起こり得る不思議
大学生の篠原旭は、平々凡々と生きていた。
決して裕福な家庭とは言えなかったが、両親は健在で仲も悪くはない。地方から上京し、両親の経済的支援を得ながら、都心からは少し離れたところに小さなアパートを借りて1人暮らしをしつつ大学に通っていた。
さて、都会の1人暮らしだが、なかなかにお金がいる。それほど容量も良くない彼女は、勉強よりもアルバイトに時間を取られていたのは言わずもがな。本末転倒である。
しかしながら、その彼女を評価するのであれば、ある程度一般的な暮らしを送り、青春を謳歌していたと言えるだろう。
そんな彼女自身を少し紹介するとしよう。
旭は2人姉妹の長女で少しプライド高く捻くれていることがネックだが、そこそこに整った顔と持ち前の明るさは、それなりに人を引き寄せた。それに少し抜けているところもある、そんな旭にはいつも守ってくれるステキな彼氏もいた。
そんな旭の生活が一夜にして一変した。
街並みは中世のヨーロッパかと見紛う石畳みを中心とした建物に、そこら彼処で目を疑うような光景。
フヨフヨと浮かぶ何かや、杖の先から出ているキラキラしたものは、いつだったか映画館で見た、魔法使いの映画のようだった。
旭はどうすれば良いかわからなかった。
何せ彼女は、これからの生き方については考えた事はあっても、どうすれば今生きられるのかについては考えたことなど一度もない。
当たり前と言ってしまえばそれまでだが、今まで戦争もない日本で、ぬるま湯に浸かっていた旭にとってはこの状況を打破する方法など、考えられなかったのだ。完全にキャパオーバーである。
そして、そんな世界に落ちてしまった彼女に世界は優しくなかった。
この物語は、争いなんて何も知らないプライド高めの捻くれ女子が、右往左往しながらも世界の大きな渦に争い闘いながら生きていく話である。