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深海の街  作者: 記章
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第三話「回遊魚は故郷の夢を見るか」その11

第三話「回遊魚は故郷の夢を見るか」その11


柳は、みゆきの父と走り続けていた。

みゆきの父の話は断片的で、全体像が見えない。

早く現場に到着して、事態を把握しなくてはいけない。


そして、すぐに、警察を...。


呼べるだろうか、俺は。


もし、伝聞が本当なら、誠は傷害事件を起こしたことになる。

誠を犯罪者として突き出すことができるだろうか。


「大怪我」というのは見間違いか何かで、

本当は多少転んだ程度ではないのか?


それとも、誰かがすでに警察に通報しているだろうか。


柳は誠を責めることはできない。


柳が上京すると決めた時、誠はまだ中学1年生だった。

微妙な大人の判断を受け入れるには、まだ未熟だと柳は勝手に判断して、

きちんと話をすることなく、家を(あと)にした。


もちろん、思春期の柳と同じ悩みを、誠もいつか持つだろうと思い、

そのうち話をしようと思っていた。

しかし、その機会はなかった。


正確には、実家に帰っても、億劫に思ってしまい、

機会を作ることなく、気がつけばいたずらに時間だけが過ぎていた。

そのせいだろうか、いつの頃からか、誠は、柳に心を開かなくなった。


誠に直接確かめたわけではないが、

おそらく誠は、柳が常澄を、家族を捨てたと考えている。

そして、だからこそ、誠は、誠こそは、

家を継がなくてはならないと思い込んでいる。


あの両親のことだ。

柳に気遣ったように、誠にも「ムリしなくていい」なんて言葉をかけているはず。

「両親の心遣い」に加え、「家を捨てた柳の存在」が誠を一層縛っているのだろう。


だから、水戸市職員になってから、何度となく誠と話をしようとしたが、

誠は話を聞いてはくれなかった。


違う。

ムリにでも話すべきだったんだ。

また、自分は逃げている。

いつの間にか逃げている。


「少しくらい傷ついたって良いじゃない!

 傷くらい治るもん!

 家族だもん!」


昔、みゆきに言われた言葉を思い出す。

そうだな。

家族だから、すこしくらい傷ついても、向き合わなきゃいけない。


だから、誠のしたことを、まず、俺が受け入れる。

何があったとしても、受け止める。

話はそこからだ。


ふと目を上げると、人が集まっている。

ただ、人数は聞いていたより少ない。





「柳さん、こっちも大事(おおごと)にはしたくない」

「わかっています。状況を教えてください」


現場を仕切っていてくれたのは、水農会の会長だった。

水農会のミッションへのこだわりは強いものの、

話の通じない相手ではない。


「状況はあまり良くない。

 君は弟くんを探しに行ったほうが良い」


会長と、その場にいたメンバーによる話を総合すると、

子供同士のケンカが発端だった。


今日の水農会のデモ行進には誠の同級生が参加していた。

“優遇されなかった”家の子供だ。


学校帰りに、たまたまデモ行進の前を通りかかった誠に対して、

その同級生が罵詈雑言を浴びせた。


どうやら、同級生と誠は、

日頃から犬猿の仲だったらしく、

頭にきた誠が同級生に掴みかかった。

周りのメンバーがすぐに止めに入ったが、

もみ合っているうちに、同級生が倒れた。


倒れ方が悪かったらしく、頭から血を流して意識不明になった。

結論から言うと、ショックで気絶しただけで、

傷もかすり傷程度だった。


しかし、その子の親が激昂して、誠に掴みかかった。

誠自身も自分のしたことに対して、

パニックになっていたという。


その時、近隣住民が駆けつけて誠の加勢をしたが、

誠は突然、現場から逃げ出した。

それを、同級生の親と、血気盛んな若者が追いかけていってしまった。


先程から水農会のメンバーがコンタクトを取っているが、

無視されており、送ったメッセージも既読にならない。


「急いだほうが良い。今なら『子供のケンカ』で済むが、

 今西さんは子供のことで頭に血が上っている」

「誠、いや、少年はどちらの方に行ったかわかりませんか?」

「この農道を、北方向に駆けていったのは見ているが...」


自宅の方向だ。

道路では行き交わなかった。

もしかしたら、田んぼを挟んで入れ違いになっていたのかもしれない。

一旦、自宅に逃げ込んでくれれば時間も稼げるが。


柳は誠にコンタクトしたが、着信拒否でつながらない。

誠のアヴァター『任三(ジンゾウ)』にすら、コンタクトを拒絶されている。


くそ!


つまらないことで溝を作って、いざというときに連絡が取れないなんて。


柳は父親には、誠が怪我を負わせた同級生に付き添うように、、

母親には誠が戻ってくる可能性があるから、自宅に戻るように伝えた。


そして、「ウカノミタマ」に誠にコンタクトを取りつづけるよう指示をして、

柳は駆け出した。


つづく...

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