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異世界に来てしまったと考えるのは些か早急か

 ここは一体どこでしょうか。私は何をしているのでしょうか。何故何かに埋もれているのでしょうか。その答えは目を開かなければわからないのです、何故なら(まぶた)の裏には何も書かれていないのですから。


「……何ここ。……何これ。……本の上?」


 無数の本の上に寝転がっている事に気付いた。本が雪崩(なだ)れて来たと言う事は、私が下敷(したじ)きになっている(はず)なのに、どうして上に乗っているのだろうか。特に痛みも無いし、そもそも見覚えの無い本ばかり。こんな嫌にカラフルでセクシーな女性が移っている本なこんなにあっただろうか。


「ひっ……!? いやああああああ!!」


 盛大に大声を出してしまった。だってただの本ならいざ知らず、私の体の下にあるそれは俗本(ぞくほん)も俗本だったのだから。最低で最悪な下品の悪魔が、これでもかと欲望をぶつけて出来上がった諸悪(しょあく)根源(こんげん)。女の敵。そんな本が大量にあれば悲鳴だって上げてしまう。


「だ、誰だ! 俺の書斎(しょさい)で何をしている!」


 見た事の無い場所で見た事の無い男が叫んでいるが、今はそんな場合では無かった。


(けが)れる! (よご)れる! 私が私で無くなって行くぅ!」


「何やってんだお前! どうやってここに入った! そこをどけ! 俺の本に折り目が付いたらどうしてくれる!」


「……っ! いやぁあああ触らないでぇええ!!」


 その時私から何か出た気がしたけれど、今はそんな場合では無かった。


「何ぃ!? ぅぐわぁ!!」


 男が吹き飛んだ気がしたけれど、今はそんな場合では無かった。手から何かが出て、それが男の方に飛んで行って、何が起こったのか一切わからなくなる様な意味のかわらない意味不明で理解不能な出来事が起こってしまったけれど、そんな場合では無いのだから理解して頂きたいものである。


 しかし下に敷いてあるセクシーな本より私の手から出たビームの様な物への驚きが勝ってしまった。


「これ、少年漫画で見た奴だ……。私、少年漫画で見たあのビームの様な物を使ったと言うの……?」


「な、何だお前……。不法侵入からの暴力沙汰(ぼうりょくざた)……、お前強盗か……?」


「失礼な、こんな可憐(かれん)優雅(ゆうが)な女の子が強盗などと……。ひぃ!? スケベな本!? ……こんな俗本燃やしてしまわなければ!」


「燃やす!? ふざけるな! 俺がどれだけ命を削って、どれだけの思いで()き集めたと思っている! それは男達が、男である為の情熱を秘めた夢なんだぞ!」


「こんなのがあるから痴漢をする男が絶えず、か弱い女性の心を傷付けるのです! そうして生まれた感情がスケベ心であり、乱れた性欲の(みなもと)になっているのです! 私は女なのです!」


「俺だって男だ! それが女性から見て汚い物に見えたとしても、男から見れば例え雨に濡れてボロボロになろうが立派な宝だ!」


「私は本は嫌いなんです! 特にこんな欲情劣情(よくじょうれつじょう)の乱れた本なんて、燃えてしまえばいいんだぁああああ!!」


 何故か私はこの時、家の玄関から数歩歩いた所にある地下倉庫の事を思い出した。小さい頃に興味本位で入ってしまったあの空間。暗い中を手探(てさぐ)りで進み、やっとの思いで電気を見つけ、つけた瞬間にとても恐ろしい物を見てしまった。それは見渡す限りの一帯に広がった下劣な内容の本だった。これでもかと言うくらいに裸体が書かれた本は、幼い私には全くの悪影響でしか無く、ついうっかりマッチ棒を持ち出し燃やしてしまった。最終的には地下にあったスクリンプラーが発動し大事にはならず、コンセントからの出火で済まされたが、今思えば割かし恐ろしい事をやっていたと思う。


 その事を、私を包む炎の中で思い出していた。


「お前、何者だ……? どうして何もしていないのに本が燃えている……?」


「……私は、……私は焚書官(ふんしょかん)です」


 思い付きで人生が左右された瞬間だった。

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