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深海の街  作者: 記章
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第四話「2つの正しさ」その1

第四話スタートです。

第四話「2つの正しさ」その1


「もう、家出してくるから!」


竹原美樹(たけはらみき)は、そう母親に叫ぶと、家を飛び出す。

確かに、母親には腹が立っているけれど、

半分はワクワクしていたりする。


美樹のマイブームは「プチ家出」だ。


といっても、9歳児の足と所持金では、どこかへ行けるわけもなく、

ただ、9歳児にとっては「遠いところ」をめぐり、

必ず夕飯の時間を見計らって帰宅する。


母親もそれが分かっているから、「一風変わったストレス発散」だと思うことにして、

美樹の行動を容認していたりする。


歩き飽きた通学路から一歩路地に入るだけで、そこは美樹にとって別世界だった。


見たことのない家が立ち並び、見知らぬ人が歩いている。

想像もしなかった場所に、すてきな公園があったり、川が流れていたりする。

9歳ながらに、「自分が部外者である」という自覚から生まれる少しの緊張感に息を潜めつつ、

それが、かえって美樹の冒険心を刺激して、足を前へと促す。


時々、迷子になって、不安になったりもするが、

その場合はたいてい大通りに出てしまえば、見知った道に行き当たってホッとする。

その時に覚える「安心感」が、美樹にとってはとてつもない快感だったりするから、

美樹はわざと知らない道へと、期待と不安で胸をふくらませながら、踏み込んでいった。


ただ、9歳児の行動範囲など、たかが知れているから、

往々にして、学校の友人や、「知り合いのおばさん」にばったり出会ってしまう。

するとそこは途端に「すてきな別世界」から「日常の延長」になりさがる。


それは、美樹にとって「冒険の失敗」を意味する。

だから、道や公園に同い年くらいの子供がいたり、向かいからおばさんが歩いてくると、

顔を伏せて、さっと通りすぎるようにしていた。


その日も、母親に学校のテストの点数で怒られたことをきっかけにして、

お気に入りのポーチに、キットカットの抹茶味を2袋と、

Suica、キッズスマホを放り込むと、さっそく家を飛び出した。


まだ時間は午後2時。

夜ご飯までは、たっぷり時間がある。


さて、どこへ行こう。


家のまわりは、ぜんぶ見てしまったし。


そうだ!

「ぎょーせーく」に行ってみるのはどうかしら。

今度、社会科見学で行くらしいから、下見よ、下見♪


美樹はスキップしながら、特別行政区へと向かった。


つづく...

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