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「ここが所謂、君の持ち場になる。必要なものはそこら中にある、いくらか棚を開ければ出てくるだろう。昔はそれだけ人がいたんだ。君は、仕事道具に困ることはないだろう。
そして、ここから左手に見えるあの扉が私たち使用人の寝室だ。使用人と言っても私と君、そして週に2度やってくる掃除婦のリンダが荷物置きに使うくらいだがね。そうだ…昔は賑やかでね。部屋の取り合いになったものだが、今は選び放題だ。…君も好きに選ぶと良い。」
そういうと彼はキリッとした眉に撫で付けられた髪、威厳のある風貌に似つかわしくない、少し悲しげな表情を浮かべ、引き出しから1つの小箱を取り出した。
何を入れている箱なのだろうか。大きさはおおよそ小学生等が使う筆箱サイズ。しっかりとした木箱に塗装をされ、いかにも高級品が入っております、と言った感じである。
「そうだ。君も今日からここのものになったのだから、これを使うといい。年代物だがやはりフェガト家。質の心配はしなくても大丈夫だろう。君も後で振ってみるといい。そんじょそこらの杖とは違う。それはそれは驚くだろうね。」
積み重なっている資料や紙切れを乱雑にどかすと、彼はその木箱を置き私へと目配せした。
話を聞く限り杖のようである。サイズから検討するに、あの街中で見た魔法の杖だろうか。しかし、そんなものいいものだと勧められてもどうしていいかわからない。魔法使いではない私はまず使えるはずもないのだから。使えさえしないものを他と比べることなど出来るはずもないのである。
さて、どうしようか。本格的に人間違いなのだと気づいた。