第24.5話【過去夢】
この話を読まずに25話を読んでも物語は繋がります。
悠貴の過去を知りたい人だけ見てください。
時は深碧竜との戦闘を終え、船内で陽凪以外が仮眠を取って休んでいる頃に遡る。
この時、神海磯悠貴は夢の中で過去の記憶と対峙していた。
これはまだ悠貴が高校に入学し陽凪と出会うずっと前、そう彼に初めて親友と呼べる友ができ、その友と決別するまでの記憶だ。
♢ ♢ ♢
椅子に座った時にまだ地に足がつかない、小学生に成り立ての春に神海磯悠木は彼と出会った。
小学校に入学してから1ヶ月がたったが悠貴は幼稚園や保育園に通っていなかった事もあり、周りには知らない人ばかりで特に話しかけられもせず、かと言って自分からも話しかける事も出来ないまま小学生の低学年と言う誰もが誰とでも仲良く出来る時期に一人で登下校し学校生活を送る一人ぼっちの日々が1ヶ月続いていた。
始業式の時に咲いていた桜は全て散り5月に入っても、一人で学校生活を送っていた。
そんな時、悠貴は突如誰かに肩を叩かれた感触を覚えた。
後ろを振り向いた途端一人のクラスメイトが突如として話しかけてきた。
そのクラスメイトは元気はつらつで純粋な表情を浮かべた、どこにでもいる健全な小学生だった。
「ゆうきくんだっけ?」
「うん… 君はひなぎくんだよね?」
「そうだよ、さとうひなぎ」
「で…なにかなぁー?」
「昼休みにクラスの皆でケイドロするんだけど、ゆうきくんも来ない?」
「うん」
当時の悠貴は日凪と言うクラスメイトとほとんど面識が無かったが、彼の誘いに反射的に乗ってしまった。
悠貴は幼い頃からスポーツ面では抜きん出た才能を持っており学年で一番身体能力が高かった、その為誘われた鬼ごっこでは大活躍し、日凪を中心にクラスのみんなとすぐさま打ち解ける事ができた。
「やっぱり、ゆうきくんは凄いやつだったんだ!」
「クラスのみんなと友達になってくれて嬉しい」
日凪のこの言葉を聞いた時、悠貴は初めて集団でいる事の楽しさを知った。
それに伴い悠貴の入学当初内気だった性格は次第に外交的な性格へと変わって行った。
年月は流れ、悠貴が小学1年の終わりには日凪は昼休みも一緒に遊ぶ友達に、小学2年生〜小学4年生の終わりには放課後も毎日遊ぶ友達に、その間に沢山遊び、沢山喧嘩もして、その度に仲直りして小学5、6年生になった頃には悠貴と日凪は唯一無二の親友になっていた。
そして卒業式の日を迎えた。
「いよいよ、俺達も中学生になるんだなぁ」
「そうだな…… 悠貴」
卒業証書の授与も終わり式典は無事閉会し、泣きじゃくっている女子もいたが殆ど者が晴れ晴れしい雰囲気で会話をしているのに今日の日凪のテンションはいつもとは少し違った。
「どうしたんだよ? まさか小学校と分かれるのが寂しいのか?」
「どうせ皆また中学で一緒だろ」
「違うんだ、悠貴…」
「俺はお前たちと同じ中学には行けない」
「なんでこのタイミングでそんな変な冗談言うんだよ?」
悠貴は最初、日凪の言っていることがセンスの無い冗談だと思っていた。
「違う、冗談じゃない…」
「俺は父さんの仕事の都合で東京に越すことになった…」
「多分しばらくは会えなくなる…」
次に日凪が放った声のトーンで事実である事を悟った。
「はぁ…?! でいつ東京に行くんだ?」
「明日にはもう出発する…」
「なんで、そんな大事な事を俺に言わなかったんだよ?!」
「引っ越すことはいつから分かってたんだ?」
「3ヶ月ぐらい前かな…」
「なんでそんなに前から分かってて、俺に教えてくれなかったんだ? 親友だろ?」
「悠貴には人と分かれるなんて気持ちでこの卒業式に臨んで欲しくなかったんだ」
「俺と過ごした6年間は最後まで笑って終わって欲しかった…」
「突然、明日引っ越してしばらく会えなくなるなんて言われたほうが意味分からねぇーよ」
「日凪の事はなんでも話せるし、話してくれる親友だと思っていたのに!」
悠貴はそう言って、学校を飛び出しって行った。
そして悠貴はこれ以来、佐藤日凪と会うことは無かった。
悠貴はぎくしゃくした気持ちのまま中学校へ進学し、日凪からの連絡は一切来なかった。
そして中学生になってから一回目の春休みを迎えた頃、日凪と最後に会ってから丁度1年程経った頃だった、彼が死んだのを聞いた。
俺は急いで東京へと足を運んだ。
そこで死因は自殺だと聞かされた。
田舎から都会の学校へいきなり進学した彼を襲ったのは、劣悪ないじめだった。
いじめた奴らは最初、日凪の誰とでもすぐ打ち解ける温和な性格を利用して仲間に引き入れたが暫くすると『これが都会のルールだ』と言いくるめ日凪を騙しいろいろな物を奢らせていたらしい。
その事に疑問を持った日凪は彼らにその事について問いただすと、今度は暴力を受けるようになったのだと言う。
