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Beyond the front line 〜弱キャラよ人類の最前線を超えろ〜〈プロト版〉  作者: トワイライトGoodman
第1章 異世界来訪編
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第8話【平原の旅路 ②】

 

「おい、陽凪(かげなぎ)起きろ」

「またフィオナに叱られるぞ」

 昼寝から覚めた、俺が最初に耳にしたのは悠貴の声だった。


「あぁーおはよう悠貴(ゆうき)さん」

 俺は横になっていた体を起こし、軽く背伸びをした。


「てことで、おやすみ悠貴さん」


「ふざけるな、二度寝は許さん」

 そう言って悠貴は拳をグーにして俺の頭をぶった。


「いてぇーな、わかったよ起きればいいんだろ」

 起きて辺りを見渡すと馬車の中には悠貴と俺以外、誰もいなかった。


「フィオナ達はどこに行ったんだ?」


「外を見てみろ」


 俺は言われた通りに馬車の中から外の様子を伺うと、外は既に太陽が落ちかけようとしていた。


「今日はもう日が暮れるから、ここで夜営をするんだとよ」

「それで、他のみんなはその準備をしてる」


「じゃ、俺達もいくかー」

 俺はあくびをし面倒くさそうな雰囲気を漂わせながら、馬車から降りた。


「遅いぞ、カゲナギ」

 馬車から降りると、すぐそこに(まき)を抱えたフィオナが立っていた。


「余りにも気持ち良さそうに寝ていたからしばらく放置してやったが」

「お前の寝起きの悪さも考えものだなぁ」


 まぁこれは前にも言ったことなのだが仕方が無いことなのだ。

 ゲーマーとはそのほとんどが夜行性動物に位置づけられ、陽凪自身にもその生活習慣が身に染みているのだ。

 俺達ゲーマーは朝起きてテレビをつけたら「バイキ○グ」が始まってる事は日常茶飯事だし、学校で5時間目に寝てしまったらいつの間にか下校時刻になっている事もある。


「ごめんなさい、善処します」

 だがここは、穏便に済ませる為に丁寧に謝ろうと思い深々と頭を下げた。


「まぁいい、じゃカゲナギも薪を運んでくれ」


「了解しました、フィオナ嬢」

 わざとらしい笑顔で返答すると、フィオナは俺に対して変態を見るような目で蔑み始めた。


「カゲナギ……いくら女性と話した経験が少ないからってその反応はちょっと性○罪者と勘違いされるから止めておく事をお勧めする」


「あ……はいごめんなさい、善処します」

 俺は頭を地面に向け、誰とも顔も合わせないように薪が置いてある場所へと向かった。



 俺が薪を抱えて火おこしをしている場所へ行くと、他のフロンティアや御者の人たちは皆食事をしていた。


「陽凪戻ったか、お前の分の飯も用意してるぞ」

 そう言って悠貴はスープと焼いた鳥肉のような物を渡してきた。


「あ、ありがとう」

 俺は一応お礼を言って、料理を受け取り食べ始める。


 俺と悠貴はしばらくの間黙々と食事を取り、沈黙の時間が続いた。

 すると突然悠貴が俺に話しかけてきた。


「あの日も、こんな感じだったよな」

「日が沈みかけの薄暗い時間帯で、かすかに星が姿を表そうとしていた」

「そして神社にいたお前を発見して、気づいたらこの世界に立っていた」


「あぁ、そうだな。お前さぁー俺みたいな奴とこんな世界に来て後悔してないのか?」 


「そうだなぁーーー」

 悠貴は背伸びをしながら、そう言って頭上の星々を見上げていた。

「後悔はしていないさ。確かに現実世界だったら俺と陽凪は相容れない立場だったし、高校に入学してからの付き合いだからまだまだ知らない事の方が多い、でもな1年間ちょっと同じクラスにいて俺はお前を仲間じゃないなんて思ったこと一度もないぜ」


