20 続、両手に花
登場人物の体格は下記の通りです(身長順)
和音凛
身長175cm 体重67kg
B:90cm(G) W:60cm H:89cm
薫子吹雪
身長168cm 体重50kg
B:83cm(A) W:61cm H:87cm
高見遥
身長160cm 体重52kg
新道明美
身長157cm 体重54kg
B:87cm(D) W:56cm H:83cm
士道弓弦
身長155cm 体重43kg
B:78cm(A) W:55cm H:76cm
「きゅーうっ、じゅーうっ」
ゆりかご受け身の後ろ倒れ、右倒れ、左倒れをそれぞれ各十回ずつ合計三十回行った後、遥は立ち上がる。
「では少しずつ距離を離して行ってみよう。次は蹲踞からの受け身だ」
蹲踞の姿勢になった遥。
先程と同様にお尻からゆっくりと後ろに倒れていく。身体を丸めた状態でアゴを引き、お尻、背中と倒れていく。
起き上がり、蹲踞の姿勢に戻る。
「ちょっと距離があるけれど、出来そうっ。やってみるよっ」
「頑張ってみますのっ」
「その意気だぞっ。お尻からゆっくり転がる時には、頭を地面にぶつける事がないように、アゴを引く。お腹の中心に力を入れて、へそを見る様に心がけるんだ」
「わかったっ」
蹲踞の姿勢となった明美と凛。
先程の遥の動きを見習って、ゆっくりとお尻から倒れる動作を行っていく。
「アゴを引くのを忘れないで」
吹雪からの注意の声に頷く動作を含みながらアゴを引いていく。
「この士道、へそを見る事を指示する」
背中を丸める様にすると、自分のお腹が見えてくる。
そうしてお尻、背中が地面にくっついて、身体が転がるようになる。
「いいぞっ、飲み込みが早いっ。完璧だっ」
遥の声を聞いて笑顔になりながら、蹲踞の姿勢に戻る。
「えへへっ、しっかりと出来たよぉ」
「出来ましたですのっ」
「では、次もゆっくりと十回、蹲踞からの受け身を行おうっ」
「わかったよぉっ」
「この士道、号令は全員ですると一体感が出ていいのでは? と進言する」
「いいなっ。それっ、では私が数えるので、皆は後からついてきてくれ」
「わかったよぉ」
「いくぞっ、いーちぃっ、にーいぃっ」
「「「「いーちぃっ、にーいぃっ、さぁーんっっ……」
遥の号令に続くように明美、凛、吹雪、弓弦の四人の声が相撲場に響いていく。
蹲踞からの受け身、後ろ倒れを十回やった後、遥は土俵の端で蹲踞になると、四人には前の方から見る様に指示した。
「次は蹲踞の姿勢からの受け身、前回りだ」
「前に転がっていくの? 額からぶつかっちゃわない?」
「蹲踞からの前回りと言うと、倒れ込むときに土俵が目の前に迫ってくるイメージがあるが、慣れてみれば簡単なものではある」
慣れた動きで右手から、右肩、左腰と土俵につけて転がった後に蹲踞の姿勢に戻った遥。しかし、これだと一瞬の動きで判らない。
「結構テクニックのいりそうな動きですわね」
凛がそう言うのも無理の無い話だった。
「一つずつ段階を踏んで説明してみよう」
遥は吹雪に目線を送ると、直ぐに視線を反らされた。
「つまり、貴方が解説するから、私が蹲踞からの受け身を行えばいいのね」
「以心伝心かっ? てぐらいに伝わるんだな。この士道、流石に驚きである」
遥と吹雪のやり取りに突っ込んでいる弓弦はさておき、土俵の端で蹲踞の姿勢となるのは吹雪。
「ご協力感謝するよ」
「そう丁寧だと怖いわね」
視線は交わさず言葉だけのやり取り。
「まず、先程は蹲踞からの受け身で前に回ると言ったが、右腕から動作が始まる時は右の受け身となる」