その計画された劣悪ないじめは次第にエスカレートし、ついには日凪から何十万単位でお金を巻き上げ、暴力は彼の体を骨折させるまでに至った。
おそらく、親には心配を掛けたくないと言う彼の優しい心と相談する友もいない状況が彼を極限状態にまで追い込んだのだろう。
その事を考えると悠貴は悔いても悔やみ切れなかった。
『俺があんな別れ方をしなければ、俺がもっと頼りある親友だったら』と日凪の遺影の前で悠貴は泣きながらにして思った。
「日凪は俺を一人ぼっちから救ってくれた初めてできた大親友だったのに…… 俺は日凪が孤独だった時、苦痛を受けていた時何にも力に成れなかった… 本当に申し訳ありませんでした……………」
悠貴は日凪の両親の元へ向かい深々と土下座したまま涙混じりの謝罪の言葉を述べた。
「悠貴君… あの子はいつも喧嘩別れしてしまった君の事を気にかけていた… それ程君が大事だったんだ」
「こちらこそ、今まであの子の親友で居てくれてありがとう…」
日凪の母親は号泣したままだった、父は辛いはずなのに笑顔で悠貴に向けて言葉を発してくれた。
「いえ… これからも、ずーと、永遠に俺は佐藤日凪の親友です!」
「悠貴君… これを受け取ってくれ… あの子の引き出しの中に入っていた物だ」
「これはあの子が人生で最後に紡いだ想いだ、決して日凪をいじめた子に復讐しようなんて思わないでくれ」
「彼らは法の下で必ず裁かれる、君はこの手紙に書かれたあの子の思いを無駄にしないで欲しい」
そう言って日凪の父親は俺に一つの封筒を渡してきた。
悠貴は日凪の両親の本当の気持ちを考えると胸が張り裂けそうだった。
あいつと小学校の6年間を過ごした悠貴でさえ日凪をいじめた奴を殺したい思いで気が狂いそうなのだ、ましてやあいつと生まれた時から一緒にいる彼らの方が気が狂いそうな思いで一杯のはずなのにそれを堪えて、息子の為に弔いをしているのだ。
その後、悠貴は父親から渡された手紙を開封した。
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〜拝啓〜 神海磯悠貴様へ
悠貴はまだ俺に対して怒っているよな? あの時は本当に悪かった、ごめん。
だけどもしこの手紙を悠貴が呼んでくれているのなら、元親友の最後のお願いを聞いてくれ。
俺をいじめた奴に復讐することだけはしないでくれ。
もちろん俺はあいつらは許せない、でも悠貴がするべきことは復讐なんかじゃない。
悠貴は文武両道の秀才だろ、ならその力で悠貴がこれから出会うすべて人を俺みたいにしないで欲しい。
悠貴には孤独になっている人、なっていく人を救って欲しい、きっと誰かが悠貴の助けを待っている。
それが俺の最後のお願いだ。
悠貴が俺の分まで前向きな未来を歩めるよう願っています。
元親友の佐藤日凪より
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「バカ、今も俺はお前の親友だっつぅーの…」
悠貴はその手紙を見ながら大号泣した。
「約束する、必ず救ってみせる…」
悠貴は再び日凪の遺影を見て、彼の最後の願いを叶えると誓った。
それから悠貴は日凪の葬式に参列した後、地元に戻った。
悠貴は早速彼の願いを叶えるべく学業、スポーツ、対人関係全てにおいて誰からも頼られる人間を目指して、日々自らを鍛え抜き、日凪の分も明るく生きようと決意した。
『もう二度と悠貴の周りで孤独になって命を落とす人がいなくなるように』
これが完璧超人コミュ強イケメン陽キャ・神海磯悠木の原点だ。
その後、悠貴は高校に進学した。
そして、名前だけだかもしれないがどこか日凪に似ている陽凪の事を少しだけ気にかけるようになった。
悠貴の意識は今、真っ暗な闇の中にあった。
その暗闇の中に人型の光の集合体を目にしている。
「日凪のなのか?」
「俺は今、どれくらい日凪の願いを叶えられる人間になったかな?」
♢ ♢ ♢
「おい、悠貴起きろ」
「そろそろ目的地に着くぞ」
俺は寝ている悠貴を察すって起きるよう呼びかけていた。
「日凪、待ってくれ!」
そう言っていきなり悠貴が跳ね起きた。
「おいおいビビらすなよ、後日凪って誰だよ? 俺は陽凪だぞ」
「てかお前なんか泣いてないか?」
「ごめん、陽凪だったか…」
「悪夢でもみてたんですか?」
ミアが悠貴の目に涙が浮かんでいる、珍しい状況を見て不思議そうに質問した。
「ちょっとな…」
「それより前線浮遊都市レコードグラムにもう着くから準備しろ」
「わかった…」
気のせいだろうか、悠貴の声がいつもよりも苦しそうに聞こえた。
御一読していただき、ありがとうございました。
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