10 ようこそ相撲の世界へ
ようこそ、相撲の世界へ
パンフレットの表紙にはそういった一文が書かれていた。
ピンク色のスポーツウェアの上に黒いマワシを締めている女性は、士道弓弦によく似ていた。
「これは士道様ですの?」
「そんなものと一緒にするな。ボクはボク、士道弓弦だ。この士道、一つ言っておくがボクの事を呼ぶときは弓弦、もしくは士道弓弦波防人と呼ぶがいい。ニンゲン」
不愉快だ、とでも言いたげに眉根を寄せた弓弦。
「そういう弓弦も、ビジネスの間だけでもお客様、和音様、凛様とそのいずれかで呼んだ方がいいと思うが……」
様子を見ていた遥も流石に突っ込まざるを得ない。
「これは失礼しました。では弓弦様、失礼してパンフレットを見させて頂きますの」
凛の勘違いを誰も責める事は出来ない。
パンフレットの表紙の女性は、弓弦と非常によく似ていた。
顔つき、髪型、年齢、その全て。
ただ一点違う点があったとするなら雰囲気。
どこか儚げで崩れそうな弱い印象を持たせていた。
力強いスポーツの代表格、相撲のイメージとは程遠い印象を見せた女性が誰か?
その部分を考察することなくページはめくられる。
目次は以下のようになっていた。
新入生の皆様へ
コスチュームの新機能、紹介
相撲大会結果、スケジュール
スポンサー紹介
計20ページにも満たないパンフレットではあるが、ある程度の体裁は保っているらしい事に安心した凛。
謳い文句、文言、その全てに目を通すことはせずに全体の雰囲気を確認する。
「ふふふん。どうだい? この士道、マワシを締める事の素晴らしさが判ったと思うが?」
自信満々な士道に対して、パンフレットを閉じて視線を合わせた凛。
「いいでしょう。では、このパンフレットを部室に配達する事を許可します」
「……それだけ?」
開いた口が塞がらない弓弦。
「ええっ、それだけですわよ。この無料のパンフレットを部室に配達するのを許可します」
「キミ……いっ、いやっ、和音様が購入したりとか」
「ありませんわ」
「そっ、そうか……」
落胆する弓弦の頭に手を添える遥。
「よかったな、弓弦。他の部員がパンフレットを見たら購入してくれるかもしれないぞ」
「遥」
「経験者である私と吹雪君、未経験者の凛君、明美君の四人がパンフレットを確実に視界に入れるんだ。マワシを締める事は素晴らしい行為なんだろう? じゃあ、何も心配する事はないっ」
「フッ、フフフッ、そうっ、その通りだよ、遥っ! キミも少しは判って来たじゃないか? この士道、明日からの部活の参加にはパンフレットを持って馳せ参じよう」
弓弦は立ち上がり、挨拶もそこそこに応接室を出て行った。明日から部活に参加すると言っていた弓弦だが、……実際に姿を見せたのは二日後だった。
「待たせたなっ! この士道弓弦波防人が部室に来てやったぞっ」
勢いよく部室に滑り込んだ弓弦の見た光景は、ぽかーんとした表情の明美と吹雪だった。
今回で別ルートは終了です。
時系列としては、7の直後に繋がります。




