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さよならにはまだ早い(仮)  作者: 岩本ヒロキ
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8月13日 転校生

  敷島がこのクラスに転校してきたのは、新一年生が入学するのと同時だった。


 ヒナの近所に住む一人暮らしのお婆さんの孫らしく、面識があったのだろう、登校初日からヒナと話す光景が見られた。 背は俺と同じくらいで、埼玉の学校に通っていたそうだ。それ以上のことは何も話さない奴だった。転校してきたその日の昼休みに、ヒナが敷島を連れて新聞部へやって来た。それが、俺たち6人の出会いだった。



 それから、同じクラスに同じ部活。席もみんな近いからか、一日中一緒にいるような環境で1学期が終わり、夏休みになった。


  夏休みは新聞部が忙しい時期でもある。部活の大会が多く、夏休み明けには体育祭と学校祭が控えている。ヒナが生徒会もしているため、必然的に新聞部が裏方で足りない部署の補助に回るのだ。去年なんて、全員でゲーム大会の司会をさせられたものだ。ヒナの断れない性格は、新聞部一同重々承知している。

 きっと、夏休みが終わる頃には担当させられる部署の書類をヒナが持ってくるに違いない。こちら側に選ぶ権利はない。なんだか当たりのないくじ引きをさせられている気持ちだ。まぁ、その事については、まだ敷島には話していない。諦めも肝心だ。


 ヒナと秋月、敷島が吹奏楽部に行っている間は、残りの3人での活動になる。が、なんのせ柊也は遅刻が多い。そのせいで森岡と2人きりの活動が多かった。


 森岡とヒナは一年からの親友で、クラス替えがないため、そのままクラスが持ち上がる。PC室で女子と2人きり、というのは、最初は緊張すらしたが、今では居心地良さすら感じる。柊也やヒナに振り回される必要もないのだ。


 夏休み。窓の外にはセミの鳴く声が絶え間なく響き渡る。部活動の声が遠くに聞こえ、PC室のエアコンの音が低く響く。暑い廊下から吹奏楽部が終わったヒナ達の話し声が聞こえて来る。ヒナの笑い声。ふざけて話し合っているのはきっと敷島だ。それに続いて秋月もいるはず。


 隣の森岡が前髪を触りだした。

 

  俺達は、きっとそれぞれが一歩を踏み出せない想いを抱えている。この環境を崩したくないから。その一歩より大切だと思えるから。


「夏樹っ!春奈っ!お昼ご飯食べよっ!!」

 暑い廊下から顔を出すヒナと涼しい顔の秋月。2人に連れられて敷島が汗をかきながらPC室に入ってくる。

 

 きっといつか、この関係が壊れる時が来るのだろうか。「今日は何してるの?」とパソコンをのぞき込むヒナの顔が俺のすぐ隣に来る。耳が熱くなる。


 まだまだ夏は始まったばかりだ。


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