開かずの扉 6
集団が息をのんで、見つめる中、黒河麻華はただ無心で男に伏せさせられている女の頭に銃の照準を合わせる。
その女はこの間まで、親友だと思っていた人で、今はただの裏切り者、外道だ。
クラスメイトが、自分が助かるなら、と撃つのを止めようとしない奴や、どうしてこうなっているのかわからないという顔をした人もいる。だが、皆一様に口を噤んでいた。
我が教会の制服を着た屈強な信者の睨みによって。
……そう、私は虚無天使教に入信したのだ。
……それは置いておく。
今は目の前の裏切り者を殺……改心させることに集中しなくては。
そうして、引き金に指をかける。外さないし、外れない。
指に力を籠めようとして、思い出すのは朝のことだ。
私は、裏切り者が親友だったならばどうするのかをその裏切り者…その時はまだ容疑者ではあったのだが、本人に聞いた。
返ってきた答えはこうだ。
『わからない。』
思い出したのはそれだけ。それだけで指が石になってしまったかのように固まって動かなくなる。
何故。あれは裏切り者だ。即刻……。
…悩むな、あれは裏切り者だ。そう、裏切り者。
……こう言うときはいつもどうしていたっけ?何か行動指針になるものがいつもあったはず。
「オイ? 何をしている。」
裏切り者に銃口を向ける男が急かすような声音で問う。
それはそうだ。私は、左手をポケットに入れて、そこからカードを数十枚取り出したのだから。
忘れていた。悩んだらこのカード達に頼っていたことを。
──どこに悩む必要がある? 裏切り者を撃つのを躊躇う必要など何処にあるんだ?
自問する。だが、それに明確な答えはない。でも、信じた天使の命を疑ったら、全てに信用が置けなくなった。
裏切者も天使信者も。
カードを真上へとまとめて放り投げる。投げたら左手は銃へと戻した。
纏まった塊が天井に衝突し、ばらばらと落ちる。厚紙のため、床に落ちるまでは早い。
その中に一枚制服のポケットに吸い込まれたカードがあった。
左手でそれを眺める。
『射撃!!』
それをみて、私の顔が青ざめる。そんな感覚すら覚える。
だが、最初しようとしたことと同じ。それにクラスのみんなを見逃してくれるという。
私は、少し迷い、引き金を引いた。
銃声が、私の迷っていた心を掻き消した。
カードをばらまいた辺りから、麻華に表情が出て来ていた。そんな気がする。
私はただで撃たれるつもりなんて無い。
麻華にあった表情は暗いものとはいえ、銃を受け取ったときの無表情からすれば表情が出たといえる。
撃たれる点をずらすんだ。
何でか、カードをみた後の麻華に、ごめん、と謝られた気がして、確信できた。
蜃気楼、でずらすんだ。
そして銃口から光と音が。
「がっ!!!??? ぐぁあ!!!? 何故俺を撃った!!?」
銃を持つ腕。男の腕を穿った銃弾。
賭けに勝った。やはり、魔力無効は直接触れるほどの近さでしか発動しない。
私がしたことは一つ。水蒸気で光を曲げ、うまーい感じで頭を一つ分ずらした。
カードを投げる一瞬に、蒸気を張った。そうするためにかなりの魔力が、粉微塵にされたり、制御するのに消費した。
でも、出来るかはやってみるまでわかんなかった。でも、成功を確信していた。
麻華は頭一つずれたところを見ていたからだ。
………他の人からみれば、ただ、麻華が外したようにしか見えないだろうけど。
銃口が私から外れる。
銃を男は取り落としたのだ。だが男の怪我した腕に構わず、構うはずもなく。
その撃たれた手を引きずり落とし、顔面をもう一方の手で掴み床に叩き付ける。
ここで呆けていた他の白服どもがはっとして、麻華に照準を合わせるが。
柚里はその動作に気付いて魔法を使おうとするが、発動が間に合わない。
あえなく引き金が引かれる。
しかし彼らの銃は既に銃口が歪み、余波で多少中身まで歪みが及んでいることを忘れてはいけない。
手元の銃が揃って暴発する。被害は殆ど無く、ただ、発砲出来なかっだけだが。
この瞬間に結果は決まった。
その一分後、ガムテープでぐるぐる巻きにされた襲撃者の姿があった。
「君が、ここの集団でトップクラスの実力者のようだね?」
階段を下へと行こうとした村上咲。しかしながら後ろから発された声、何より気配に驚き凍りつく。
発言されるまで気付けず、発言した後には何よりも強大な気配を伴ったその声に。
ぎこちないながらもゆっくり振り返る。
「何の、用ですか?」
声の主は、車椅子に乗る白いローブを着た餓死体だった。
………否、あれは生きている。
「くくっ…まあ。警戒するな。せっかく教祖から話を聞けるのだよ? 為になる話だ。聞いたとて損は。しないだろう。」
─教祖─自分から教祖などと言ったのだ。まだ見てないとは言え高校に危険な集団が入っているのだ。もう警戒しない理由はない。それに。
「私にはそんな為になる話を聞く暇は無いんです。ここであなたを捕まえてしまえば、この騒ぎが鎮まると思いますし?」
死体のような顔の口。閉じていた口が不自然な開きを見せ、高笑いをする。
「はっはっは…その通りかも、しれんなぁ。」
そうして、コロコロと車輪が転がる。
そして男は消えた。
「ま? 捕まえられればいいがなぁ?」
背後。耳元に感じる声。
しかし、背後を振り返れば何もない階段が広がっていた。
「………………。」




