアもすでに起床しており、二人して丁度朝食を取っていた。


「やぁ! 二人とも」

「これから当面の間、僕もこのパーティーに入れてもらう事になったからよろしくね」

 俺とフィオナが先に入室して、それに続いて入ってきたブリューゲルさんがいつもの気さくな雰囲気で二人に挨拶をした。


陽凪(かげなぎ)、あの兄ちゃん誰だ?」

 悠貴は朝食のパンを手で持ったまま俺に近づいてきた。

 それも当然の事で、いきなり見知らぬ兄ちゃんからパーティーに入るなどと言われて驚かないはずがない。


「フィオナさん…この方って…」

 一方、もとからこの世界のフロンティアをしていたミアは当然、ブリューゲルさんについて知っているようでパンを(くわ)えたまま椅子の上で微動だにしなかった。


「おやおや、そこのイケてる君のステータス凄いねぇ」

「それに固有スキル『英気繁栄』に特殊スキル『永久不老』か…」

 いきなり会った兄ちゃんに顔をまじまじと見られて流石(さすが)の悠貴も少しだけひいている。


「こっちのお嬢さんは固有スキル『一発必中』か…」

「て、君は『狩猟の聖弓(アルテミス)』のミアちゃんじゃないのか?」

 ブリューゲルさんは悠貴の顔をまじまじと見るのを止め、物凄い勢いミアの方へ近づいて行き彼女の手を握った。


「は…はいそうです!」

 ミアは余程緊張しているのだろう、言葉に詰まった様子で椅子から立ち上がった。


「ずっと会いたかったよ」

「君のスキルは噂では何度か聞いたことがあって、実際に見てみたかったんだ」

「凄いスキルだよね、どんな場所にいる敵にも攻撃を必中させる事が出来るなんて」


「いえ、このスキルはそんな大した物ではありません…」

 ミアの顔つきが少しだけしょんぼりしている。

 それもそのはずミアにとってこのスキルはパーティーに入れてもらえなくなった悲しい過去を物語るものでもあるのだ。


「知っているよ、このスキルの弱点の事だろ?」


「はい…」

 弱々しく返事をしたミアの視線は床に向いていた。


「顔をあげなさい、ミアちゃんは昔のようにパーティーメンバーになる事を拒絶されたりなんてしない」

「フィオナはもちろん、さっき会ったばかりのカゲナギやそこのイケメン君も決してミアちゃんを見捨てるような奴じゃないって僕でも分かる」

「それにスキル『一発必中』を持っているのは世界にミアちゃんただ一人だけなんだ、もっと自分自身の力を誇りなさい」

 ブリューゲルさんは腰を降ろし、ミアと同じ目線になると笑顔でミアに語りかけた。

 俺の横にいたフィオナはブリューゲルさんに励まされているミアを微笑ましそうに見ている。


「あなたにそんな事を言って貰えるなんて…」

「本当にありがとうございます!」


「こんな空気の中、大変申し訳ないんですが… 結局の所あなたは誰なんですか?」

 ほんの(わず)かな沈黙が続いた後、悠貴が恐縮した声色で言葉を発した。


「僕の名前はブリューゲル、ただのフロンティアさ」


「あぁ、どうも」

 悠貴は(かし)まった様子で一礼をすると、ブリューゲルさんもそれに合わせて軽く頭を下げた。


「えぇ…と、この人の自己紹介はハショリ過ぎだから俺から説明するが悠貴(ゆうき)驚くなよ」

「彼こそ世界最強のフロンティア、二つ名は『現世の語部(ワールドキャスター)』だ」

「ただし、ロクでなしでちゃらんぽらんな所があるから注意が必要です」


「カゲナギって地味に酷い奴だなぁ、まだ今朝出会ったばかりじゃないか」

 ブリューゲルさんは苦笑しながら自らの銀髪を掻いている。


「だって事実じゃないですか」


「待ってくれ陽凪、最初の方なんて言った?」


「世界最強のフロンティアで二つ名は『……」

 俺が先程のセリフを忠実に再現しようとしたが、その試みは途中で途絶えた。


