第17話【2人目の戦姫】
「うるさい、爆殺女!」
「何が爆殺女よ! フィオナこそ『衛星の戦姫』とか言われてるけど、実際はアイドルもどきじゃないの?」
「私も好きで『衛星の戦姫』と呼ばれているわけではない」
「また男を連れてご飯なんて食べに来ちゃって…」
「さっさと爆ぜろ!」
「勘違いするな、ユウキは私のパーティーメンバーだ」
「それに今までだって私が男とご飯に行ったことなんてない!」
「3年前もよくこの店に、お前目当ての男どもがわんさか来てたじゃないのよ!」
「あれはこの店が私の行きつけの店だとバレて、勝手に私のファンと名乗る連中が来ていただけだ」
「なんだ… スカーレットはあまりにもモテなさすぎて私に嫉妬したのか?」
「なんですって!」
この口喧嘩は一体いつになったら収まるのだろうか。
もうかれこれ小一時間程が経つが、彼女らの論争は止むことを知らない。
俺達は何度も仲裁に入ろうと試みたがそれは叶わず、挙句の果てに彼女らの『私達どっちが正しい論争』に俺が巻き込まれる始末だった。
女性耐性Fランクの俺に対してのあのプレッシャーは凄まじすぎた、そこに悠貴が助け舟を出してくれたおかげで俺はどうにか難を逃れ、こちらの席で落ち着いてアリアさんの作ってくれた食事を食べることが出来ている状況だ。
「あの二人、昔からあんな感じなのよ…」
アリアさんはため息を深くついていた。
「特にお酒が入っちゃうと余計に論争が激化しちゃって」
「私からすればどっちも可愛い娘みたなものだから、仲良くして欲しいのだけどね…」
アリアさんの母性本能溢れる優しさから沸き立つ、その母親心お察しします。
「そう言えば僕、スカーレットって名前どこかで聞いたような気がするんですよね」
「それにフィオナさんと口喧嘩できるような人ですしねぇー」
ミアは顎に手をかざし深く考え込んでいた。
「確かにフィオナにあそこまで言えるって何者なんだろうな」
悠貴も興味深そうにフィオナとスカーレットの方を見ていた。
「あぁ! 思い出しました!」
ミアは無邪気な子供の声で思い出したと言わんばかりの声を上げた。
「ルーペスト=フィア=スカーレット様、バベリアの南方に位置する大国『ルーペスト帝国』の第2皇女にして皇室史上類を見ない戦闘の天才と呼ばれるSランクフロンティア、二つ名は『烈爆の戦姫』」
「フィオナさんとスカーレット様を入れて『戦姫』の二つ名を持つフロンティアはこの世界にわずかに4人だけ」
「戦姫の二つ名を持つ条件は武力、地位、そして美貌、その全てが世間から認められた女性のみで、世界中の女性の憧れなんです」
「なるほど、だからあんなに気が強そうなのか…」
俺はスカーレット? いやスカーレット様の方がいいな…
俺はスカーレット様が帝国の第2皇女、そしてフィオナと同じSランクフロンティアだと知って、何があっても媚びへつらおうと決めた。
あの皇女様を怒らせたら、立場的にも武力的にも俺に勝てる要素なんて微塵もない。
俺みたいなフロンティアの端くれはイチコロで殺られる…
というか、アリアさんも大国の皇女様を娘扱いしている時点でなかなか肝が座っていらっしゃる。
「でもまさかフィオナさんと繋がりがあったなんて驚きですね」
「あの二人、あぁ見えても同じパーティーだった時期があったのよ」
アリアさんの発した言葉に俺達は驚愕した。
「経緯は詳しくは知らないけど、スカーレットちゃんは一時期だけ、フィオナちゃんの師匠シノザクラ・サヤちゃんの所に弟子入りしててね」
「二人とも、探索から帰還した時はいつもサヤちゃんに連れられて、ここに来ていたわ」
「帰ってくる度に二人ともお互いの愚痴を言ってたけど、あの時はまだ幼くて可愛げがあったんだけどね…」
「でも今はライバルみたいな感じで、それはそれで可愛いと思うわ」
アリアさんは懐かしむような顔で二人を見ている。
もうここまで来るとこの人の溢れんばかりの母性が尊く感じられてしまう。
今はお酒を入っているせいか口論が激化して、可愛げなんて微塵も感じない。
むしろ怖い。
「おい、3人とも帰るぞ」
フィオナは口論していた席を離れ、かなり呆れ気味の声で俺達の席へと足を運んだ。
「あんな爆殺女と話していても埒が明かない」
そう言ったフィオナの後姿を見て、スカーレット様は野生動物が威嚇するような鋭い表情で席に座っていた。
「騒いじゃってごめんなさいアリアさん、また来ますね」
「いいのよフィオナちゃん、また皆でいつでも帰っていらっしゃい」
フィオナが謝罪の言葉を述べると、アリアさんはぜんぜん気にしていない様子でニコッと笑い、こちらに手を振った。
「あぁー…フィオナ…」
スカーレット様は俺達が店をでる直前、フィオナを呼び止めた。
「なんだ?」
「あなた、今日央都に来たばかりなら、近いうちにフロンティアギルド本部に行きなさい」
「近々、『七星樹』の連中がギルドに大探索の命令を出させようとする動きがあるって、お姉様が言ってたわ…」
「そうか、またな」
フィオナはスカーレット様に囁くような声で別れの言葉を告げ、俺達と共に店を後にした。
七星樹とは何なんだろう、俺はふと疑問に思ったが今はフィオナも疲れていそうだし、聞かないことにした。
「すまないな、三人とも私の口喧嘩のせいで待たせてしまって」
「別にいいよ、なんだかんだ言って俺達はあの店でくつろげたし」
「僕はフィオナさんの行くところならどこでもお供します!」
「まったくだぜ、あぁー早く寝たい…」
あれ、なんか俺だけ場違いな事言ってないか…
「ぶれないやつだな、カゲナギは」
フィオナのその言葉と同時に俺は3人から冷たい視線を向けられる。
こういう流れの時には『別に気にしてないぜ発言』をするのがテンプレパターンなのだろうが俺には関係ない、俺は謝られている側なのだ、思ったことを正直に言う権利があるはずだ、俺に物語のようなお約束は通用しない!
あぁ………雰囲気壊してごめんなさい…
そんなくだらないやり取りをしている内に俺達は繁華街を抜け、白縹に染まった都市の夜道を進み宿舎へと帰還した。
その後、俺達は宿舎の1階にある大浴場で入浴をすませ部屋へと戻った。
ちなみに異世界であろうとお風呂は男女別である。
「あぁーやっと寝れる」
「フィオナ達、さきに戻ってたのか」
悠貴の風呂上がりに放つ声は心なしかいつもよりクールに聞こえる。
「てかなんで、この宿舎も男女同じ部屋なんだよ」
「普通、ひとパーティーで一部屋が原則だ」
「こういう時こそフィオナさんの特権を使ってくれよ、てかフィオナ達は嫌じゃないのか?」
「何を今更言ってるんだ、もう何日も君達と寝泊まりを繰り返している仲じゃないか」
「それにフロンティアが一度探索に出たら、そんな贅沢は言えないぞ」
フィオナの隣にいたミアもコクコクと頷いている。
「そうですか、じゃ俺寝るわ、おやすみ」
俺はそう言って、部屋に備え付けられていたベッドにバタリと倒れ込んだ。
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