心の鬼退治 2
黒鬼に攻撃する。こちらが攻撃しているはずなのにいつの間にか相手に攻撃されている。
このままでは黒鬼に傷を負わせるなんて出来ない。
どうするか、黒鬼の猛撃の間に思考を巡らす。
「おらよっ!」
黒鬼の突きをまた大きく飛び退いて距離を取ることで、思考の時間を稼ぐ。
『妨害は任せてください!』
黒鬼が一気に距離を詰めようとすると、地面から棘が突き出して進路を妨害する。魔力源は俺だが、操作はアイだ。
──そうだ、精神的には二対一だ。
俺は深く深呼吸すると、刀に魔力を込める。
イメージは義腕と同じ様に、体の一部として扱うように。同時に何歩か下がる。
刀の切っ先を地面に付け、また脇構えのように構える。
そのまま俺は黒鬼に走って近づく。刀を引きずって。地面に切れ込み、直線を刻みながら。
一方の黒鬼は土の棘に阻まれたがそんなものはいっさい意に介さず、通るのに邪魔なものを最低限、握り、折っていた。
かなりの距離、棘を生やし、また、黒鬼の前後かまわず生やし続けているので黒鬼自体はゆっくり近づいてくる。
俺は俺側の棘の端まで、刀を真っ直ぐ真上まで斬り上げる。刹那、刀が描いた直線の周りの土ごとごっそり消失する。
刀は斬り上げられる。
その道に合わせて土が盛り上がる。いや、出現したと言うべきだろうか。
その土の波は一直線に棘を砕くことなく飲み込み、決して早いとはいえない速度で進行する。
棘を砕かない。砕けば音が出る。まあ、不振な音はしただろうが、同時にアイが爆音が発生する棘を黒鬼が折った棘に幾つか組み込んだようで、それでかき消された。ナイスアシスト。
黒鬼が悠長に棘を降り、爆音に苛立ち、遠くを見渡せば、土の横に薄い波が近寄って来るではないか。
「あンなモンで殺せるなンて思ってやがるとは舐められたものだなァ」
しかし、土に何か危険なものを感じる。
黒鬼は普通の人間とは違う。
その目は千里を見渡し、その耳は海の底の音を拾い、その手は砲丸を握りつぶし、その足は車すら追いつけない。
そう言われる程の性能である。多少誇張気味で、しかもこれが出来る魔導師も居ないわけではないが。
その目で土の表面を凝視する。
すると鬼を刻まんとする薄い波は刃が何枚もあるではないか。一枚一枚がチェーンソーのように回転し、しかも一枚一枚が別方向の駆動をしている。全部上下だが。
これほどの技術、黒鬼を殺すまではなくとも大きな怪我を負わせることが出来るだろう。
「!?ガキにこんなことが!!?」
実際はアイが上下に動く部分を仕切っているわけだが、そんなことは秋も黒鬼も知らない。
周囲を見渡し、どこもかしこも棘だらけ。ゆっくりだが確実に迫る土の波に、黒鬼は焦り力任せに腕を振るう。
振るった腕に当たった棘は抵抗なく全てへし折れる。
そのすぐそばから生えてくる無数の棘。いやらしくも黒鬼が当たる位置には生えなくとも、移動を出来なくさせる程度には周囲に生えていた。
「チィッ!!」
黒鬼は舌打ちし、棘を見る。右方向が薄い。
棘の段幕が薄いように見えた右に肩からタックルするように走る。
黒鬼は遊びのつもりだ。
本命が来るまでの繋ぎ。そんな所で怪我はしたくないし、するつもりもない。
だから棘に触れて怪我をするつもりはないから握ってへし折っていた。
それに土の波にも当たるつもりはない。追尾性があるかもしれないので思い切りよけた。側面はよく見えないが警戒すべきだ。
秋の魔法が黒鬼を警戒させた。
黒鬼は思い切り走る。棘の中には音がなるものがあるようで、聴力の良い黒鬼はそれだけで耳がおかしくなる。
だが、そんなもので止まるはずがない。
黒鬼は棘の中を抜けきった。周囲が開けたその瞬間。
背に深い斬撃を受けた。
棘の折れる爆音を聞きながら思い切り走る。周囲には数多の木がある為直線上ではない。
一応だが棘の圏内の木には棘を生やしている。
とあるポイントに止まる。
「……ここに誘導してくれないか?」
俺は木の葉生い茂る木の下でアイに小声で言う。
『あー、いいですよ。』
簡単に了承した。
そして、俺は木に登り、黒鬼が抜けてくるのを待った。
出てきた黒鬼が足下を過ぎる。
──…よくもまあ、気付かれずに誘導出来たな。
その瞬間乗っていたちょうど良い木の枝から飛び降りる。
そのまま落下エネルギーを利用して黒鬼を切り裂いた。
かなりの引っかかりを覚えたが、全体重と落下エネルギーと魔力による強化で強引に押し斬った。
───……はっきり言って物凄く固い。どうなってやがんだよ。
黒鬼は前進運動の途中に背中に斬撃を受けたので、勢いよくずっこけた。
この機を逃しはしないと、俺はその背中に、正しくは背骨の辺りに刀を全ての体重かけて押し込む。
腹の方まで貫通するほどに突き刺せば、刀を捻り、アイが。
『爆裂いきますよー』
と宣言すると、黒鬼の体、特に刀を刺した辺りが赤く、鉄を熱したときのように赤くなり。
────破裂した。
その勢いで俺も跳ね飛ばされる。
刀を両手で掴んだまま。
そして、俺の魔力が底をついた。その初めての感覚驚きつつ、詰まらぬことを考える。
───何で幻覚がこんな凄いリアリティをもってるんだ?実際は一秒に満たないんだろ?幻覚というより夢じゃないか。
『まー、二回目以降は原作よりアップグレードってかんじですよ。見た感じ沢山まわったみたいですしこれくらいは応用聞ききますし。』
『まー、学習能力の綻びをついて崩壊させるって作戦は実は初めてで、結局元凶潰しちゃったし。終わったことは気にしない方が良いですよ。』
そして、刀を見ると、突如眠気が襲ってくる。
吹き飛ばされてる空中で。
その猛烈な感覚に押しつぶされるように目を閉じた。
爆裂の音が耳に残ったまま。




