19 両手に花
「はいっ、休憩時間終わりよ。次に行きましょう」
伊藤先生からの指示で部員は立ち上がり、再び土俵を囲むように等間隔に立つ。
各部員の部活内の恰好は以下の通りである。
新道明美、ピンクのスポーツウェア、黒いマワシ。
高見遥、黒いスポーツウェア、白いマワシ。
和音凛、体操服、ブルマ。
薫子吹雪、水色のスポーツウェア、白いマワシ。
士道弓弦、制服のような紺色のスポーツウェア、白いマワシ。
「では、早速ではあるが今日は相撲に関する事をしていこうかと思う。先程までの動きで本日のダイエット運動としては完了している。今からやる運動に関しては、カロリーを消費しないかもしれないが、ご理解して頂きたい」
真面目に話す遥の一方で、伊藤先生はちゃぶ台から静かに見守っている。
「うんっ。判ったよっ」
「それでっ? この士道、気になっていたのたが、相撲をするにあたってまずは何からやっていくのかな?」
「受け身だ」
受け身。そう聞いて震え上がるのは弓弦だ。
「うっ、受け身だとっ! この波防人に床に転がれと言うのか?」
「士道さん、落ち着いて。そこまで大きな問題ではないわ。それに……」
いつも部室に差し入れの飲み物を持ってくるなり帰っていく伊藤先生。部活の内容に口を出すのかと思えばそうでも無い。
だが、吹雪には判っていた。
「伊藤先生が部室にずっといて下さっているのも何か理由があるのでしょう?」
「大げさよ。薫子さん。先生だってたまにはクラブに顔を出すわ」
「吹雪くん。その通りだ。受け身は場合によっては頭を打つこともある。先生にはお忙しい所、無理を言って来て頂いている」
そこまで言われると弓弦も引き下がる様に言葉少なく、「そういう事はボクにも教えろよ」と恨み節交じりに静かになっていく。
「なので、話の腰を折る事なく進んでいくぞ。相撲をするのにあたって一番重要なのが怪我をしない事。勝負に勝つ事も大事だが、負け方も大事である。危険だっ! と感じた時に自然と受け身を取れるように、まずっ! 第一に受け身の練習を行う」
そこまで説明すると、遥はその場で三角座りとなる。
「まずは土俵と身体の距離感が一番短く出来る三角座り。この状態で、後ろに転がっていき、起き上がる。これがゆりかご受け身と呼ばれるものだ」
「ちょっと待ってっ!」
明美は三角座りとなった遥に駆け寄って、しゃがんで横から覗き込むようにする。
「もう一回、ゆっくりやって」
「うむっ。経験者である我々はともかく、明美くんと凛くんは未経験者だ。今度はゆっくり説明しながらやっていくぞ」
「私も近くで確認してみますの」
明美、凛の二人が三角座りの遥の両サイドでしゃがんでいる。
「両手に花だな。この士道、茶化す気は無いが……」
「羨ましいの?」
「そんな事ないだろう? この士道、頭撫で撫で隊を遥に取られても悔しくもなんともない」
「同じ部活のメンバーにとんでもない名称をつけるのね」
弓弦と吹雪、二人のやり取りはさて置き、説明は続いていく。
「重要な事は、頭を地面に打たない様にアゴを引く、おへそを見る。この二点を考えながらお尻から背中を地面につけた後に元の三角座りの姿勢に戻って行く」
もう一度、今度はゆっくりとした動作で見せて貰った後、「一回にやってみようっ!」その場で三角座りとなり受け身の練習を始める。
「よいっ、しょーっ」
間延びした掛け声と共にゆっくりとした動作でゆりかご受け身の一連の動作を行う。
無事に元の三角座りまで戻ってこれた明美は、「いいぞっ、ばっちりだ」監督をしていた遥から褒めて貰った。
「ではっ、まずはこれを十回行い、動作に慣れて来たら右に倒れてみたり、左に倒れてみたりしてみようっ」
「うんっ、わかったっ。いーちぃっ、にーいぃっ」
明美、凛、遥の三人で受け身の練習が始まったのを見て、「おっ、おいっ、この士道だって真面目にやるぞっ」駆け寄っていく弓弦。
「まったくどうしてもう少し素直になれないのかしらね」
吹雪も弓弦に続いていき、横並びとなってゆりかご受け身の練習に参加する。




