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深海の街  作者: 記章
24/34

第三話「回遊魚は故郷の夢を見るか」その12

見切り発車は、いかんですね(^_^;)

第三話冒頭にうまく繋がらなくなってしまったので、その1も若干修正しました。

第三話「回遊魚は故郷の夢を見るか」その12


「見つけ次第、袋叩きにしてやる!」

「おぅ!」


怒号に呼応するように、警棒のようなLEDマグライトを持つ手が、いくつも上がる。


歩美たちが前に立ちふさがる形で、一旦は立ち止まった集団だったが、

今一度、自らを鼓舞するように、大声を上げた。


「待ってください!話を聞いてください!」


歩美は、人々の群れの前に立って呼びかけるが、

男たちには無視され、ついにはそのうちの一人に強く押されて、尻餅をついた。

歩美を押し倒した男は、少し驚いたような目をして、口を開きかけたが、

周りに促され、すぐに林道へと歩き出す。


10人程だろうか。

怒れる集団と化した男たちの群れは、LEDマグライトや、

水農会の旗の棒を手に、一心不乱に山を目指す。


歩美たちには、大の男を止められるわけもなく、

アリカに緊急通報をさせて、その一団を見送るしかなかった。

柳悟(やなぎさとる)には、先程から連絡がつかない。


「山狩りじゃ!」

「おぅ!」


本来は美しく牧歌的なはずの田園の夕暮れは、

男たちの怒りを具現化するように一面を真っ赤に染め上げ、

これから起こる悲劇の舞台装置と化しているようだった。


「なんで...」


なんでこんなことになったんだろう。

歩美がうつむきそうになった時だった。


ギィン!


響き渡る金属の衝撃音。

全員の動きが止まる。


「てめーら!ガキ1人に大人がたかってんじゃねーよ!」


菜々だった。

農地の柵用に置いてあったのだろうか、

手にした鉄パイプを電柱に思い切り叩きつけていた。


「なんだ、てめーは!」


すぐに何人かが菜々に応じる。


「あぁ?野郎のくせに、声が小さくて、聞こえねぇな!」

「んだと、このやろう!」


集団が菜々を囲むように集まってきた。

一番歳を取っている男性が菜々に迫る。


「おい、てめーが誰だか知らねぇが、こっちはガキ、ケガさせられてんだよ。

 それを謝りもしねーで、逃げるから、追っかけてんだ、邪魔すんな」

「はっ!なら、ガキ同士で話をさせろ!

 ガキのケンカに大人が口をだすんじゃねぇよ、ダセェ」

「うるせー!女だからって調子に乗んな!」

「へぇ、女と子供には手を上げられるんだな、立派だよ、てめーは」


最初はうまく足止めできたと思っていたが、

口論はだんだんとヒートアップしている。


パンッ!


菜々と口論になっていた男性が、菜々の頬を叩いた音だった。


「てめー!やったな、このやろう!」


菜々が鉄パイプを振り上げた時、


「はいはい!菜々おしまい!」


めぐみだった。

めぐみのアヴァター『アナスタシア』がいつの間にか空間共有になっている。

『アナスタシア』は、真冬でもないのに、真っ白な毛皮のコートを羽織り、

ロシア人少女特有の美しく、透明感のある顔をしている。

今、その宝石のような瞳はしっかりと見開かれ、菜々と男性を見ていた。

録画だ。

集団もその意味に気がついたらしく、一気に熱が引いた。


「ちょっと、皆さん冷静になりましょうね~。

 そこの男の人、ちょっと、やりすぎちゃいましたね」

「この女が変な口出し、してきたんだろうが!」

「でも、暴力の証拠は残っちゃってますし」

「てめぇ、ガキが生意気な口、ききやがって」

「あ、ガキって言うなー!めぐみは立派な社会人だ!」


歩美は、めぐみが一見冷静に見えて、ひどく怒っているのに気がついた。

菜々が叩かれたことが、よっぽど気に入らないらしい。

もちろん、歩美も頭にきていた。

菜々に手を上げた男性はもちろん、結果、菜々を傷つけた自分自身にも。

だから、かえって歩美は恐ろしく冷静だった。


「一旦、引いていただけませんか?

