第24話【夜空の中、少女との誓い】
バベリアの空域に生息する五大飛竜種の一角でもある『深碧竜』との戦闘を終え世界樹の灯が徐々に暗くなってきて夕暮れ時を迎えようとしていた。
俺達、先遣隊は順調に中継基地のある浮遊島へ進んでいた。
先の戦闘に参加せず傍観していた俺は一人、甲板に出て空を見てい為、いち早くそこへ到着した事が分かった。
「おーい 中継基地が見えたそうだぞ」
俺は船内に行き、休んでいた三人にその事を伝えに行った。
しかし起きているのはフィオナだけで、悠貴とミアは眠っている。
「黄昏れるのは終わったのか」
フィオナが俺の方をニヤニヤした表情で向いてきた。
「別に黄昏れてたわけじゃねぇーし」
「向こうの世界の恋人の事でも考えてたのか? 青春だな…」
「俺に恋人なんて居るわけ無いだろ! 青春なんてクソ食らえ…」
「それもそうだな、君の捻くれた性格ではな」
フィオナは込み上げた笑いを押さえきれなかったのだろう、言葉が所々切れている。
「うるせぇー 俺の恋人は画面の中だ…」
「フッ 何を言ってるんだ君は?」
「君は絵が恋人なのか フッフッフ」
こちらの世界の人からすれば画面とは絵の表面って事になるのか。
それにしても笑い過ぎだろ、こいつ俺より強いフロンティアじゃなかったらどうしてくれようか。
「それで何を伝えに来たんだっけ?」
「あぁ…だから中継基地が見えたって」
「あぁ…そうだったな」
「じゃあ、操舵室に行くとするか」
「二人はまだ寝てるようだ、もうちょっと休ませてやれ」
俺はフィオナに連れられ、船体の下部にある一室に入った。
部屋の側面はガラス張りで作られており、部屋の中心には石造りの台の上に紫色の球体が浮かんでいた。
「この怪しい光を放つ球体はなんだ?」
「これは操舵球と呼ばれるこの飛空艇の原動力になっているんだ」
「この飛空艇も力属性の魔法の応用で浮かぶことが出来ている」
「基本的な操舵は自動でしてくれるが細かい操舵は手動でやらなければならない」
「先遣隊全隊に告ぐ、縦一列の密集陣形を作り順に上陸せよ」
いつものように魔法で覚醒された声で指示が聞こえてきた。
「とりあえずここまで来れたな…」
「約上空2700メートルに築かれた『前線浮遊都市レコードグラム』」
ガラス越しに俺の視界に入ってきたのは規模は小さいものの央都センターのように白色の城壁と空中に浮かぶクリスタルによって放たれる青白い光によって包まれた円形の都市だった。
「央都センターみたいだな」
「ここは数百年前より人類が徐々に築いてきた、浮遊島の上にある唯一の拠点」
「君が言った通り央都センターを模した都市構造になっていて、ここを『もう一つの小央都』と呼ぶ者もいる」
そう言ってフィオナは部屋の中央に浮かんでいる紫色の球体に手をかざした。
「何をするんだ?」
「私の魔力を与えて、細かい操舵を行っているんだよ」
「てことは…魔力の無い俺には操舵不可能って事か?」
「まぁ…… そうなるな」
「安心しろ、魔力を持っているのなんて全人類の約20%だ…気にするな」
「でも…フロンティアで魔力持ってない奴なんているのか?」
「それはあれだ、まぁ… 君が新しいフロンティアの在り方を創っていけばいいんじゃないか…」
先程からのフィオナの言動からは俺に対する哀れみ、同情の念が感じられる。
「お、おう…」
なんかとても気まずい雰囲気になってしまった。
いっその事、さっき黄昏れていた時みたいにからかってくれた方が幾らかましだ。
俺が本当になんの才能を無くて悲しい人みたいじゃないか、俺だって頑張ってフロンティアランクをFからEに上げたんだぞ。
なんか、魔力が無いとEより上のランクには行けないケースが殆どらしいがな。
「私は今から操舵に集中するから話しかけないでくれ」
「カゲナギは甲板に出て風でも浴びてきたらどうだ?」
「お、おう…」
俺はいつものように猫背で下を向いて返事をした。
その後、俺はフィオナに言われたと通り甲板に出て風を浴びることにした。
世界樹の光は消えかけており、バベリア内も夜を迎えようとしている。
「はぁ… 俺も魔法使いてぇーなぁ…」
俺はあぐらをかいて座り、腰にぶら下げていた透き通った青色の光をほのかに放つ魔剣を手に持って見つめたいた。
「俺の唯一の望みはバッカスさんが鍛え上げたお前だけだぜ」
俺は剣に向かってしみじみと語りかけた。
「何してるんですか? カゲナギ」
誰もいないはずの甲板なのに、俺の耳には少女の声が聞こえた。
「ミア… 起きてたのか」
ミアは俺の方に歩み寄ると静かに横に座った。
「一人で考え事してたんですか? フィオナさんにまたからかわれますよ」
横を見てみると、ミアは口を手で押さえながらクスクスと笑っていた。
