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第4話

「ここがダンジョン……」


 あなたは改札を抜け、ダンジョンへと足を踏み入れた。ダンジョン内部は石造りの廊下で、大人3人が並んで歩けるだけの幅と、3メートル近い高さの空間が続いている。あなたはとりあえずモンスターと戦ってみることにした。事前に掲示板で仕入れた情報によると、一階にはスライムしかでないので、攻撃手段に乏しいあなたでも安心して戦えるのだ。迷子にならないように、探索者カードの地図機能を起動し、オートマッピングで塗られる歩いた場所に、入り口と書き込んで歩を進める。


「意外ときれいだな、もっと汚いかと思ったけど」


 あなたは知らないが、ダンジョンにはトイレがない。なのにきれいなのは、スライムが糞尿を分解してくれているからだ。迷宮の掃除やたるスライムは、地味に役に立つモンスターなのだ。


「うーん、掲示板の情報によると、一階はスライムだけみたいだし。素手でもなんとかなるだろう」


 この世界のスライムは幼稚園児でも楽勝で勝てるモンスター。毎年、春になるとヒノキの棒を装備した園児たちが、スライムを袋叩きにして経験を積むのだ。


「園児に負けるスライムwww」


 掲示板で情報収集をしながらも、サクサクと歩を進めるあなたの前にそれは現れた。半透明のプルプルとした体、ノロノロと動く軟体、ゼリー状の物質で構成されたスライムさんだ。


「よっしゃ、死ねええええええええええ!」


 勢い込んで駆け出したあなたは、サッカーボールよろしくスライムに蹴りを入れる。


「ふっ。すまないスライムさん、恨むならモンスターとして産まれてきたことを恨んでくれ」


 目とじて感慨にふけるあなただったが、ふいに足に冷たい感覚が走り、思わず目を開ける。スライムだった……蹴り飛ばしたはずのスライムが足に張り付きもぞもぞとしていたのだ。


「は?ちょ、なんで死んでないんですかね。はっはっは!」


 足をぶんぶんふって振り払おうとするあなた。しかし、スライムは全く動じず、徐々に足を這いあがってくる。


「まて、話せばわかる。ひとまず落ち着こう!」


 しまいには、手でつかんで引きはがそうとするあなた。しかしスライムは全く意に介さず、逆に手を飲み込んでショートカットし頭へと迫ってくる。徐々に恐怖にかられたあなたは、必死に抵抗を試みるが、スライムは全く問題ない、もっとやるがよいとばかりに飲み込んだ手をぎゅるぎゅる締め付けてくる。


「誰か!誰か助けて!ヘールー!モガモガモガ……」


 あなたは知らなかった、回復職は攻撃にマイナス補正がかかること。この世界の幼稚園児は、あなたよりも筋力が強いうえにヒノキの棒で武装していることを。ついに頭に取りついたスライム様、それによって呼吸が阻害されたあなたは酸欠に陥る。穴があったら入りたいとばかりに口と鼻にまとわりつくスライム様にもう恐怖以外感じないあなた、あなたが酸欠と相まって失神しようとしていた。その時だ……。


「火遁:火炎弾の術!」


 凛とした声があたりに響き、あなたに顔面騎乗位プレイしていたスライム様が、あなたの毛髪を道ずれに焼却されたのは。スライム様の窒息プレイから解放されたあなたは目を見張る。目の前にいたのは薄手のレオタードの上から、局部を露出させた極彩色のラメ入りズボンと上着を羽織り、顔をマフラーと頭巾で隠した銀髪長耳エルフ少女だったのだ。


「大丈夫でござるか?」

「あっはい」


 あんまりにも世界観を無視した人物の登場に、酸欠も相まって頭が全くついていかないあなた。


「むぅ……もしや、特殊なプレイでお楽しみ中でござったか?それなら、悪いことをしたでござる」

「いや、ちがうから。おにいさんそんな趣味ないから。ノーマルだから」

「そうでござるか、よかったでござる。それにしても、一人で迷宮に潜るのは危険でござるよ?」


 そういってあなたを諭す忍者娘だが、あたりにはあなたと忍者娘意外に人影はない。


「そういう君はどうなの?」

「むぅ、拙者でござるか?拙者は忍者なので一人でも平気でござる」

「そっか、ひとまずありがとう。俺はヒカルっていうんだ」

「拙者はクレハでござる。よければ、入り口まで案内するでござるよ」

「……おねがいします」


 転生前の自分より年下の少女に頼るのはいささか情けなかったが、背に腹は代えられない。あなたはクレハの案内のもと入り口まで戻るのだった……が。


「……あのクレハさんや」

「何でござるか?」

「来た時には全く合わなかったスライム様にさっきからエンカウントしまくるんですが」

「あー。拙者、なぜだかモンスターに狙われまくるんでござるよ。おかげでスキルに挑発までついたでござる」

「格好のせいじゃないんですかね」

「しっけいな、拙者の格好は関係ないでござるよ」

「でもまったく忍んでないんですが」

「これは我が家に代々伝わるれっきとした忍び装束でござる、なにかもんくでもあるでござるか?」


 チャキっと構えられる苦無にあなたは必死に首を横へ振るのだった。命の惜しさに比べれば、忍者が忍んでないことなど大した問題ではなかった。

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