「ふっ!」
ここで吹雪が一回実演を行い、土俵の反対側で皆の方向を剥いて蹲踞の姿勢に戻る。
「右腕の動きとしては、手首より先を守るように内側に返し肘を九十度曲げながら、腕で顔を守るようにして倒れ込んでいく。しかし、ここでもアゴを確実に引き、へそを確認する様に身体を丸くするんだ。右肩から、左腰へと倒れ込んで起き上がる」
吹雪がゆっくりとした動きで実演してくれた。
「……」
明美が無言でいる。
凛もまた発言せずにいた。
だが、遥は二人が蹲踞の姿勢からの受け身を怖がっているのでは無い、と言うのが判っていた。
小声で遥の言った事を反芻し、また実演を続けてくれている吹雪を見て、自分なりに解釈していた。
「判ったっ。やってみよっ!」
明美が宣言すると、吹雪は一息つき、土俵から出る。
明美は土俵の端で蹲踞の姿勢となる。大事なのは右手の動き。
「すぅー……はぁっーーっ……よしっ!」
蹲踞からの受け身、前回り右の受け身。
明美は遥、吹雪の教育通りに綺麗な円を描く形で成功した。多少地面に打ち付けた箇所はあるが、受け身なのである程度は痛みはあるのだろう。
「どうっ、遥ちゃんっ?」
「いいぞっ、その調子だっ。次っ、凛くん行ってみよう」
「はいですのっ!」
凛の受け身の邪魔にならないように土俵の外に出て来た明美。そこで待っていたのは弓弦。片手を上げていたのでハイタッチ。
「やるじゃないかっ。この士道、一発成功とは鼻が高いぞっ」
「怖くなかった? 大丈夫?」
「大丈夫だよっ。ありがとう吹雪ちゃん」
汗を拭く間もなく振り返った明美。凛が転がった所だった。
綺麗な動作の後、立ち上がって明美の元に来る。
「やったねっ。凛ちゃん」
凛ともハイタッチを行う。
「じゃあ、次は左の受け身で戻って来るんだ。右、左と十回ずつ行って受け身を身体に染み込ませよう」
遥の声に今の要領を忘れないように、と凛から蹲踞の姿勢になり、前回り左の受け身を行っていく。
「次っ、行きますっ」
大きく声を出して明美も凛に続いていく。弓弦、吹雪と続き、次は遥からスタートだ。一人ずつ動きを確認しながら右の受け身、左の受け身と十回ずつ行った。
「二人とも飲み込みが早いぞっ。では、ちょっと欲を出して次にいってみよう」
「うんっ。次は何をするの?」
顔の汗を拭いていた姿勢から顔を上げて遥を見る明美。
「うむっ。まずは先程同様に見本を見て貰おう」
何を言わずとも吹雪が土俵端に立つ。
「最初に中腰の構えになる」
吹雪は遥の説明に従って中腰の構えとなる。
「地面に対してお尻から背中をつけるようにして後ろに転がります」
「ふっ!」
吹雪はゆっくりと転がっていき、起き上がると腰割の姿勢に戻る。
「こちらに対しても頭をぶつけないように、アゴを引く。お腹を見る様に意識する事が重要になる」
「これも少し距離が離れているみたいだけど、なんとかなりそうだね」
「もう大分慣れましたの」
と言う事で明美、凛の二人は中腰からの受け身をなんなくこなしていき、そちらに関してもこの後ろ倒れを十回行った。
「そう、ここまでは何の問題も無いぞっ。二人とも」
遥は不敵な笑みを漏らす。それは、ここまでが前哨戦だとでも言いたげな笑みであった。
「なっ、なんか怖い笑い方だねっ」
「あれはろくでもない事を考えている目ですの」
明美と凛が遠慮なく声を出して会話しているのを聞いた遥は、「そこまで露骨なひそひそ話もなかなかないと思うぞっ」と心外だな、と首を傾げた。