少女の汚れのない水色の髪が俺の魔剣の放つ光でより一層美しく透き通った色にしていたる。
「聞いてたのかよ、寝てるかと思ったよ」
「カゲナギには彼女とかいないんですね…」
「当たり前だろ、俺は誰にも甘えない、もちろん女性にも甘えたりしない」
「いやただモテないだけじゃ…」
「うるせぇ、いいから俺の話を最後まで聞け」
「俺がこんな弱キャラでも最前線に来れてる強靭なメンタルを持っているのは、リアリストなのと孤独だったからだって思ってた」
「元いた世界ではどんな時だって、どんな事だって、全て自分一人で乗り切ってたからな」
「カゲナギも孤独だったんですね」
「僕も孤児だったので両親もおらず誰からも真剣な愛を向けらた事は無かった…」
「頑張ってフロンティアになっても少しでも汚点があれば、それを疎まれてパーティーを追い出されて…」
ミアの声は次第に小さくなっていった。
「でもな、実は悠貴がな…」
俺はミアと出会う前、バベリアに来る道中、平原の旅路で悠貴に言われた事を全て話した。
「ユウキが頭を下げてまでカゲナギを孤独にしたく無かったんですね…」
「悠貴だけじゃない、フィオナも、それにミアだって今までの旅路の中で俺の捻くれた性格に向き合ってくれた」
「お前ら3人と一緒に旅できたから俺はここまで来れた、孤独じゃない事の強さを知れた」
「だから今は孤独故の強いメンタルじゃ無くて、3人と一緒に旅を続けたいって思いが弱キャラの俺をこの地まで運んでくれたと思っている」
「捻くれ者のカゲナギでもたまにはいい事言えるんですね」
俺は横目で笑顔のまま少し目が潤んでるミアを目にしていた。
「ミアだって今は孤独なんかじゃないだろ?」
「はい、僕は皆さんと出会えてとても幸せ者です!」
そう言うとミアは横に倒れ俺の膝の上に頭を置いた。
「ちょっと、いきなり何してるんだよ?」
「いいじゃないですか、今だけはこうさせてください」
「まぁ… 誰も見てないしちょっとだけな」
俺がそう言うとミアは俺の膝に乗ったまま仰向けになった。
俺とミアは互いに顔を合わせる状況になってしまった。
もしかしたら女性耐性Fランクの俺は少しだけ頬を赤くしていたのかもしれない。
落ち着け俺、相手は女とは言え幼女、ロリ、ボクっ娘。
いやボクっ娘は逆に照れポイントになっちゃうか。
今はそんな事はどうでもいい、とにかく落ち着くんだ小野田陽凪。
「カゲナギ、僕実は…」
「ん…?」
何なんだこのラブコメ展開は! それに相手はロリ。
待て待て俺はロリコンでは無いのだ、落ち着け、落ち着け…
この手の展開は何度もアニメや漫画で見てきたのだ、ここで勘違いしては俺のリアリストとしての名前が泣くぜ。
「なんでもありません…」
そう言うとミアは仰向けの体勢を止め体を横に向けた。
「なんだよ… 最後まで言えよロリ」
せっかく女子が膝の上に乗っている、女性耐性Fランクの俺からしたら極限状態で耐え抜いてきたのにもったいぶるなよ。
でも顔を合わせなくてよくなったのは助かる。
あのままではロリ相手だろうが俺の理性が…
「今ロリって言いましたか、私これでも13歳ですよ」
「カゲナギと4歳しか変わりませんよ!」
「俺の元いた世界では十分ロリだ、中学1年ぐらいだろうしな」
「ちゅーがくいちねん…?」
「あぁー気にするな、別に知らんでいい話だ」
「そうですか」
「この続きはこの大探索クエストから無事終わったら言うかもですね…」
「だから僕が死なないように必死に守ってくださいね、後衛の僕より後ろにいる弱キャラさん」
「あぁーそうですよ、俺は弱キャラだ」
「だけど弱キャラは弱キャラらしく捻くれた手段で一人の少女ぐらい守ってやるよ!」
俺の口からはいつの間にか、性にも合わない言葉が出ていた。
「誓ってくださいね」
ミアは状態を起こし俺の目の前に座ると、腕を握りしめて前に出してきた。
「おう、捻くれ者小野田陽凪の名に誓って約束する」
「なんですか、その信憑性の低そうな誓いわ」
俺とミアは互いに顔を合わせて笑った、それも幼い子どもの様に無邪気に。
「さぁ、船内に戻りましょう」
「そうだな」
ミアは軽快な足取りで俺より速く船内へと戻っていった。
「どうせカゲナギは『俺は難聴系主人公じゃないんだ』とかよくわからない事言うんでしょうね」
「だから聞かれない場所で言います、『カゲナギあなたの捻くれてるのにたまにカッコイイとこ僕は好きですよ』」
ガチャ
「うわぁぁーーー」
「扉の横に突っ立て何してるんだ」
「早く悠貴起こすぞ」
「あぁぁ…ごめんなさい」
船内にはあたふたしたミアの可愛らしい声が響き渡った。
御一読していただき、ありがとうございました。
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