第10話【央都への旅路 修行①】
「すげぇーーーー!」
門を抜け塔内に入ると、俺達の脳裏に特に焼き付いた光景が一つだけあった。
それは塔内の中央に立っていて、光源を放つ木のような物だった。
「フィオナあれは何だ?」
俺はその物体を見て、その正体がどうしても気になりとっさに質問した。
「あれは『世界樹』と呼ばれている大樹だ」
「あの木の幹は自ら光を放つ光源になっており、塔外の太陽とシンクロしているため、バベリアにも外の世界と同じ時間帯で朝、昼、夜が訪れるというわけだ」
「つまりバベリアにおける太陽で、この塔内の生態系の源とも言われている」
フィオナも御者台の方へ近づき世界樹を見ながら質問に答えた。
現実世界でも耳にタコが出来る程聞いたことがある名前、世界樹。
RPGゲームなどの世界では決まって登場する物語の根幹に関わる代物だ。
まさに異世界ファンタジーという感じだな。
「あの木ってどこまで伸びてるんだ?」
「さぁーな、私もわからんが少なくともバベリアの果てまで伸びてるんじゃないか」
フィオナは世界樹を見上げながら、何かに思いを馳せるような表情になっていた。
「おい陽凪、雲の隙間から何か見えるぞ」
隣にいた悠貴が子供が初めてカブトムシを発見したような声を出していた。
「岩、いや島か?」
「あれは浮遊島だ、バベリアの上空はいくつもの浮遊島が存在すると言われている」
「私達が今から目指す人類の最高到達地点は上空約4000メートルにある浮遊島だ」
「まじかよ……富士山より高いじゃねーかよ」
上空4000メートルなど馬鹿げているにも程がある、そんな所で冒険なんてしていたら、俺みたいなモヤシは高山病になってリタイアするのがおちだ。
「フジサンサンとはなんだ?」
「あっちの世界にあった我が国、最高高度の山だ」
「てか、そんな高さで高山病にならないのかよ?」
「あぁー、その心配はいらないバベリアでは世界樹の影響でどの高度でも、地上と変わらない環境が作り出されている」
そんなこんなで俺達はフィオナから目に前に広がる景色で疑問に思った事についていろいろと説明をしてもらっている内に時間が過ぎていった。
「フロンティアの皆さん着きましたぜ」
俺達を乗せた馬車を含めた計7台の馬車はある一つの村へと止まった。
どうやら馬車で送れるのはここまでらしい。
俺達はここまで運んでくれた御者の親父と別パーティの人々に別れを告げ、馬車から降りた。
「で、俺達はこれからどうすんの?」
「私達はあの世界樹の根本にして、フロンティアギルド本部がある『央都センター』へ向かう」
「その前に腹ごしらえしないか?」
悠貴は腹を抑えながら俺達に訴えかけてきた。
その後、俺達は村の中にある小さな食事処へ入った。
「なんで央都センターへ向かうんだ?」
「さっき見えた浮遊島に行くには、飛空艇が必要だ」
「このバベリア内最大の都市である央都センターに行けばそれがある」
どうやらこのバベリアでは飛空艇は必須アイテムらしい。
空の旅なんて、ますますファンタジー感が増して胸が弾むじゃねーか。
「そのセンターまではどのくらい掛かるんだ?」
俺の隣に座っていた悠貴が頬を膨らませながら話しかけてきた。
余程食事が好きなのだろう、悠貴は食べ物を前にするといつもの完璧超人感が失われてしまう。
「徒歩で50日だ」
「えぇ、」
フィオナの答えは想像を絶する物だった為に、思わず驚きの声が飛び出してしまった。
「いや、待て50日も掛かるのか?なんで徒歩なんだ?」
流石の悠貴も徒歩という言葉には驚いたのだろう、食事を中断してまで質問をしていた。
「カゲナギの弱さは論外だし、ユウキもステータスは高いが二人とも練度が0だろ」
「お前らは戦い方をまだ一切知らない、そんなんでいきなり最前線に出たら間違えなく死ぬ」
「よって君達には修行がてら徒歩で央都センターを目指してもらう」
おいおい、俺達をパーティーに誘った時とは全然言ってること違うじゃんかよこの人。
「道中にモンスターとかいるのか?」
俺はこの質問に対する答えは大体予想はついていたが一応質問をしてみた。
「無論だ、モンスターがいなければ修行にならないだろ」
フィオナはいったて真面目な顔で返答してきた。
「ごちそうさまでした」
俺達は店の店主にお礼を言って店を後にした。
「腹ごしらえも済んだ事だし、央都センターに向け出発だー!」
フィオナはとてもテンション高めの声で俺と悠貴を鼓舞した。
「お、おうー」
そんなフィオナとは裏腹に俺達は弱々しく拳を突き上げた。
こうして俺達の央都センターへ向かう旅路が始まったのである。
♢ ♢ ♢
今日は俺達があの小さな村を出てから5日目が経過した日だ。
俺達は今、『ジュナの大森林』と言われている場所にいた。
「ユウキ、そっちにハイゴブリンが3体行ったぞ」
「カゲナギ、早くドロップアイテムを回収して援護に回れ」
フィオナは少し高い崖から俺地に指示を出していた。
この旅路では、できるだけ俺達に戦闘経験を積ませる為、フィオナ自身は基本戦闘に参加しないようだ。
つまり道中の敵は全て俺と悠貴で討伐しなければならないだ。
「おらぁー!」
悠貴は向かってきたゴブリンを華麗にかわし、自慢の愛刀で次々と切り倒していく。
対して俺は戦闘能力皆無の為、サポーターとして悠貴が倒した敵のドロップ品を回収をしていた。
「ユウキ、カゲナギ、さらに向こうから、ハイゴブリンの群れが来ているぞ」
フィオナの指示を聞いた俺達は辺りを確認すると、10体以上のハイゴブリンの群れがこちらに迫ってきている。
「カゲナギ、魔剣を使え」
俺は予めフィオナの魔力を溜め込んでおいた魔剣を鞘から取り出し、ハイゴブリンの群れの方へ突き立てた。
「くらえぇー!」
俺は掛け声と共に魔剣を起動した。
すると前方にいたハイゴブリンの群れは氷漬けされた。
「討伐完了だな」
俺はハイゴブリンの群れが氷漬けされたのを見て、魔剣を鞘へと納めた。
「陽凪、どけ!」
ハイゴブリンの雑兵が俺に斬りかかろうとしているのに気づいた悠貴はとっさんに俺を押し出し、自身の愛刀でハイゴブリンの刀を弾き返し、斬りかかった。
「ありがとうございました、悠貴大先生」
尻餅をつきながら、命の恩人にお礼を言った。
それから俺達はハイゴブリンのドロップ品を回収して、フィオナのもとへ戻った。
「カゲナギ、油断しすぎだ」
「お前は魔剣の力を1割も使いこなせていない、さっきだってハイゴブリンの群れを全員氷漬けしていれば、雑兵に襲われることもなかったんだぞ」
フィオナは頬を膨らませ、俺の顔をまじまじと見てくる。
「ごめんってば」
女性にこんなにまじまじと顔を見られると、女性耐性Fランクの俺は思考が停止してしまう。
早く、この状況から抜け出さなければ。
「フィオナ、まぁ二人共無事なんだし許してやれよ」
悠貴ナイスアシストだ。
「分かった、今日はもう遅いしここで野宿だ」
「二人共準備にしてくれ、私は今晩のメインディッシュを獲ってくる」
そう言ってフィオナは森の奥へと入って行った。
御一読していただき、ありがとうございました。
よろしければブックマーク登録、評価をお願い致します。




