第20話【最前線への決意】
「聞いての通り大探索の命令がギルドに下された、こちらから呼んでおいてフィオナちゃん達にはすまんが儂はこれから忙しくなる…」
「おそらく、先遣隊を出すことになると思うが…」
ギルドマスターは慌てた様子で執務室から出ていく間際に、いかにもと言う感じでフィオナの方を向いて言葉を発した。
「………私達も先遣隊に参加する」
フィオナは少し何かに躊躇った様子を見せてたが、最終的にはギルドマスターに思惑に乗るように返事をした。
「なら、昔フィオナちゃんの師匠が使っていたあの飛空艇に乗っていけ」
「すでに整備は済ませてある、いつでも飛べるはずじゃ」
そう言って、ギルドマスターはドアを勢いよく閉めて、部屋を後にしていった。
「ありがとうございます、ギルマス」
フィオナは扉の方に向かって深々と一礼をしていた。
「で、俺達はこれからどうするんだ?」
ギルドマスター執務室なのに、ギルドマスターのいないこの部屋に俺達が取り残されてるのに違和感を感じた俺はとっさに呟いた。
「暫くすれば、ギルドが正式に大探索クエストを発注するだろう」
「これからはそれに向けて準備をする」
「了解だ」
フィオナの方針を聞いて悠貴がすぐさま返事を返す。
それに続くように俺とミアも同時に頷いた。
「君達… これから向かうのは人類が踏破したことの無い島だ、しかもつい勢いでその先遣隊に参加すると言ってしまった…」
「カゲナギとユウキはフロンティアに成るのは疎かこの世界に来て間もない、それにミアはまだ可能性に満ちた幼い命だ…」
「そんな3人を人類でもっと危険な場所に行かせる事になってしまう、本当にすまない…」
フィオナはいつもの自信に満ちた高潔な面持ちではなく、少し自信が無さそうな冷めきった面持ちで謝罪の言葉を述べてきた。
「何言ってるんですか? 私の憧れのフィオナさんと一緒に歴史を塗り替える探索に行けるんですよ!」
「どこまでだってお供しますよ!」
「ミア…」
「何今更言ってるんだよ…」
「モンゼンで出会った時、それを承知の上でフィオナの師匠捜しを手伝うって決めたんだぜ」
「それにフィオナみたいな美しい女の子をそんな危険な場所に一人で行かせるわけには行かないだろ」
なんてくさいセリフなんだ、本当にラノベの主人公みたいなセリフをなんの恥ずかしげも無く言うやつがいようとは…
だがそれを言っても様になってるのが、神海磯悠貴っていう人間だ。
「ユウキ…」
「俺なんてせっかく憧れの異世界に来たのに理不尽なことばっかで、この世界で最も危険な人類の最前線に行くことぐらい何とも思ってねぇーよ」
「そんな俺に訪れた参加するだけで人類の歴史を塗り替えるメンバーになれるチャンスを棒に振るうわけ無いだろう」
「それにフィオナとユウキの力があれば俺を守れるんだろ?!」
何を言っているんだろう俺は…
なんで俺もラノベ主人公のような事を言ってるんだろうか?
この世界で最も危険な場所なんて本当は絶対に行きたくない、でもこの世界の中心たるこの巨城に入る前フィオナは俺のことを仲間にすると認めた男と言ってくれたのだ。
いくら女性耐性Fランクの俺でも、この言葉には流石にグッグッと心にこみ上げてくる感情があった。
フィオナが認めてくれたのなら、せめて建前だけでもフィオナにそぐうセリフを言う義務があるはずだ。
「フッフッフッ…やっぱりカゲナギは他力本願じゃないか?」
俺に皮肉った発言をしながら、フィオナの表情は幸せそうな笑みで満ちていた。
「うるせぇ… 実際、実力カスなんだから仕方ないだろ」
「みんな、本当にありがとう…」
「とても険しい旅路に成ると思うが、私はどうしてももう一度師匠にあって確かめたいことがあるんだ」
「必ず、『蒼天大瀑布』をこの4人で踏破しよう」
フィオナの表情はさっきのように冷めっきておらず、いつもの自信満ち足りた顔に戻っていた。
「ちょっと待ってくれ、さっきからずっと言ってる『大探索の命令』とか『蒼天大瀑布』って何なんだよ?」
「カゲナギ、今のいい流れを壊さないでください」
ミアは呆れた顔で俺の方にチラチラと目線を向けた。
「仕方ないだろ、俺達はこの世界に来たばかりなんだぜ…」
「このまま、わけも分からずに話に乗るのは逆に失礼だろ」
「そうだったな、カゲナギとユウキはそこからだったな」
「まずは『大探索の命令』これは世界連盟がフロンティアギルドに対して出す探索命令で、フロンティアギルドに世界連盟が命令した場所と日時で大型クエスト発注させることが出来る」
「ちなみにこの場所と日時などのクエスト内容の全て決定権は世界連盟の最高意思決定機関にあたる『七星樹』が保持している」
「次に『蒼天大瀑布』だが…」
「これは私から說明します」
フィオナが說明しようとすると、ミアが颯爽とその役目を奪い去っていった。
「バベリア内の上空4000メートルに浮かぶ島『蒼天大瀑布』、そこは人類が辿り着いた最も最果ての島、つまり人類の最前線ってことです」
「3年前に行われた大探索で伝説のフロンティア シノザクラ・サヤの率いるパーティーを筆頭に世界に名を轟かせるフロンティアが当時の人類の最前線だった『雲海大渓谷』を踏破し、次に辿り着いた島こそが『蒼天大瀑布』です」
「しかしながら、『蒼天大瀑布』に巣食う九つの頭を持つ魔物『ハイドラ』の圧倒的な強さに誰も太刀打ち出来ず、そこで探索は止まり人類の最前線はその島から一歩も前に進めていません」
「ミア、その説明に少し誤りがある… 確かに戦える者は皆疲弊し、物資を底を尽きようとしていた為探索はあそこで止まり撤退を余儀なくされた」
「しかし、師匠だけはあの魔物と互角、いやそれ以上に渡り合えていた」
「そんな中、師匠は『私はこの島の先に進まなければ行けない理由がある』と言って、ただ一人あの島に残ったんだ」
「だから、突如シノザクラ・サヤが失踪したという情報が流れていたんですね」
「あぁ…この事実を知る者は、あの探索に参加していたフロンティアだけだからな」
「だから、フィオナは師匠が人類の最前線付近にいると言っていたのか」
悠貴はフィオナとミアの説明を聞いて、大分納得した感じで小刻みに何度も頷いていた。
「『大探索の命令』と『蒼天大瀑布』については理解したありがとう」
「じゃそろそろ、この部屋出ようぜ」
「そうだな、まったく執務室に呼んでおいた側だけ残すなんてギルマスは情報管理がゆるすぎだ」
フィオナは呆れた声を発しながら、ギルドマスターの机を眺めていた。
俺達はその後、世界連盟を有する巨城を後にし、フロンティアギルドから発注されるであろう大探索クエストを待ちながら、それに向けた身支度を十分に整える方針を決定した。
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