「この兄ちゃんが世界最強?!」

 悠貴はブリューゲルさんを指差しながら、頭を横に捻らせた。

 一方、指を差されたブリューゲルさんは笑顔で頷いていた。


「世界最強と言ってもフロンティアだけの話さ、世界には僕なんかより強い人はきっといるはずさ」


 いやいや、目にした技やスキルを模倣してしまうあんたより強い人間なんていたら、もうそれはきっと人間なんかじゃないよ。


 それから俺達はブリューゲルさんを交え、彼が仲間になる事になった経緯や彼の能力、シノザクラ・サヤの存命など今朝起きた出来事や知り得た情報を悠貴とミアにも共有した。


「師匠が存命で良かったですね、フィオナさん」


「あぁ…これで私がここで戦う理由が明確になった」


「というわけでフィオナも一刻も早く最前線に行きたいだろうし、僕達は明日にはこの地を発つことになる」


「そうですか…」

 ミアは少しだけ緊張した雰囲気で応答していた。


「今日は残りの時間で必要な道具を揃えてきて欲しい」

「ここはフロンティアの為の商業都市だ、手に入らない物の方が少ないだろう」


 その後、フィオナの指示に従い俺達は手分けして必要な道具の買い出しへと街に繰り出した。


「そこの冴えない兄ちゃん」

 買い出しの途中で俺が露天の並ぶ通りを通っていると、一人の親父さんが露天の中から声をかけられた。

 俺に対する呼び名が少し不服だったが、この世界に来て何度もこんな感じで扱われてきたから慣れてはいけないのに少しだけ慣れていっている気がした。


「なんですか?」

「お前さん先遣隊の人だろ、ならこれを持っ行きな」

 そう言って親父さんが渡してきたのは、七色に光り輝く石だった。


「これは…?」


「持ち主の魔力を本当に少しだけ高める石さ、まぁ本当にちょっとしか効果ないからお守り程度の物としてこの島の有名な土産の一つにもなってる」

「間違えて大量発注してしまってね、やり場に困ってたんだ」


「一応聞きますけど、魔力が無い人が所持したらどうなるんですか?」


「そりゃー効果は無いんじゃないかい」

「ただ先遣隊の人の中に魔力無しなんてブリューゲルぐらいしかいないだろうよ、アッハッハッハ!」

 親父さんは聞いているこっちが気持ちがよくなるぐらいの堂々とした声で大笑いした。


 ただ一つだけ、親父さんの間違った固定観念を正すとすれば魔力なしの先遣隊はいます。

 それもあなたの目の前に…


「久しぶりの大探索クエストでこの都市も活気づいてる」

「皆、応援してるから死ぬんじゃないぜ兄ちゃん」


「ありがとうございます…」


 気づけば買い出しを続けていた俺は街の人達の親切な好意で買った物以上に色々な道具を貰っていた。

 フィオナに指示された物も全て買い終わり、俺は宿舎に戻り夕食を取った後、明日に備えてすぐ寝床に潜った。



 ♢ ♢ ♢



 まだ世界樹の光が(わず)かしか灯っていない明け方に俺達は宿舎を出て、飛空艇が停めてある前線浮遊都市レコードグラムの飛行場に戻ってきた。


「精鋭の皆、よく集まってくれたね」

「これより『蒼天大瀑布』を目指して皆には再び空の旅路を続けてもらう」

「とその前にこの隊の名前を考えてきたから発表するよ、その名は…」

「『前線連合隊(フロント・ユナイツ)』だ!」

 飛行場の一箇所に集められた俺達の前に一人立っているブリューゲルさんは多いきな声を張り上げて隊の名前を告げた。

 『前線連合隊(フロント・ユナイツ)』か、ブリューゲルさんのネーミングセンスはそこそこあるようだ。


「ちなみにこの隊の総指揮は僕がする事になっているみたいだけど…異論がある人はいるかい?」


「大有だ、なぜ王族である余が出自のよく分かるぬお前の言うことを聞かねばならるのだ」