「これからやって貰おうと言うのは、先程に蹲踞からの受け身で右の受け身、左の受け身とやって貰ったが、中腰からの受け身でも右の受け身、左の受け身と行うぞ」
「なんだ、そんな事かぁ」
「簡単ですの」
二人はなんて事はない、と言いたげに中腰の構えになる。
「うっ、腰の位置が高い」
「これは怖いですわね」
蹲踞と中腰では腰の位置が違う。
中腰で腰が高くなっている分、土俵とも離れているのだ。こうなってくると、地面に向かって腕を突き出すと言う行為が危険な様にも思える。
「確かに腰の位置は高くなる。だが、相撲は通常がこの腰の位置である場合が多い。だからこそ、この位置からの受け身に慣れておかないと怪我をする事になるのだ。吹雪くん、手本を見せてやってくれ」
「えっ、ええっ、判ったわ」
中腰からの受け身、右の受け身。右足を前に出して、右手から土俵につき、右肩、左腰へと前に向かって回転しながら中腰の構えに戻る。
左の受け身の場合は左右が逆となる。
「このように前回りに回転する形を取って欲しい。アゴを引いて、背中を丸める。この二点に注意して欲しいのだが……」と遥はそこまでいいかけた所で、既に土俵の横で回転運動を始めていた二人を見て、「飲み込みが早いのは結構だが、説明は最後まで聞いて欲しいぞっ」と呟いた所で弓弦に静かに肩を叩かれる。
「この士道、同情する」
「弓弦くんにだけは同情されたくないねっ」
「遥ちゃんっ、これだけ出来たらいい感じだよねっ!」
「もう受け身はばっちりですわっ」
喜び勇む明美と凛。しかし、相撲の受け身と言うのはこれだけでは終わらない。
「うむっ。二人とも上出来だっ。では中腰からの受け身で後ろの受け身を十回、右の受け身を十回、左の受け身を十回行おう」
「うんっ」
「判りましたですのっ」
中腰からの受け身後ろの受け身を十回、右の受け身を十回、左の受け身を十回行った。
「もうバッチリだねっ」
「完璧ですのっ」
「ふふっ、では最後の仕上げに移ろうか。最後は、中腰からの受け身、対人での受け身となる。相手に投げられた時、咄嗟に受け身が出来るか? それが重要になってくるのだよ」
遥は土俵端で中腰の姿勢となるが、両手を広げて構える。
「これは二人での稽古が重要になってくる。私がこうやって構えるから、受け身を取る側がぶつかってくるのだ」
「ふっ!」
吹雪が手本とばかりに中腰の構えから左足を踏み込んでぶつかっていく。遥の脇から胸板にかけて筈押しとなる。
「この状態の時、右手で吹雪くんの肩に触れる。その時、右足を前に出して、右手から転がって中腰の構えに戻る」
「と、まぁ、こういう訳ね。高見くんの手を合図に、自分のタイミングで転がっていくといいわよ」
「はいはいっ。じゃあっ、まずは私からっ!」
まずは明美が遥の前で中腰の構えとなる。左足から思いっきり踏み込んでぶつかっていく。
「んっ!」
キツいアタリではあったが、そこは経験者でもある遥。ビクともしない。
「この時、肩に手で触れるから自分のタイミングで受け身を取ってみるんだ」
「わかったっ。いっくよっ」
遥の手を合図にして、明美は右足を前に出して、右手から転がっていく。アゴを引き、背中を丸めて既に身体に染みついた動作で、中腰の構えに戻る。
「出来た、かな?」
「バッチリだっ。さぁ、次は凛くんだなっ」
「いきますわっ」
凛が中腰の構えになって、遥にぶつかっていく。
「もうバッチリだな。明美は飲み込みが早いんだな。この士道、関心する。この分だと、明日には相撲出来るんじゃないか?」
「えっ、相撲? 明日出来るの?」