 これ以上、あの少年を追いかけるなら、

 わたしたちにも考えがあります」

「そーよ!パパの知り合いの警察のオジサマに送りつけてやる!」

「そんなの...」


菜々を叩いた男の声が震える。

嫌な予感がする。


「データを消せばいいだけだ!」

「まず、こいつらから袋叩きにしてやれ!」


まずい。

追い込みすぎた。

歩美とめぐみの前に、菜々が鉄パイプを持って立ちふさがる。


「やなぎーのとこまで逃げな!」


と菜々が覚悟を決めた時だった。


サイレンの音が風にのってきた。


集団も足を止め、辺りを見渡すと、

数台のパトカーが常澄地区に入ってきていた。

内一台は歩美たちの方向に近づいてくる。


するとたちまち集団は、我に返ったように、

そそくさと農道に戻っていった。



「「はぁ」」


歩美とめぐみが同時にため息をついて、その場に座り込む。

すぐにめぐみが歩美に抱きついてきた。


「あゆみん、あゆみん、あゆみん!怖かったよ!怖かったよ!」

「よしよし、めぐみ、がんばったね」


歩美がめぐみの頭を撫でる。


「おまえが出しゃばるからだろ!」


菜々が笑った。

赤く頬を腫らして、せっかくの美人が台無しだが、本人は気にも留めていないようだ。


「でもよ、助かった。5対1じゃ負けるきしねーけど、10対1じゃ五分五分だもんな」

「ひぃ!あゆみん、やっぱり菜々って怖い人だ!」


めぐみがより強く抱きつく。

歩美はめぐみをなだめながら、二人にお礼を言う。


「ふたりとも、本当にありがとう。

 わたし一人じゃ何もできなかった」

「ちがうよ。歩美が決断しなけりゃ、あたしは残ろうと思わなかった」

「そうよ、あゆみんと菜々がいれば、何とかなると思ったから、

 わたしもあんな大胆なこと、できたんだもん」


3人は笑みを交わす。


「にしても、なんでパトカーが、こんな短時間で到着したんだ?」


トラブルが起きてから、長く見積もっても20分ほどしか経過していない。

菜々が不思議そうにしていると、アリカが『着信』のジェスチャーをした。

真田だ。

視界に表示された真田は、不機嫌そうな表情をしている。


『遅い。何回掛けたと思ってるの』

「すみません、取り込み中で」

『わかってるよ、村井さん以外、ケガしてない?』

「え?」


なんで、この人は知ってるんだ?

先日の佐野の件と言い...


『ケガがないならいいんだよ。

 まぁ、今回のことは職員としては褒められたことじゃないけど、

 でも、人としては正しいことをしたと思う。

 事前にフレックス休暇にしたのは、あの状況でよく機転がきいたね』

「ちょっと待ってください。

 まさか、警察を呼んだのは課長ですか?」

『お、ご明察♪』


真田の表情が一変笑顔に変わる。


『木下さんも勘が良くなったねぇ』


全然嬉しくない。

答えの理由は分からないのに、なぜか正解してしまったクイズみたいで、

モヤモヤするばかりだ。


『大丈夫。

 成り行きは僕の方で大体話しておいたから。

 丸く収まると思うよ』


到着した警察官には、菜々が応対しているが、

真田の言葉通り、きちんと説明を聞いてくれているようだ。

因みに、菜々の手からは、いつの間にか鉄パイプが消えている。


『上にはうまく言っておくから。

 じゃ、あとはよろしく♪』


そう言って、いつものごとく、真田は一方的に通話を切った。

いつも誤魔化されてばかりだが、

いつか真田の謎の行動を、突き止めなきゃいけない気もする。


とはいえ、今回は真田のおかげで、最悪の事態にはならずに済んだ。


歩美は息をついた。


つづく...

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