第25話【つかの間の休息】
深碧竜との戦闘から数時間後、俺達先遣隊は続々と前線浮遊都市レコードグラムへと上陸していった。
前線浮遊都市レコードグラム、文字通りそこはこの世界に生きる人々が築き上げたバベリア内の空に浮かぶ最も最前線に近い都市だ。
標高は約2700メートル、基本的には浮遊島は標高3000メートル以上の空域に存在している為、魔物も滅多にあらわれない安全地帯だそうだ。
とは言え俺が元いた世界であれば何も耐性がない人間がいきなり来たら高山病になる恐れがある。
しかしこの巨塔バベリアの中心に立っている世界樹の影響でこのバベリア内ではどんな標高であっても地上と同じ環境が形成されている。
この島に在住しているほとんどの者は商業者、フロンティア、フロンティアギルドの者で一般人が住むような場所では無い。
それに伴い、この都市はフロンティアの為にあるような都市で武具、防具、食料、魔法道具、飛空艇に関する部品などフロンティアが探索する為に必要となる物が商売の主流となっているらしい。
「いやぁ〜 やっと着いたな」
俺達は前線浮遊島レコードグラムの飛行場に飛行艇を停め、この浮遊島の大地に足を踏み込んだ。
「まだ、央都センターを発ってから1日も経っていないがな…」
「とわ言え世界樹の灯は消えすっかり夜だ、とりあえず宿舎に向かうぞ」
「必要な荷物は飛空艇から降ろしておけよ」
俺達は服や軽食など必要最低限の荷物だけ飛空艇から持ち出し、フィオナの案内でこの島にあるフロンティアが使用できる宿舎へと向かった。
この時に荷物運び係はもちろん俺だ。
まぁ…こんなファンタジーチックな世界で荷物運びなど不服と言えば不服だが身体能力も乏しく、魔力に関しては皆無の俺がこのパーティーで貢献できる事の一つだ。
弱キャラのEランクフロンティアにはお似合いの仕事だな(泣)
しばらく歩き続けフィオナに案内されたのは前線浮遊都市レコードグラムの中心街の中心にあるフロンティアギルド支部に隣接されているなかなか立派な造りをした宿舎だった。
「すげぇー立派だな!」
宿舎の部屋も央都センターの宿舎より広く、ベッドのある部屋が二つに分けられていた。
やっと男女別の部屋で寝ることができる。
普通これは女性の方が心配することなのだろうが、バベリアの入り口を馬車で通過した時のように事故的なスケベ展開が起きフィオナに殺されるのはもう御免こうむりたい。
「さぁ… 今日は夕食をとって早く休もう」
フィオナも流石に深碧竜との戦闘や飛空艇の操舵で疲れが溜まっているのだろう。
俺達は4人でテーブルを囲んで飛空艇から持ってきた食料で夕食を取った。
「悠貴どうしたんだ? お前が飯って聞いてはしゃがないなんて」
「さっきから全然喋ん無いしよ…」
「なんでも無い、さっきの戦闘で疲れが溜まっているだけだ…」
悠貴はもっともらしい理由を俺に言ってきたが、さっきの仮眠を取ってから様子がおかしい。
なんか変な夢でも見たのだろうか?
「おう、そうか…」
しかし、今は疲れが溜まっているのは本当のことだろうし執拗に聞くのはよしておこう。
「そう言えば、明日から僕達はどうするんですか?」
この空気を察し、ミアが話題を変えた。
「それなんだが、明日各パーティーや軍の代表者が集い今後の方針を決定する」
「明日、私は早朝より出るが皆はゆっくり休んでいてくれ」
「じゃ俺、疲れたし寝るわ」
「ふあぁ〜 僕も早めに休ませて貰いますね」
夕食を取り終えた後、悠貴とミアは男女それぞれの寝室に行き早々と眠りについた。
気づけばリビングには俺とフィオナの二人だけが残されていた。
俺は過度な女性への畏怖心から何かフィオナの癇に障ってはいけないと思い、無心のまま魂が抜けたように一言も発さず床をぼぉーと眺めている。
その空気を耐えかねたのか、フィオナが大きな物音をたて立ち上がった。
「カゲナギすまんが、食器を洗うのを手伝ってくれ」
「了解です」
俺達は食器を持ってリビングの目の前にあった炊事場に移動した。
「うっす」
フィオナが食器を洗い俺が乾かす、その流れ作業で淡々と手を動かしている。
そしてなぜか俺はフィオナから食器を渡される度に「うっす」と頭を軽く下げて返事をしてしまうのだ。
自分でも思う、俺の体には女性への畏怖心が異常なまでに染み付いているのだと。
「明日の集いお前も来るか?」
フィオナは作業を続けたまま、唐突に俺に誘いをかけてきた。
「嫌だよ、先遣隊のリーダー達なんておっかない…」
「そのおっかない連中がわんさか集まるんだろ?」
俺は先の深碧竜との戦闘で先遣隊の皆さんの強さを間近で確認している。
彼らを魔力の無いEランクフロンティアの俺、つまり一般と比較するならば「月とスッポン」とい言葉が現実化したぐらい戦闘力に差があるのだ。
「そう言わず、見聞を広めると思って一緒に来てくれないか」
「えぇー 別に俺じゃなくて悠貴かミアと一緒に行けばいいじゃないか…」
「先遣隊の代表の中に是非、君に紹介したい人がいるんだ」
「だから一緒に来てくれ、美人お姉さんからのお願いだ」
フィオナはまじまじとこっちを見てくる。
「えぇ…まぁ行くだけならいいよ」
いや本当は行きたくはない、しかしここでフィオナの誘いに背むくのも余り得策だとは思えないのだ。
従って、俺はフィオナの誘いを受け明日の早朝にある集いに出席することにした。
「そうか、良かった良かった」
まぁ…隅の方でじっとしとけば他の先遣隊の皆さんにからまれる事も無いだろうし。
「よし!食器の片付けも済んだことだし私達も今日はもう休むとするか」
「おやすみ、カゲナギ」
フィオナは俺に寝る前の挨拶を告げ寝室へと向かっていった。
「おやすみ…」
俺はフィオナが寝室に入るのを見届けから、自らも寝室に入って休むことにした。
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