 ブリューゲルさんの問に対して真っ先に挙手をして抗議したのは、オリエント聖王国のアメン=アンク=フィン王子だった。

 先の代表者会議の時同様、見てくれはミアと同じで幼いのに態度は相変わらず尊大なままだった。


「待ってくれ、聖王国の王子よ」

「彼が総指揮をしなければ、一体誰がすると言うのだ?」

 次に言葉を発したのはフィン王子に問を投げかけた、Sランクフロンティアのイージス=アイギスだった。

 白い衣と黄金色の鎧に加え、右手にも黄金色に輝き緑色の布の尾のような物が付いた槍を握っており、彼女の気高さや凛々しさをより一層引き立てている。


「もちろん余である。 他に余以上の適任者がいるのか?」

 フィン王子の発言で一気に場の空気が一変した。

 その空気は俺が生涯で経験したことが無い重圧を含んだ空気で、流石(さすが)に隣にいた悠貴も硬直状態のまま立っている。

 これが人類の第一線で戦う物達のプレッシャーかと、今からの旅に改めて身が引き締まる思いになった。


「まぁまっ…」

 この嫌悪感のある空気をどうにかしようとブリューゲルさんが言葉を発しようとした瞬間、再びアイギスさんの強い意志の籠もった声がこの場に響き渡った。


「いいか、聖王国の王子よ」

「私はパルテスト王国の代表の立場も負っている、『七星樹(セブンズオーダー)』の一角である以上、同じ『七星樹(セブンズスター)』の国の下について戦うわけにはいかんのだ」

「他の国々の物達もだいたい同じ立場を持っているのだろう?」

 アイギスさんが周りを見渡しながら尋ねると他の国々の代表達は頷いていた。


「今の私達の行動は国家間の政治的な意味も含んでいるんだ」

「そうすると『七星樹(セブンズオーダー)』のどこの国にも属していないフロンティアの彼に取り仕切って貰うのが一番都合がよいのではないか?」

 フィン王子の上がりきっていた顎が少しだけ引けていた。 


「今はお前の国と事を構えるつもりは毛頭無い…」

「今回は仕方なく下に就いてやるが、余り図に乗るなよ」

 アイギスさんの説得によりフィン王子は以外にもすんなりと抗議の意見を取り下げた。


「アッハッハハ………総指揮と言っても名目上だけだし、実際の現場の判断は各隊やパーティーの代表者がすることになると思うよ」

 ブリューゲルさん自身にそんなつもりは無く、むしろ向こうからふっかけて来ているのだが連日、一国の王子と軽く敵対してもう苦笑していた。


「今すべき確認事項はこのぐらいかな」

「それじゃ気を取り直して『前線連合隊(フロント・ユナイツ)』、目指すはここより南方の空に浮かぶ『蒼天大瀑布』、無論これより先は浮遊島が多く分布する上空3000メートル以上の空域に入る」

「そこはまだまだ人類未知の領域、もちろん身に降りかかる危険度は甚大(じんだい)だ」

「だがそれと同時にここより先の空は時代を切り開く者、すなわち先駆者の空だ!」

「皆、時代の最前線を創る心構えはできているか?!」


「「「もちろんだ!!!」」」

 『前線連合隊(フロント・ユナイツ)』の各隊やパーティーの代表者達は威勢良い声を揃えて、ブリューゲルさんの皆を鼓舞する問いかけに答えた。

 最前線で命を張る者達の矜持とでも言うべきだろうか、先程までの嫌悪感のある空気は一切感じられず、ましてや(わず)かな団結さえも感じることが出来る。


 その後、俺達はそれぞれの飛空艇に乗り込んだ。

 地上には俺達を見送ろうと早朝にも関わらず、島民が飛行場付近に集まり手を振っている。

 俺達は島民たちに手を振返しながら前線浮遊都市レコードグラムの地を後にした。


 御一読していただき、ありがとうございました。

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