第18話【世界の中心へ】
ガタン、ガタン
「何だって、こんな昼間から馬車に乗らされなければならないんだよ…」
俺の身体は今、とても激しい眠気に襲われている。
「カゲナギ、愚図愚図言うな」
「仕方ないだろう、ギルド本部からお呼び出しが掛かったんだ」
「そうだぜ、もうここまで来たんだぞ」
「なんで二人揃ってそんなに元気なんだよ…」
「ミアだって、フィオナにもたれかかって幸せそうに寝てるじゃないか…」
今日の昼前、突然ギルド本部の使者が俺達が泊まっていた宿舎を訪れてきた。
そして緊急の呼び出しだとか言って、その使者は迎えの馬車まで用意していた。
俺は長く険しい央都への旅路と、昨日夜遅くまで続いた女の熾烈な口論に巻き込まれそうになりながらもそれらを乗り越えて、やっとフカフカのベッドで快眠できると思っていた。
なんなら、次の日の夕方まで寝てやろうと思っていたのだ。
それなのに… こんな昼間に起こされるなんて…
ほんの2ヶ月程前までゲーマーだった、小野田陽凪にとって日中に活動することは本来の生活スタイルでは無いのだ。
まぁ…この状況を日本の政治家の言葉を借りて表すとすれば、大変遺憾でありますだ。
「どのみち、近い内にギルド本部には行かなければならなかったんだ」
「昨日、店から出る時にスカーレット様がそんな事言ってたな」
「それと昨日から気になっていたんだけど、七星樹ってのは何なんだ?」
悠貴は本当に疲れを知らない超人なのだろうか、明朗快活にフィオナに話しかけていた。
「それは俺も気になってた」
セブンズオーダーなんてSFゲームのラスボス組織のような名前してるのに、このゲーマーの俺が気にならないわけがない。
「そうだったな、君達は七星樹についても知らなかったんだな」
「前にも話したことがあるかもしれないが、ここバベリアは『創世の巨塔』と呼ばれる巨大な塔だ」
「この巨塔はその名の通り人類の時代や歴史を創っているんだ」
「ここにまだ未開の地が数多く存在する、そこには新たな財宝や資源、生命などは人類の文明のあり方を大きく変えてしまうモノが多く眠っている」
「そんなモノが眠る、このバベリアを世界中の国々がほっとくわけないだろ、それじゃどうなると思う?」
「各国の軍や猛者たちが死にものぐるいで、それを奪取しに来る…」
俺はフィオナの問に対して、思うがままに答えた。
「その通りだ、カゲナギ」
「流石、知力だけはユウキに近い能力値を持っているだけあるな」
フィオナが珍しく俺を褒めた。
まぁ知力に関しては運動能力が雑魚い俺がこの世界で誇れる数少ない代物だろう
「そこで無秩序だったバベリアを統制しようと、世界に名を轟かせている七大国が結束して作られた組織、それが七星樹だ」
「その後、七大国以外にも世界中のあらゆる国々が参加して出来た組織それが世界連盟となった」
「なんかスケールがでかいな」
悠貴はフィオナの説明を聞きながら、頷いて感嘆の声を上げていた。
「それで、その七星樹とか世界連盟は具体的に何をしているんだ?」
「世界連盟がしていることは3つある」
「これは央都センターに着いた時に少し話したが、1つ目はバベリアとその周辺の地域は完全中立地帯であるという条約を世界連盟に加盟する全ての国々に結ばさせること」
「2つ目はフロンティアという職業を作り、フロンティアギルドを運営することでバベリアの探索をより促進させること」
「3つ目は央都センターの防衛軍の管理だ」
「そして、そんな世界連盟の最高意思決定機関にあたるのが七星樹なんだ」
「でも何で、スカーレット様は七星樹の内情を知っているような事を昨日言ってたんだ?」
「世界連盟に加盟している国々はバベリアに特使を送り、その特使達が実質世界連盟を運営しているんだ」
「あの爆殺女の姉、帝国の第1皇女はルーペスト帝国の特使なんだ」
「もちろんルーペスト帝国は七大国の一つに数えられている、つまりあの爆殺女の姉は七星樹の一人なんだ」
「なるほどな、スカーレット様も凄いけど、お姉さんもそんなすごい人なのかよ…」
この世界的な事実を知って、俺は背筋が凍るような思いになった。
「世界連盟と七星樹に関する説明はこんなものだ」
「今からそんな凄い所に行くんだな…」
悠貴にしては珍しく、発する声からはあまり堂々とした雰囲気が感じられなかった。
それも無理はないだろう、俺達が元いた世界の国連に値する場所に、今からただの高校生が足を踏み入れるのだ。
いくら悠貴さんと言えども、もとは一介の高校生に過ぎないかった。
「皆様、もうすぐ世界連盟に着きます」
御者台で馬を操作していた、ギルド本部の使者は車内にいた俺達に一言声をかけた。
「ミア、もうすぐ到着するぞ」
フィオナは彼女に寄りかかっていた、ミアの身体をそっと起こした。
「うっんー、おはようございます皆さん」
なんだよ今の起きる時の目をこする仕草、可愛い…
それはさて置き、馬車の外に顔を出して前方を見てみると、この光匂う都の中でも一際目立つ真っ白い巨城が堂々とした風格と人類の文明の美しさを物語るかのようにそびえ立っていた。
その姿はまさに世界の中心と呼ぶにふさわしい場所のように感じられる。
「俺やっぱり、帰っていいか?」
俺は世界連盟を有する巨城に近づくに連れて、自分の場違い感を悟り思わず本音の言葉が漏れ出てしまった。
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