第四話「2つの正しさ」その4
第四話「2つの正しさ」その4
「お前の同期に政策局の知り合い、いる?」
市役所前で、宮本の車を見送った途端、歩美の期待は脆くも崩れ去った。
「は、はい?」
「だからさ、政策局に知り合いいるか、って聞いてんの」
なんで?
なんでわたしにはこんなに厳しいの?
泣けてくる。
政策局というと...
菜々だ。
嫌な予感しかしない。
歩美の本能は、「同行したほうが良い」と囁いている。
「あの、村井菜々さん、って同期がいま...いる...よ」
いくら同い年とはいえ、丁寧語が自然に出てきてしまって、
歩美の口調はぎこちなくなる。
「わたしも一緒に行く」と歩美が続けようとしたところで、
幸か不幸か着信が入った。
ラベルは「重要」。真田だ。
「はい、木下です」
『ちょっと課長室まで来てくれる?』
「西野さんと一緒がよろしいですか?」
『一緒が良いけれど、今、彼、どこ?』
え?
真田の呼びかけに、歩美は振り向いてみるが、
西野の姿は影も形もない。
まさか...
『とりあえず、木下さんだけでいいや。
西野さんには後で伝えてもらう。
とにかく急いで』
「あ、はい、承知しました」
嫌な予感しかしないが、
西野の宮本に接する態度が、菜々にも適用されることに、
一縷の望みを掛けて、歩美は課長室に急いだ。
「昨夜から女子小学生が行方不明になってる。
女児の住居は西地区の杉沢なのよ」
杉沢というと、今日視察した吉野町の近くだ。
今朝未明、女児の保護者から西地区の警察署に連絡があり、
同時に捜索願が出された。
保護者によれば、昨日の午後2時頃、外出したまま戻らない、という。
普段なら、夕食時には帰宅するが、午後8時頃を過ぎても戻らず、
スマホにコンタクトしたが、バッテリー切れ。
下校後の外出だったため、
普段通学カバンに付けている位置情報タグも付けておらず、
デジタル的に居場所を特定することができなくなった。
警察の協力で、女児のスマホから発した最後の信号を拾ったところ、
家の近隣にあるコンビニエンスストアから発信されていた。
店舗の屋外に設置してある防犯カメラには、女児の姿が移っており、
コンビニ前の道路を北へと歩いて行くのが分かっている。
しかし、その後の足取りが掴めない。
コンビニを中心に、北方向の各種監視カメラを警察があたっているが、
今のところ、それらしい姿は写っていない。
時刻も17時を過ぎ、女児の行方がわからなくなってから24時間以上が経過したため、
警察ではそろそろ誘拐事件も視野に動き始める、という。
そんな情報がなぜ、真田の元に寄せられたかというと、
女児が杉沢近くの特別行政区内に迷い込んでいる可能性が指摘されているからだ。
市役所と特別行政区監視の業務委託をなされているセコム両者に、
警察から捜査協力が依頼されたという。
すでにセコムは全面協力し、センサーや監視カメラのデータから、
女児の捜索を開始している。
「さきほど、宮本さんにもコンタクトして、
杉沢周辺の特別行政区、沢渡、成宮、谷戸地区を、
見回ってもらうようにお願いした。
木下さんも一緒に行くだろうと思って、宮本さん、呼んでおいたよ」
相変わらず、真田の行動は勝手だけれど、
歩美もそうしようと考えていたから、
なんか悔しい。
つづく...




