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さよならにはまだ早い(仮)  作者: 岩本ヒロキ
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8月25日 そばにいれるだけで。

 彼の事が気になるようになったのは、一年生の時の体育祭だった。

 クラスの代表で出場したリレーでのあまりにも速い走りに見惚れてしまった。何人も追い越し、涼しそうに駆け抜ける横野くん。けれど、そんなヒーローは走り終わると学校中からの声援を遮るように本部テントの裏へ消えていった。


 学校祭が終わり、普段の授業に戻って改めて気づいた。彼は、クラスの誰とも関わろうとしなかった。遅刻ばかりの渡辺君を除いて。いつも机の上でずっと勉強ばかりして、話さない。高い身長ですら、威圧感に感じた。



「森岡さん?いきなりゴメン。ヒナちゃんとは1年の時から仲良かったんだよね?」

  敷島君に聞かれ我に帰った。懐かしい思い出。あれからもうすぐ1年になる。

「そうだよ?どうしたの?」

「いや、ほら。ヒナちゃんと秋月と柊也って仲良いからさ。でも、ヒナちゃんと森岡さんは分かるけど、森岡さんと秋月が仲良さそうにしてる所、正直見かけないなって思ってさ。」

 学校祭の準備で教室の飾り付けをしている最中、たまたま隣にいた敷島君が話しかけてきた。敷島君はいつもみんなのことをよく見てる。だから、私が横野君に話しかけるきっかけを失っていることにも、きっと気付いていたんだろう。

「私は無理だよ。渡辺君なら話せるけど、横野君はまだ…。ヒナちゃんがいないと喋れないかな。」

  本当は私だって。ヒナちゃんみたいに横野君と話したいと思う。けど、私には分かる。横野君の視線がヒナちゃんにしか向かない理由を。

「そっか。僕もまだそんなに話せないかも。なんでなんだろうね。吹奏楽部もいきなり入ったって聞いたんだけど…」

「あぁ、それなら。ヒナちゃんがいきなり吹奏楽部に入れたらしいよ?」

 あれは忘れもしない去年の12月。朝登校すると、あの周りと関わろうとしなかった横野君がヒナちゃんと廊下の端で話をしていたのだ。逆光の中に佇む二人。私には眩しくて、苦しくて。声をかけることも近寄ることもできなかった。


「新聞部が今のメンバーで発足したのはそのあとだよ。2人の間に何かあったみたい。そしたら、横野君が吹奏楽部に入る事になったって。すごいよね、ヒナちゃん。昔の横野君、渡辺君以外と全然話さなかったのに。一緒に部活始めちゃうんだもん。」

  赤色の花紙を折りながら、思う。ヒナちゃんの場所に私がいれたなら。もっと近くにいられたんじゃないかなって。挨拶よりも、もっと多くの言葉を交わして、私にも笑顔を向けて欲しい。そう思ってしまう。

「僕もさ、2人と同じ吹奏楽部だけどさ。たまに2人が遠く感じるんだ。2人の間にあった何かが原因なのかな?」

 ふと、あることを思い出す。

「そう言えば。横野君が吹奏楽部に入る前にあった中間考査でさ。意外すぎて覚えてるんだけどね、ヒナちゃん、クラス単位だけど1位取ってた。あの時だけ原田君2位だったから、何かすごい印象深くて。何か競争でもしてたのかな?」


 いきなり教室のドアが開いた。遅刻してきた渡辺君が横にいた敷島君の背中にのしかかり「暑いよー」とつぶやきながら、笑っている。

 渡辺君は遅刻ばっかりだけど、おっとりしてていつも笑ってて。見てるだけで癒される。横野君と比べたら、正反対の二人だけど、仲が良いのには妙に納得させられてしまう。


 横野君と渡辺君。ヒナちゃんは、どっちなのかな。私の気持ちを知ったら、ヒナちゃん、辛くなるだろうな。この想いはきっと、叶わないだろうから。


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