「多分、出来ると思うぞ。この士道、遥の楽しそうな顔は久しぶりに見た気がする」
明美が視線を送ると、凛の受け身の成功を見た遥が笑顔となっていた。
「楽しみだなぁっ。明日か~。日記につけとこう」
「その前にやる事があるだろう? この士道、まだ物足りないのでは? と確認してみる」
「する事? 何かあったっけ?」
「中腰からの受け身、対人での受け身。右の受け身、左の受け身だよ。この士道、胸を貸してあげてやらんこともないっ」
「ほんとうー? ありがとうー」
弓弦からの提案を受けて、遥・凛ペアとは距離を取って、稽古をする事になった。
「じゃあ、いっくよぉー」
「全力でくるといいっ。この士道、準備万端だっ」
全方で構えている弓弦に向かって、明美は左足から思いっきり踏み込んでぶつかっていく。
「んっ! ああっー」
明美の強いアタリに弓弦は耐えきれず、中腰からの受け身、後ろ倒れを行った。
「ごめんっ。大丈夫?」
「ふふっ、受け身を知っていると咄嗟のトラブルにも対処出来る事が勉強出来ただろう? この士道が身をもって教育してあげたのだよっ。決して明美のアタリが強かった訳じゃない」
強がりを見せる弓弦に明美は普通に関心する。
「そうだったんだ。ありがとうー。じゃあ、次は大丈夫だねっ」
中腰の構えで股を綺麗に割る明美の肉付きを身て、「いやっ、数日しか稽古していないのに身体出来過ぎだろう。この士道、小声で驚愕する」と呟く。
「んっ? 何かいった?」
「いやっ、なんでもない。なんでもないが、この士道、体格のいい吹雪にやって貰うのが一番かな? と提案する」
「人をアレ呼ばわりとは失礼ね。私を呼ぶときは吹雪と呼びなさい」
「なにおうっ。この波防人たる士道が人間風情をアレ呼ばわりして何が悪い」
睨み付ける弓弦。悲しいほどの身長差によって見上げる形となっている。
「その波防人、畑山中が人間一人一人に個別の名前を与えて下さっているのよ。私や他の誰かを呼ぶときは、呼び捨てで構わない。敬称略が波防人の基本よ」
「ふむふむ、この士道、非常に勉強になるな」
「立場が逆転しているみたい。でも弓弦ちゃんって素直で可愛いよ」
「ふへへ」
不意に頭を撫でられた弓弦は、顔をにやけさせながらも明美の後ろに回り込む。
「とにかくっ、明美は受け身の稽古に関しては吹雪とするんだ。この士道、今しがた指導を受けた事に感謝するぞ。吹雪。だから、明美の稽古をお願いします」
「ちょっ、ちょっと押さないでよ。吹雪ちゃんと稽古するからっ……って、何気に今、吹雪ちゃんってば弓弦ちゃんからのちゃん呼びを回避したりしたの?」
「気のせいよ。新道さん、早く稽古をやりましょう。思いっきりアタって来ても大丈夫よっ」
中腰で腕を広げて準備する吹雪。
「んっ、そっか。ならいいんだけどっ。いくよっ。吹雪ちゃんっ」
どんっ! と強いアタリでぶつかった明美をモノともしない吹雪。お返しとばかりに不意打ちの投げを仕掛ける。
「あっ、とぉっ。んっ!」
肩に触れるだけでは無く、勢いのあるパワーで投げられたにも関わらず、明美の受け身はしっかりしている。
「吹雪ちゃん。いい調子だよっ。もう一回、お願いしますっ」
「結構強い力で投げたつもりだったけど、反射神経はバッチリのようね。じゃあ、次は左の受け身をするわよっ」
ポジション取りを反対側へとして、明美を待ち構える。
「判った。頑張るよぉっ」
明美と吹雪、遥と凛の四人は中腰からの受け身で対人での受け身。
右の受け身、左の受け身をそれぞれ十回ずつ行った。