 悠貴がしみじみとした雰囲気でそう言い終えた後、俺は口から言葉を出しかけようとした。

 だが丁度そのタイミングで悠貴が視線を頭上の星から焚き火に移し再び話出した。


「陽凪は仲間とかクラスメイトとかそんなのくだらないって思ってるかもしれないし、確かにお前の考えは正論な部分を多少なりとも含んでると俺でも思う。人間は自己保身の為に集団に属する本質的には弱い生き物だからな。だがなこの世の中を構成してる大概の人間はその弱い奴らだ、陽凪みたいに本質的に強い奴らはほんの一握りしかいない。つまりその弱さを認めずに居続ければ待っているのは孤独だ、本当に強い者が孤独になるなんておかしな生き物だよな人間は……」


「あぁーほんとその通りだよ」

 俺は冷静な声で返事をしたが、内心は驚いていた。

 なぜならば、陽キャの悠貴が捻くれ者の俺の考えを少なからず理解してくれていたからだ。

 悠貴はただ勉強ができるだけのただ頭のいい奴では無かったという事だ。


「だから陽凪には孤独にはなって欲しくない」

 気づけば隣に座っていた悠貴はいつの間にか立ち上がっていた。


「だがそれは、俺の……」

 悠貴は俺の言葉を遮って無理やり話し続けた。


「陽凪の強さを捨てろって言ってるんじゃない、俺達の(もろ)さを、(はかな)さ、そして弱さを認めて欲しんだ、頼む……」

 俺より優れているモノを沢山持っている悠貴が、俺に向かってなぜ頭を下げているのかわからなかった。

 いや本当は分かっていたのかもしれない、だが分かってしまえば悠貴が頭を下げる理由は無くなる。

 俺にはこいつのがプライドを捨ててまで行った行為に意味を与える義務がある、これから仲間になるものとして。


「あぁ、わかったよ認める」

「ただし、俺の捻くれた性格と猫背は直ると思うなよ」

 笑いながら立ち上がり悠貴の肩に手をおき、二人で同時に座った。


 そして二人で顔を合わせ笑い疲れるまで笑いあった。


 しばらくしてフィオナがこっちにやって来た。

「いやー、やっと開放してもらえたよ」

「別の馬車に私のファンらしい新米フロンティアがいてね、食事中はずっと質問攻めだ」


「流石はSランク美人フロンティアだな」

 俺は少し皮肉っぽくフィオナを褒めた。


「カゲナギ、何かあったのか?」

 俺が珍しく自らフィオナを褒めたのにそれを無視して質問してきた。

 おそらく俺がフィオナを褒める以上に驚いた事があったのだろう。


「なんでいきなりそんな質問するんだよ?」


「いやだって、カゲナギのやる気の無い目がいつもより開いてるし、少しだけ腐ってない」

 フィオナがとても驚いた顔で俺の顔に視線を向けている。


「失礼なお嬢様だな、やる気が無い目なのは認めるが腐ってはいない」


「それは、すまなかった」

「そうそう明日の昼にはバベリアに到着するそうだ、今日はもう遅いから私は一足先に寝る」

「君達も早く寝ろよ」


「おやすみ、フィオナ」

 俺の隣で悠貴がイケメンオーラを出して寝る前の挨拶を交わした。


「あぁ、おやすみ」

 フィオナは少し照れくさそう挨拶を返した。


 でたよ、女付き合いが上手いイケメンの固有スキル「ザ・グッド・インプレッション」これだからやっぱり陽キャは俺の敵なのだ。


「じゃ俺も寝るぞ…」

 俺は冷酷な声でそう呟いた。


「おう、おやすみ」


「あいつ、また理由(わけ)のわからんことで怒ってるな」


 この夜、捻くれた者の俺はほんの少しだが変わりたかった自分に気付けたのだ、いや気付かされたというのが正しいのだろう。

 明日はいよいよ、バベリアに足を踏み入れる。

 俺はこの先の冒険に少しだけ胸を膨らませ、目を閉じた。


御一読していただき、ありがとうございました。

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