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土色の青春  作者: あん
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6 ヒノキと鉄砲

「汚れない様にこれを敷きましょうですわ」


 土俵の上、及び周囲の土俵場は全体的に土、いわゆる地面となっている。運動した後は足の裏、ほかの接触面が土色に汚れる事になる。


 なので、凛は毎回、自前の大きめのレジャーシートを持って来ている。スマートフォンのカバーと同じくウサギのものである。

 これと言った特徴はないものの可愛らしいウサギのキャラクターと、他の動物のキャラクターがレジャーシートを広げて座っている。

 中央にはどのキャラクターが作って来たのか? 大きい弁当箱が置かれている。


 レジャーシートの絵のキャラクターが、レジャーシートを使用して楽しんでいる光景。それが子供に判りやすく使用方法を教えている結果となっている。

 その絵の内容と同じように、ちゃぶ台を囲んで座っているのは明美、凛、遥の三人。

 運び足ペットボトルバージョンが終わって、今は休憩中だ。


「今日は結構疲れたねぇ」

「いい運動になりましたわ」


 明美、凛の運び足ペットボトルバージョンに使用されたブドウジュースとミルクティーの2リットルのペットボトル。

 手の平の中から落とさない様にしっかり掴んでいた為、最初は冷たかった飲み物も今はぬるくなってきていた。


「流石にこれを飲む気にはなれませんわ」

「ブドウジュースは好きだけど、ぬるいのは飲んだ事ないなぁ」


 否定的な凛の言葉に対して珍しく肯定的な明美。


「うむっ。お腹の調子を悪くしてもいけない。私の緑茶を出そう」


 冷蔵庫から冷たい緑茶を取り出した遥。

 これも2リットルのペットボトルだったが、吹雪のスポーツドリンクと同じく今日の稽古では未使用だ。


「ありがとう、遥ちゃん」

「ありがとうですわっ。遥ちゃん」

「例には及ばんよ」


 遥は明美、凛のコップへ緑茶を注いでいく。


「通常の運び足に加えて、手にペットボトルを持っていたからな。たかが2キロ。しかし、両手に持つと4キロとなる。そこに運動が加われば負担は更に倍増となり、いい運動になっただろう」


 先の凛の、『いい運動になりましたわ』発言を肯定する遥。それに加えて本日は運動の後のジュースを飲んでいない結果になるのも体重を減らす一つの要因になるだろう。そう思ってはいるが、そこは黙っておくことにしている。


 運動中の遥とは違う明美と凛を気遣う肯定的な発言に明美、凛は微笑んでいる。


「うんうん」

「凄くいい運動になったですわ」


 遥の言葉に頷きながら肯定を返す明美、凛。遥の次なる言葉が続く前に、部屋の隅から鉄砲の音が響く。


 バシッ。


 乾いた音と共に吹雪が次なる動きを再開する。


 吹雪は四股って素敵な女子になる部活動の運動メニューが終わった後、「私はもう少し運動したいわね。気にしないで休憩してちょうだい」一人で自主練を行う形となっていた。


「遥ちゃん。吹雪ちゃんは何をしているの?」

「ふむっ。あれは鉄砲と呼ばれる腕の運動の一つだ」

「腕の運動っ! やってみたいっ!」


 運び足ペットボトルバージョンをした事によって、腕に対する運動に興味が出て来た明美。凛もそこには同意したようで、「私もやってみたいですの」と言葉を続ける。

「いいぞっ。では実際にやってみることにしよう」


 遥は緑茶を飲み終えた湯呑をちゃぶ台に置く。立ち上がり、土俵場の隅に向かう。鉄砲柱は畳の間に近い場所にもあり、空いている場所を使用する事にした遥。その遥の後に明美、凛も続く。


「これは鉄砲柱といって、相撲場の地下1メートル付近まで埋まっている。それでいて、地上から見上げた場合は3メートルだ。つまり、これはどれだけ強く動きを加えても人力では揺らぐ事はない」

「見た目以上に大きいんだねっ」

「それにすごくスベスベとしていますわ」


 節の無いヒノキ材を使用している鉄砲柱。手で触れる場所でもあるので、トゲやささくれなどは無い。


「鉄砲柱は手の平が一番接触する。その場所には私達の手に取って一番の安全策が施されている」


 遥は柱に対して正面に立つ。右手、左手を前に出して手の平全体を接触させる。


「まずは姿勢を取る、手の平で柱に触れ、腰割を行いながら、腕を伸ばし気味に、肘を曲げて拝むような角度にする。この後に足を進めながら柱を叩く」


 遥は両足を広げて腰割を行う。自然と腰が水平まで落ちていく。経験者ならではの身体の柔らかさである。


 両脇を締める事を意識しながら手の平が若干頭の上の位置に来ると、拝むような角度になる。


「スゥー……ふぅー……」細く長い呼吸を吐き出す。


 目の前の柱に対戦相手がいる様な気持ちを持つ。努めて真剣な顔を見せると、主に目元に力が入り眼力を増す。


 女の子のような顔付きの遥でも少しは格好良く男性的な顔付きとなる。

 遥はれっきとした男性なのだが、普段意識していないだけあって、明美、凛は遥の顔付きに釘付けとなる。


「右手で柱を叩く時、右足はすり足で前に出る」


 すり足で土俵場の土を足の指先でかきながら、前に出る。次の瞬間には鉄砲柱を右手で叩く。早すぎず、また遅すぎず、


「手、腕を傷めない様に始めはゆっくりとした動きをするんだ。動きを身体に馴染ませる」 


 右手、左手で柱に触れて、その後に腕を伸ばし気味に構えて、

「次は左手っ。柱に鉄砲を行う時は腰を入れる事を意識する」



 バシィッ!



 土俵場に快音が響いて遥の左手が鉄砲柱を叩く。


「すごいすごいっ。やってみたいっ」

「いい音ですの」


 明美、凛もすっかり遥の鉄砲にハマったみたいで、テンションが上がっている。


「ああっ、いいぞっ。あんまり無理はしないで、まずは動作を身体に馴染ませるんだ。最初はゆっくりとした動きで鉄砲柱を叩き運動してみよう」


「わかったよぉっ」

「わかりましたわっ」


 二人の元気いっぱいな返事に、「さっきまであんなにヘトヘトだったのに、元気いっぱいだな」と感心する。

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